異文化(伏岸)
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タケナオが去った後、アデルたちも準備が終わり、白鯨城へ出発することとなった。
「私はここに残ります。草薙の者がいるとなると話がこじれる可能性がありますので……」
イズミの出身であるカズハがアデルに申し出る。
「あぁ、そうですよね。じゃあ申し訳ないですが、しばらく待っていてください」
「いえ、こちらこそ申し訳ありません。同行させていただいてイズミの風習などを説明するべきなのでしょうが……」
カズハは申し訳なさそうに言う。
「まあ、どうにかなりますよ。先に来ていた冒険者ギルドの方々に聞けばいいですし」
アデルはカズハを安心させるように笑顔で言った。
「任せとけ。俺がイズミの礼儀作法を教えてやるからよ」
ウィラーが真面目な顔で言う。
(……そう聞くと急に不安になってきたな)
礼儀の対極みたな存在であるウィラーの言葉を聞いてアデルは思った。
そしてアデルたちは船の番をする者を残して、町へと桟橋を歩き出す。桟橋のたもとには漁師の小船が何艘も裏返して置かれており、干物を作るための網台が多数置かれていた。網の上には開いた魚や海老などが置かれ、天日と潮風にさらされている。
「ほう、上手そうじゃのう」
ピーコが干物を見つめて言った。
「食べちゃダメだよ。欲しかったら買ってあげるから」
アデルはピーコを制するように言う。
「シーパラディンって美味しそうだよね」
海老の干物を見ながらポチがボソッと言った。
それを聞いたしーちゃんはフルフルと首を振る。
(それは食べないでって意味なのか、美味しくないって意味なのか……前者であって欲しい……)
アデルはその様子を見ながら思った。
「ひょーちゃん、おおきいエビさんは食べれるところが少ないから、ちいさいエビさんをいっぱいのほうが好きなの!」
(それはなんとなくわかる気がする)
ひょーちゃんの主張を聞き、アデルは伊勢海老を思い浮かべた。
「殻ごと食べればいいじゃん」
ポチはひょーちゃんの主張に同意できないようだった。
「あはは、草とか木のほうが良いんじゃない? 逃げないし」
モノの意見には誰も同意しなかった。神竜たちの中でも木まで食べるのはモノだけのようだ。
そんなことを話ながらアデルたちは街中へと進んで行った。
(わぁ、時代劇みたいだ……!)
アデルは街並みを見て驚く。そこには時代劇で見るような街並みが広がっていた。もっとも、それは驚くようなことではない。建築技術や気候、そして入手が容易な建築材料が同じであれば、似たような建物になるのは当然だろう。ファンタジー世界の街並みが中世ヨーロッパに似ているのも自然なことなのである!
大通りには様々な店が並んでいた。酒や味噌、米を扱う店はもちろん、凝った細工があしらわれた女性物の装飾品を扱う店、呉服屋や蕎麦屋といった時代劇でもおなじみの店だ。
行き交う人々はそっとアデル一行のことを盗み見ていた。「大陸人」がこれだけ大勢いるのは珍しいことだ。ただダークエルフの姿を見ても恐れることはなかった。イズミの人々にとっては「大陸人」の一部に過ぎないようだ。
「アデル様、ここが町で一番大きな宿です」
冒険者ギルドのニコラリーが一軒の店にアデルたちを案内する。
「じゃあ皆さんはここで待っていてください」
アデルは同行者たちに振り向いて言った。マサトラと面会するのにぞろぞろと大勢を連れて行くわけにはいかないからだ。最小限の護衛だけ連れ、残ったものはこの宿で待つ予定となっていた。
アデルの指示に従い、残る者は宿に向かう。宿の店主はオロオロとした様子でそれを見ていた。
「あっ、みなさん! 靴は脱いでくださいね!」
アデルは土足で入って行こうとする者を制して言う。それを聞いてみな不思議そうにしていた。
「ほう、アデル様はイズミの流儀もご存じなのですか」
ニコラリーが驚いたように言う。ニコラリーも最初、土足で家に上がろうとして家主に怒られていた。
「い、いや、ほら。履物がそこに置いてあるじゃないですか」
アデルは慌てて、土間に置かれている草履を指さして言った。
「なるほど。確かに店主も裸足のようだ。さすがの観察力だな」
イルアーナがアデルの言葉に感心する。
「ま、まあ文化が違う人々と接するわけですからね。よく観察して、失礼のないようにしないと。はははは……」
アデルは引きつった笑いを浮かべて誤魔化すのだった。
アデルに同行する護衛は神竜騎士の団長であるエレイーズ、副官のクライフ、そしてフレデリカ、ドレイク、リオといった面々だ。イルアーナ、ミルシング、ドリューシェのダークエルフ三人も同行する。またマサトラとすでに面識があるウィラーも護衛として付いてくる。正確にはやや問題のある面々だが、武力を優先すると仕方のないことだった。
また仲介役としてイルヴァとその護衛のエラニア、そして冒険者ギルド代表としてニコラリーも同席することになっていた。白鯨城までの移動手段として、ニコラリーが町の外に馬車を用意している。
「では行きましょうか」
他の面々と別れ、アデルたちは白鯨城へと向かった。
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