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成り行き英雄建国記 ~辺境から成り上がる異種族国家~  作者: てぬてぬ丸
第十四章 真相の章

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完成品(スターティア)


「城が落ちた?」


 スターティアの西門に集まっていた守備兵たちはざわついていた。城には千人の守備兵が向かっていたはずだが、戦いが始まった様子もなくスターティア城にハーヴィル王国の国旗が掲げられたのだ。


「やはりダルフェニア軍は桁外れの強さなのか?」


 守備兵たちは不安に陥った。ダルフェニア軍の本隊と戦ったことがある兵士はいなかったが、その恐ろしさは前線から離れた場所にいる彼らにも伝わっている。


「俺たちも殺されるぞ!」


「包囲される前に逃げ出したほうが……」


「降伏しよう! ダルフェニア軍ならひどいことはしないはずだ!」


「馬鹿言え! 邪悪な悪魔どもに屈してたまるか! 徹底抗戦だ!」


 指揮系統が統一されていない守備兵たちはそれぞれが意見を言い合い、対立していた。


「落ち着け! 俺たちは軍人だ。ここは第二平定軍の指示に従おう。そちらの隊長殿はどこに?」


 一人の兵士が第二平定軍の兵士に尋ねる。尋ねられた兵士は困惑したような表情を見せた。


「それが……さきほどから一部の兵士とともに姿を消していて……」


「なっ……!?」


 それを聞いた他の兵士たちの顔が凍り付く。結局彼らのこの後の行動は個々の判断に委ねられ、ほとんどの兵士は西門の守備を離れていった。






「はぁっ……はぁっ……!」


 スターティアの町を一人の男が人目を避けながら走る。それは領主の代行を務めていた役人、ハインリヒだった。


「ここまでくれば……」


 ハインリヒは荒い息をつきながら近くに建つ大きな建物を見つめる。それはスターティアの町にあるラーベル教会の神殿だった。


 ハインリヒは周囲に視線を走らせる。住民たちは家にこもって息をひそめており、辺りに人気は無かった。ハインリヒはそれを確認すると神殿の入り口に走り寄る。そして入り口の大きな扉を開けようとするが、かんぬきが掛けられているのか扉は開かなかった。


「開けてくれ! 領主代行のハインリヒだ!」


 ハインリヒは力いっぱい扉を叩きながら叫ぶ。


「ダルフェニアの悪魔どもが迫っているのだ! 助けてくれ!」


 扉を叩きつけながら、ハインリヒは懇願するように叫ぶ。すると扉が内側から開かれた。


「これはこれは、ハインリヒ様。どうぞ中へお入りください」


 中から姿を現した壮年の司祭がハインリヒを迎え入れる。


「助かった……!」


 神殿に入ったハインリヒは、疲労と安堵から倒れ込むように座り込んだ。


「ん?」


 ハインリヒは教会内を見て怪訝な表情になる。


 そこは礼拝所だ。女神ベアトリヤルの彫像が奥に置かれ、並べられた蝋燭が礼拝所内を照らしている。普段は信徒が座るための椅子が並べられているが、その椅子は壁際にどかされていた。


 そして礼拝所内には鎧を着た一団がいた。フルプレートアーマーを着込み、さらに鎧の上から神官衣のような衣装を着ている。若い美形の男女ばかりだった。腰にはショートソードを差しており、手には2メートル以上はありそうな長さの杖のようなものを持っている。


「戦いの状況はいかがですか?」


 鎧の一団に目を向けていたハインリヒに司祭が声をかける。


「え? あぁ。どうやら卑怯な内通者がいたようで、東門からダルフェニア軍が侵入している。しかもおぞましいことに、ダークエルフたちを中心とした部隊のようだ」


「ダークエルフだと? 間違いないのか?」


 鎧を着た若い男がハインリヒに尋ねる。白銀の髪の毛の精悍な顔つきの男だった。


「失礼だが……貴公らは?」


 ハインリヒは鎧の一団を見回した。ざっと見て百人ほどいるようだ。


「我々は征魔騎士団。大司教様から悪しき者どもを滅ぼすために遣わされた。私は団長のアンジェロだ」


 アンジェロと名乗った騎士は淡々と答える。しかしその口調にはわずかに苛立ちが含まれていた。


「それでダークエルフがいたという情報は間違いないのか?」


「あ、あぁ。褐色の肌の奇妙な一団がいたのを兵士が見ている」


 アンジェロの冷たい視線に少し寒気を覚えながらハインリヒは答えた。


「そうか……ダルフェニアめ。どうやったのか知らぬが、こちらの動きを悟り手を打ちに来たか」


 アンジェロはハインリヒから目を逸らすと、入り口を見つめて呟いた。


「いかがされますか? 計画を中止してお戻りになられるのが安全かと……」


 司祭がアンジェロに尋ねる。


(司祭が敬語に……あの若造の方が位が上なのか?)


 その様子を見ながらハインリヒは心の中で首を傾げた。


「魔竜ならともかく、ダークエルフごときを恐れるわけには行かぬだろう。そろそろ我々『完成品』の力を示しても良いころだ」


 アンジェロは他の征魔騎士たちの顔を見る。みな自信ありげに頷いていた。


「もはや王の器とやらを恐れて隠れる必要はない。ダークエルフの生き血を神に捧げ、ダルフェニア討伐の第一歩とするぞ!」


 アンジェロが宣言する。他の征魔騎士たちは同意を示すかのように手にした武器で一斉に床を叩きた。

お読みいただきありがとうございました。

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