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成り行き英雄建国記 ~辺境から成り上がる異種族国家~  作者: てぬてぬ丸
第十四章 真相の章

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秘密(白鯨城)

 食事が終わり、アデルとマサトラの会談は和やかな雰囲気となっていた。


「そういえばイルヴァ殿からアデル王は平民出身と聞きましたが、どうして王となったのですか?」


 マサトラが不思議そうに尋ねる。


「う、う~ん、別に目指してたわけじゃないんですが……」


 アデルは返事に困った。


「なんか周りの人たちにやれやれと言われて成り行きでこうなりました」


 苦笑いを浮かべながら、アデルはポリポリと頭を掻いた。


「アデル王は人を見る目も確かだと聞きました。確かに我が配下に対する、アデル王のお言葉は的確だったと思います」


「い、いや、すみません、言い過ぎちゃって……」


 マサトラの言葉にアデルは頭を下げる。


「いえいえ、事実ですよ。我々の間では武勇を誇れる者こそ偉いという認識があります。ただ一兵卒であればそれでよいのですが、人を導くことは腕っぷしだけではどうにもなりません。それどころか反対する者を力づくでねじ伏せたことを武勇伝として語る始末。そして領地を運営していくのであればなおさら武勇など関係ないのですが、家臣は皆まつりごとが苦手です。国の発展のために頭の回るものを領主の座に就けたいのですが、戦で功をあげていないものを取り立てようとすれば皆が反発します。どうにもやりにくいですよ」


「まあ戦争中だとそうなっちゃいますよね」


 沈痛な面持ちで語るマサトラにアデルは慰めるように言った。


(不思議な男だな……)


 マサトラは俯きながら、アデルを盗み見る。


(他国の王が話し合いを求めていると聞いたときは、武力に物を言わせて威圧してくるか、はたまたこちらに媚びてくるかのどちらかと思ったが……この男はどちらでもない。見極めてやろうかと思ったが底知れぬ考えがあるのか、それとも見た目通り素直で単純なのかまったくわからぬ。逆に気味が悪いな)


 マサトラはアデルに不気味なものを感じていた。


「でもマサトラさんはいかにも武将って感じじゃないですよね。お会いする前はもっと怖い人なのかと思ってました」


 アデルが笑顔で言う。それを聞いてイルヴァとニコラリーはぎょっとした。受けて次第では失礼と思われかねない言葉だったからだ。


「ははは、なるほど」


 しかしマサトラが笑ったのを聞き、二人はほっと胸をなでおろした。


「私はね、研究者になりたかったのですよ」


「研究者?」


 マサトラの発言はアデルにとって意外だった。


「ふふ、驚きましたか? 私は草花が好きな少年でね。子供のころは城の周りの草原で一人で植物を観察して遊んでいました。ずっとイズミでは戦いが続いています。人殺しなどしたくないと思うのは当然でしょう。しかし新田家に生まれた私にそのようなことは許されませんでした」


 マサトラは懐かしそうに語る。


「そういえば……」


 アデルは船で持ってきた積荷を思い出す。マサトラと会う条件として要求されたのは、大量の毒性を持つ植物だった。


「あなた方にお願いしたのは、その頃に得た知識を生かすためのものです」


「毒を敵に対して使っているんですか?」


 アデルは顔を強張らせながら尋ねた。


「ええ。いけませんか?」


「いけないってことはないんですけど……あんまり正々堂々としてないというか……」


 まったく悪びれた様子のないマサトラに、アデルは困りつつ恐る恐る答える。


「ふっ、市ケ谷や草薙のような物言いですね」


 マサトラは対立する他家の名前を出し、鼻で笑った。


「我々の戦いは競技会ではない。殺し合いなのですよ。より強力に、より確実に敵を殺さなければ自分が死ぬことになる」


 マサトラの目が鋭く光る。


「そ、そういえば殺された人が何か薬を飲もうとしてましたが、あれって……」


「ほう、気付きましたか」


 戸惑うアデルにマサトラはニヤリと笑いかける。


「あれは毒ではありません。いや、毒と言えば毒ですが……」


 マサトラは懐から小さな包み紙を取り出す。そしてアデルにそれを開いて見せた。


 紙の上には小さな黒い粒が三つほど乗っかっていた。


「……これは?」


「これは私が作った強薬丸(きょうやくがん)です。我が兵士たちの強さの秘密ですよ」


「強薬丸……?」


 アデルはその黒い粒を茫然と見つめた。


お読みいただきありがとうございました。

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