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盗賊たちの処分

 アデルたちの目の前には6人の男が座っていた。そのうち二人はイルアーナの魔法に腰を抜かし、戦わずに降伏した。


 盗賊たちは8人いたが、2人は逃げたようだ。それともう一人、アデルの投げた石に当たった者がいるはずだが、どうやら彼も逃げたようだ。


 アデルたちはロープなど持っていなかったので、武装を解除しただけで縛られたりはしていない。


「ふん、殺すなら殺せ!」


 リオは悪態をついた。他の者は恐怖に震えるばかりだ。


「他の者はともかく、こいつは殺すか」


「そうですね……危険度も高いですし……」


 リオの態度を見てアデルたちは話し合う。


「ま、待て! ズルい! 俺だけ殺すなんてズルい!」


「卑怯者が何を言う」


「俺は死にたくないんだ! どんな手だって使うさ!」


 リオの言い分にイルアーナの目がさらに冷たくなる。


「お、お願いです、どうかお命だけは……」


 ミルドはイルアーナの機嫌が悪くなったことを察し、土下座して懇願した。


「う~~ん……イルアーナさん、ちょっといいですか?」


 アデルはイルアーナを手招きして、少し盗賊たちと距離を置いてた。


「なんだ?」


「あの……彼らに少しお金を貸してあげることはできませんか?」


 自分の提案にイルアーナは猛烈に怒るかとアデルは思っていたが、想定していたのかイルアーナは大きくため息をつくだけだった。


「わかっているとは思うがあいつらは私たちを殺そうとした。私たちが許したとしても、彼らを野放しにすれば新たな犠牲者も出るかもしれない」


「ええ、そこは十分言い含めて……」


「口約束をさせるだけでは信用できん。監視を付けられるわけでもないんだぞ」


「大丈夫です。彼らは家族や恋人がいると言っていましたよね。もし約束を破れば危険が及ぶと脅せば……」


「どこにいるかわからんだろう。案内させる気か?」


「あ、それはもうわかっています」


 イルアーナは訝しげにアデルを見つめる。


「……それは魔法か何か使ったのか?」


「そうなのかな……自分でもよくわからなくて……」


「まあ、おまえならそういう魔法が使えても不思議ではないが……」


(本人はすごく不思議なんですけど)


 アデルは相手の能力や名前が何となくわかる能力だとイルアーナに告げた。


「相手の能力がわかるというのはまだわかるが……名前や所属というのは……心を覗くような魔法か……?」


 イルアーナは首をひねった。


「まあいい。わかった、お前の力が本当か確認するためにもお前の案に乗ってやろう」


「ありがとう」


 二人は盗賊たちの元に戻る。


「ミルドさん」


「は、はい!……えっ、どうして私の名前を……?」


「みなさんはマライズ村に住まれているんですよね?」


「なっ……!?」


 ミルドたちの目が驚きに見開かれた。


「ま、まさかダークエルフの黒魔術で心を……?」


 恐怖に満ちた顔でミルドたちはイルアーナを見た。


「……どうだかな」


 イルアーナは冷たい表情のままはぐらかした。


「お、お願いします! どうか家族には手を出さないでください!」


 ミルドは再び土下座をする。


「わかりました。今回は見逃しましょう」


 アデルの言葉にミルドは顔を輝かせる。


「ただし、二度と悪事を働かないように。もし約束を破れば、村ごと焼き払います」


 優しい顔をしたアデルとその言葉の内容の温度差に、ミルドが顔がこわばる。


「も、もちろんです……」


「それと、お金をお貸しします」


「え?」


「差し上げるわけではありませんよ。真面目に働いて必ず返してください」


「は、はぁ……」


 予想外の申し出にミルドは話を飲み込めず生返事しかできなかった。


「何か問題でも?」


「い、いえ、ありません!」


 ミルドは恐怖に顔を引きつらせた。




 去っていく元盗賊たちの背中を見送る。空はすでに明け始めていた。


「やれやれ……お前もお人良しだな」


「すいません……」


「奴らは被害者ぶって役人に報告するかもしれんな。相手がダークエルフとなればすぐに信じるだろう。それに一緒にいた、異常に強い猟師……おまえのこともすぐわかってしまうかもな」


「あぁ……そこまで考えてませんでした……」


「まあ、かまわん。どうせすぐ我々のことは広まるだろう。なんせヴィーケンを敵に回して王国を立ち上げるのだからな」


「は、はぁ……」


 盗賊相手でもこんなに大変なのに、国を相手にするなど自分の精神は持つのだろうか。アデルは頭が痛くなった。


 しばらく沈黙が訪れる。


 その沈黙を破ってイルアーナが話しかけてきた。


「……さっきはすまなかったな」


「え? 何がですか?」


「おまえ一人に戦わせたことだ」


「あぁ……」


 アデルは先ほどの戦いを思い出した。


「私は……怖かったんだ」


 イルアーナの意外な告白にアデルは驚いた。


「怖い? あの盗賊がですか?」


「いや……人を殺すことが、だ。私はまだ人を殺したことがない。国を立ち上げるとなれば戦争は避けては通れぬだろうが……私もお前と同じだ。まだ覚悟ができていない」


 イルアーナは態度は冷たいが、心は優しい女性だ。それを知っているアデルはその話を聞いてすぐに納得できた。


「……できるだけ、人を殺さなくてもいいような方法をとりましょう。もちろん、戦いは避けられないでしょうが……人を殺す必要がある時は、僕がイルアーナさんの分まで殺します」


 アデルは優しく語り掛けた。


「お前……意外と残忍なのだな」


「え?」


 少しイルアーナに引かれてしまい、アデルはショックを受けた。


(おかしい……こういう気のつよ系女子が弱気を見せたときは、優しい言葉をかければポッってなるもんじゃないのか!)

お読みいただきありがとうございました。

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