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カウントダウン

 捕虜となっていたダークエルフたちを解放したアデルたちは二手に分かれることにした。アデル、イルアーナ、ポチ、ピーコはプリムウッド族に会いに絶望の森へ入り、フレデリカは負傷したダークエルフたちと共に近くの森へ隠れ潜むことになった。ついでに物資や馬車も持っていけるだけ持っていき、フレデリカたちが森へ隠す。


「一週間で戻って来なかったら、あたしらはズラかるよ。この物資ももらっていくからね」


 フレデリカがアデルたちに言った。その部下たちは後ろで装備品を物色している。


「我らの傷も一週間もあれば治るだろう」


 ギディアムがそれに続く。彼らも治癒魔法は使えるが、自然治癒力を高めるもので一瞬で傷がふさがるというわけではない。


「イルアーナはわかっているとは思うが、族長は頑固だ。ここにいるものはお前たちに命を救ってもらった恩があるから耳を貸したが、一族を説得するのは困難だぞ。そしてもしお前たちが一族を説得するのに失敗したときは、俺たちも一族と運命を共にする」


 ギディアムの言葉に他のダークエルフたちも頷いた。


「わかりました。念のためGPSを渡しておきます」


 イルアーナが首にしていたネックレスを外し、ギディアムに渡した。アデルも首に似た物を付けている。風魔法による通信の目印として渡された物だ。


「GPS!?」


 異世界らしからぬ単語を聞き、アデルは思わず声を上げた。


「ああ。ガイド・プレイス・ストーン――風の精霊に居場所を伝えるための石だ」


 イルアーナが解説してくれる。


「な、なるほど……」


 そう言いながらも若干、納得のいかない表情でアデルは呟いた。




 闇の中を二頭の馬が駆ける。前の馬にはイルアーナとピーコが、後ろの馬にはアデルとポチが乗っている。アデルに乗馬の経験はなかったが、ポチが馬を「説得」してくれたため、大人しくアデルの言うことを聞いてくれていた。


(ポチは動物と意思疎通もできるのか……さすが白竜王……)


 アデルたちは敵の本体を迂回して、東側から絶望の森に入ろうとしていた。馬は夜目が聞く生き物のため、暗くても問題なく走っている。遠くに東側を警戒するカザラス兵たちの野営地が見えた。


「ずいぶん、警戒が薄いな」


 無事に森までたどり着き、速度を落としたイルアーナが呟いた。


「むしろ森からダークエルフが出てきて戦ってくれた方が戦いやすいからですかね」


 後ろに付いているアデルが思い付きを口にした。


「あり得るな。エルフが指揮を執っているなら、人間を囮にダークエルフを誘い出すつもりなのかもしれん……それでギディアム兄さんたちはやられたのかもな」


 野営地の明かりを一睨みすると、イルアーナとアデルの姿は森の奥の闇へと消えていった。




「これだけの人数が味方に知らせることもできずにやられたと?」


 翌朝、牢周りの惨状を見たエルフの女王ロレンファーゼは表情なく独り言のように言った。


「負傷して檻に入れられたダークエルフの見張りくらいは人間にも出来るかと思ったのですが……こちらにも我々の人員を割かねばなりませんでしたか」


 ロレンファーゼの腹心、ラズエルがため息交じりに呟いた。


「ふ、ふざけるな!」


 それが耳に入った重厚な鎧を着た中年の男、ケルナー准将が声を荒げた。エルゾのガスパー将軍の部下で、絶望の森攻略のカザラス軍の指揮を執っている。


「騒ぎになるどころか、ろくに抵抗した痕跡すらない。魔法が使われたとしか考えられん。ダークエルフどもが魔法を使ったら、貴様らが感知できるという話だったではないか!」


「魔法は使われておりません。抵抗した痕跡がないのは、友軍に化けたのでしょう。これだけ大勢いれば、一人一人の顔など覚えられないでしょうからね」


 怒気に満ちたケルナーのことなど物ともせず、冷たくロレンファーゼは言い放った。


「焚火の周りの兵はそれで説明がつくかもしれん。だが周囲の警戒に立っていた兵はどう説明する? 皆、頭部に矢の一撃をくらって死んでいたのだぞ」


「夜目が利き、弓の腕が確かならばありえますよ。実際、私は弓であれば一度も狙った標的を外したことはありません。ですから仲間からは”天雷”などと呼ばれております」


 ラズエルが自身の弓の腕前を誇る。


「ダークエルフは狡猾です。一度撃退できたからと言って、警戒を緩めないでいただきたい」


「くっ……」


 ロレンファーゼの言葉に、ケルナーは顔を真っ赤にして押し黙った。まったく納得はしていなかったが、口では勝てないうえに、ロレンファーゼは大将格として軍に迎えられており、立場的にはケルナーよりも上だったからだ。


「承知した!」


 ケルナーはこれ以上は無駄だと悟り、きびすを返して去っていった。


「……どう思いますか、ラズエル?」


 ケルナーが去り、改めてロレンファーゼがラズエルに問う。


「いろいろと引っかかることがあります。魔法が使われたと疑う気持ちもわかります」


「ダークエルフの捕虜を連れ去ったということはダークエルフの仲間だということでしょう。しかしそれでは補給物資を盗んだことがわかりません。あんな目立つものを森に運んでいればさすがに見つかっているはず。なぜこの場で燃やさなかったのでしょうか。もしや背後に別動隊が……?」


 ロレンファーゼは形の良い眉をひそめた。


「周囲に潜んでこちらの背後をかき回すつもりなのかもしれませんが……足跡も馬車のわだちも無数にありすぎて、襲撃者の行方が特定できません。兵を割いて周辺を探索させますか?」


「いえ。数日中には絶望の森は落ちます。相手が攪乱に力を入れるのもそれを遅らせるためでしょう。相手の思惑に乗ってさし上げる必要はありません。」


「では警戒だけは怠らず、まずは絶望の森の攻略に力を注ぎましょう」


「森を囲んでいる兵を南に集めてください。もはや西のダークエルフに通信されようが、彼らには何もできません。戦力を集中させ、一気に森を落とします」


「まさかとは思いますが、彼らが森を捨てて逃げ出す恐れもあります。偵察のための騎馬隊だけは残されたほうがよろしいかと」


「いかに愚かなダークエルフとて、二度もそのような醜態をさらすことはないかと思いますが……まあ良いでしょう、そうしてください。森を出て野垂れ死ぬ彼らを見るのもまた一興ですけどね」


「承知いたしました」


 ラズエルがロレンファーゼにうやうやしく礼をする。


 絶望の森陥落の時は間近に迫っていた……

お読みいただきありがとうございました。

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