表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
成り行き英雄建国記 ~辺境から成り上がる異種族国家~  作者: てぬてぬ丸
第十四章 真相の章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

852/853

治癒(白鯨城)

誤字報告ありがとうございました。

 白鯨城の中は血の匂いで満ちていた。うめき声と荒い息があちこちから聞こえてくる。


 白鯨城の中は多くの負傷者で埋まっていた。彼らは強薬丸でほとんど痛覚が麻痺しているため、普通の負傷兵のように悲鳴を上げる者は少なかった。逆に致命傷を負っているにもかかわらず起き上がろうとして、治療班に抑えられている者もいる。


 そんな負傷者たちの間をマサトラが歩いていた。ときおり声を掛けながら、肩を叩いたり手を握ったりして負傷者を励ます。そんなことを続けながら、マサトラは奥へと進んだ。


 奥には布団が敷かれ、大柄な男が寝ている。周りにスペースが開けられており、他の負傷者たちとは明らかに扱いが違った。


「生きているか、タケナオ」


 声を掛けながらマサトラは寝ている男――タケナオの隣に座り込んだ。タケナオは仲間の裏切りから身を挺してマサトラを守り、負傷していたのだ。


「マサトラ様……」


 タケナオは目を開け、身を起こそうとする。しかしすぐに痛みに顔を歪めた。


「馬鹿者! 寝ていなさい!」


 マサトラが心配してタケナオを叱りつける。タケナオの体には包帯が巻かれており、大きな赤い染みが出来ていた。


「申し訳ありません……戦いは……どうなったのですか?」


 弱々しい声でタケナオが尋ねる。その顔は青白く、唇も血色を失っていた。


「もちろん勝ちました。ですから安心して体を休めてください」


 マサトラが言うと、タケナオは少し表情を緩めた。


「マサトラ様」


 そこに白衣を着た医療班が近づいてくる。その白衣は血に汚れて赤黒くなっていた。


「どうですか、容態は?」


 マサトラが尋ねると、医療班の男はマサトラの耳元に顔を近づける。


「出血は収まっていますが、失った血が多く、また内臓も傷ついております。ここ数日が山かと……」


 男が小声で言う。


「……そうか」


 マサトラは言葉少なに頷いた。


「マサトラ様、どうか私の一族の事を……」


「わかっています。あまりしゃべらないでください。傷に障ります」


 話そうとするタケナオをマサトラが止める。


「マサトラ様!」


 そのマサトラに一人の兵士が近づいてくる。その兵士も頭に血のにじむ包帯を巻いていた。


「アデル王がいらっしゃいました」


「そうですか。では私の私室の方へ……」


「いえ、それが手当の手伝いを申し出ておりまして……」


「手伝いを?」


 話を聞き、マサトラは怪訝な表情になる。


「わかりました。ではとりあえずこちらへ通してください」


「承知しました」


 兵士は頭を下げ、走り去っていった。


「さて……私も少しでも作っておかないと」


 マサトラは部屋の隅を見る。そこには器に入った様々な薬が置かれていた。粉末状の物や乾燥した植物、何かを抽出したらしき緑や茶色の液体などがある。


 それらはマサトラが用意した薬の原料だった。強薬丸の材料でもあるが、配合によっては麻酔として使えたり感染症を抑える薬ともなる。新田家にはあまり医学の知識がある者がおらず、マサトラ自らこうした薬を調合していた。


「し、失礼します」


 しばらくすると、緊張気味にアデルが部屋へと入ってくる。その足元にはポチ、そして後にはイルアーナをはじめとした十人程のダークエルフがいた。


「おぉ……」


 兵士たちから感嘆の声が漏れる。詳しい事情は知らぬものの、ダルフェニア軍が何らかの関与をしたことで戦況が一変したことは知れ渡っていた。


「これはこれはアデル殿。戦だけでなく、治療にも手を貸していただけるとはありがとうございます」


 マサトラは立ち上がると、アデルに声をかける。


「いえいえ、困ったときはお互い様ですから。治療させてもらってもいいですか?」


「ええ、どうぞ」


 アデルに問われ、マサトラが頷く。ダークエルフたちは負傷者を見て回り、傷の深そうな者の脇にしゃがみ込んだ。


「よ、妖術か?」


 負傷兵の一人が不安そうに呟く。新田家はあまり魔法とかかわりが無く、一部の魔物が使うものだという認識だった。


「好きに呼べ」


 ダークエルフは愛想なく言うと、手をかざして治癒魔法を使い始める。その暖かさに驚いた負傷兵だったが、すぐにその顔が和らぎ始めた。額には汗が浮き出ている。治癒魔法で代謝を刺激されたことで体温が上がっているのだ。


「じゃあポチ、そこのタケナオさんを」


 アデルはタケナオを指さし、ポチに言う。ポチは頷くと、トコトコと寝ているタケナオの脇まで歩いて行った。


「彼は重体なんです」


 目の前に座ったポチを見て、マサトラは少し不安げに言う。


「見ればわかる」


「……治りますか?」


「見てれば分かる」


 素っ気なく答えながらポチはタケナオへと手をかざした。


 そこにアデルが近づいてくる。マサトラは少し抗議するようにアデルを見るが、アデルはマサトラを安心させるように笑顔を浮かべて見せた。


「……終わった」


「は?」


 ポチの呟きにマサトラは呆気にとられる。


「生命力の強い人で良かったね」


 ポチはそう言うと立ち上がり、仕事は終わったとばかりに部屋の隅に歩いて行った。


 マサトラが入れ替わる様にタケナオの脇にしゃがみ込む。タケナオは汗ばみながら眠っていた。だが先ほどまでより明らかに血色がよくなっていた。


「こ、これは一体……」


「治癒魔法です。要するに……身体が傷を治そうとする力を高めた、みたいな」


 アデルが大雑把に説明する。マサトラは信じられないといった様子でタケナオの顔を凝視した。


「でも傷を消せるわけではないので、怪我が完全に治るまでは安静にしててくださいね」


「わ、わかりました」


 アデルの言葉にマサトラはコクコクと頷いた。

お読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ