救出(洋上)
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更新遅れても申し訳ありません。
「敵が逃げようとしています!」
神竜騎士のエレイーズが興奮して叫ぶ。シーサーペントの攻撃を受け、カザラス兵たちは脱出用の小船を海面に解き放ち、自分たちも海へと飛び込み始めていた。
「こんな沖合いでは、我らが手を下さずとも生きては帰れぬだろうに」
イルアーナが表情を曇らせる。脱出用の船では小型の海の魔物相手でも危険だろう。
「オクロス号を近付けてカザラス兵の皆さんを回収しましょう!」
アデルが慌てて言う。
「待て。それはイルヴァにやらせよう」
しかしアデルをイルアーナが止めた。
「え? どうして……」
「どうせ捕まえても解放してやる気なのだろう? ではこちらの戦力を教えるようなことはするな。特にお前がダルフェニアを離れてこっちにいるということなどはな」
「あっ、そうか」
イルアーナに言われ、アデルははっとする。そしてイルヴァの船へと合図を送った。
「出るぞ、お前たち!」
「はい!」
エラニアの号令に海の乙女たちが返答する。イルヴァの船の船底には海水が張られており、シータートルやシャーチが格納されている。
海の乙女たちはシャーチに跨ると、船を離れカザラス軍艦へと猛スピードで向かって行った。幸い、シーサーペントが暴れているところに近づいてくる度胸のある海の魔物はいないようだ。
「ラ、ラングールのセイレーンだ!」
エラニアたちを見たカザラス兵が騒ぎ出す。どうやらカザラス兵の間ではエラニアたちは「セイレーン」と呼ばれているようだ。
「死にたくなければ、全員大人しく降伏しろ!」
エラニアが小船に乗ったカザラス兵たちに大声で呼びかける。
「くそっ、ラングールがなぜこんなところまで……!」
カザラス兵の中で位の高そうな軍服を着た男がエラニアを睨む。少し神経質そうな見た目をした中年の男だった。どうやらまだオクロス号が神竜王国ダルフェニアの船だとは気付いていないようだった。
「お前が指揮官か?」
エラニアはシャーチを操りその男に近づくと、手にした槍を突き付けた。
「私はヨハイム・ゾッツ。この艦の艦長だ」
ヨハイムと名乗ったその男は槍を突き付けられながらも尊大な態度で答える。
「ずいぶんと立派な船の艦長だな」
エラニアはヨハイムが乗る小船を見て嘲笑う。
「くっ、我々はラングールの兵に負けたわけではない! 邪悪なお前たちが飼いならした海の魔物に負けただけだ!」
ヨハイムはシーサーペントを睨む。シーサーペントは攻撃をやめており、鎌首をもたげて様子を見ていた。
「……ん?」
会話の途中、エラニアは怪訝な顔をしてカザラス軍艦に目を向ける。かすかに内部から悲鳴のようなものが聞こえた。
「中に誰か残っているのか?」
エラニアがヨハイムに尋ねる。
「あぁ、鎖で繋いである奴隷どもだ」
ヨハイムは何気なしに答えた。
「なんだと……!?」
しかしその一言を聞いたエラニアの目に怒りの炎が宿る。
「鎖の鍵はどこだ!?」
エラニアはヨハイムの胸ぐらを掴んで叫んだ。
「な、なんだ!? そんなもの、私は持っていない!」
ヨハイムはエラニアの剣幕に気圧される。
「こ、ここにあります!」
だが幸い、近くにいたカザラス兵の一人が鍵束を差し出した。エラニアは奪うように鍵束を受け取ると、海の乙女たちとともに沈みゆく船内に急ぐ。
「た、助けてくれぇ!」
船に入ると船内から絶叫が聞こえた。
「待っていろ、すぐに行く!」
エラニアたちは船内へと駆けこむ。しばらく進むと、柱に鎖でつながれた奴隷たちを見つけた。黒髪と黒い瞳の彼らはイズミの人々のようだ。すでに海水は彼らの胸元までせり上がってきている。
「鎖を外してくれ!」
奴隷たちは泣きながらエラニアに懇願する。
「全員助ける! 待っていろ!」
エラニアたちは奴隷の救出に取り掛かった。
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