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成り行き英雄建国記 ~辺境から成り上がる異種族国家~  作者: てぬてぬ丸
第十四章 真相の章

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脳(伏岸)

 戦いが終わり、アデルたちは一度オクロス号へと戻る。神竜騎士に数名の負傷者が出ただけで、ダルフェニア軍の損害はほぼ無かった。


「おかえり」


 アデルがオクロス号の甲板に行くと、気の抜けた声が出迎えた。見るとポチがしゃがみ込んでおり、他の神竜娘たちも何かの周りに集まってしゃがんでいた。


「アデルさん」


 アデルの姿を見つけ、人間の姿になったヒミコが近付いてきた。


「ついカッとなって……少々やり過ぎてしまいましたわ」


 ヒミコは少し恥ずかしそうに言う。


「いえ、そんなことないですよ。助かりました、ありがとうございます」


 アデルはペコリと頭を下げた。


「ところで……みんな何を見てるんですか?」


 アデルはポチ達の方を見る。ポチ達はなにか黒いものの周りに集まっていた。


「その……私がやり過ぎてしまった跡です」


「跡?」


 アデルは小首をかしげながらポチ達のもとに近づく。


「げっ……!」


 近付いてみて、アデルはそれが何なのかを理解した。


 それは焼け焦げたセラフィムの死体だった。髪の毛や背中の翼は焼け落ちてしまっており、全身の表面が炭化している。ところどころ炭化した表面が割れ、赤い血が流れだしていた。


「間違いない、やはり変異体じゃな」


「変態さんなの!」


 ピーコとひょーちゃんが指で死体をツンツンと突きながら言う。


「体の表面は人間とあんまり変わらないけど、筋肉や骨の密度が全然違う」


 ポチがボソボソとセラフィムの体の構造について話す。


「特に違うのがコレだね」


 ポチはセラフィムの背中を指さす。背中の中心、燃え尽きた翼の根元当たりだった。炭化した表面が剥がされ、ピンク色の丸いものが見えている。


「な、なにそれ……?」


 グロテスクな光景に目を背けながらアデルが尋ねた。


「脳みそ」


「え?」


 ポチの言葉にアデルは驚いてそれを確認する。ピンクの物体は言われてみれば脳みそのようにも見える。しかしそれは拳ほどの大きさしかなかった。


「脳って……人間の?」


 アデルが尋ねると、ポチが小さく首を振る。


「違う。鳥の」


「鳥?」


 訳が分からずアデルはポカンとした。


「翼を動かすのに使っていたんだろうね」


「え? この翼ってこの人のじゃないの?」


「そんなわけないじゃん。大きな鳥の翼を背中に植えて、それを制御するためにこの脳みそも植えたんでしょ。人間の脳じゃ翼の動かし方なんてわからないだろうし」


「う、植えた……?」


 アデルは話を聞き、愕然とする。


「じゃが、ほとんど魔法で飛んでいたようじゃったぞ?」


「自分の脳じゃないからね。大雑把な命令は出せるんだろうけど、細かい動作は無理だったんじゃない?」


 ピーコに言われ、ポチが答える。


「つまり……この翼は役に立たぬということか?」


 アデルの後ろで話を聞いていたイルアーナが尋ねた。


「滑空くらいはできたじゃろうけどな。そもそもこの翼でコイツを飛ばすのは無理じゃ」


 ピーコがポンポンとセラフィムの体を叩きながら言う。セラフィムは見た目は華奢だが、その体重は同じ体格の人間の数倍あった。それで空を飛ぶにはハーピーの倍以上の大きさの翼が必要だろう。


「なぜそんなものをわざわざ付けたのだ?」


 イルアーナは眉をひそめる。


「たぶんですけど……」


 アデルが恐る恐る口を開く。


「ラーベル教の神像に姿を似せるためじゃないでしょうか」


 アデルは何度か見たラーベル教の女神、ベアトリヤルの神像を思い出す。それは背中に翼を生やした、美しい女性の像だった。


「なるほどな。教徒たちを騙すためにこんな手の込んだことをしたのか。慈愛の神ではなく、詐欺の神を名乗るべきだな」


 アデルの話を聞き、イルアーナは納得する。


「それよりポチ、負傷者の手当てをするから手伝ってくれない?」


 アデルはポチにお願いする。アデルが船に戻ってきたのはポチを連れて行くためだった。


「う~、わかった」


 ポチは面倒くさそうにしつつも了承する。


 そしてアデルはポチを抱えて再びオクロス号を降りていった。

お読みいただきありがとうございました。

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