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成り行き英雄建国記 ~辺境から成り上がる異種族国家~  作者: てぬてぬ丸
第十四章 真相の章

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神竜(ロスルー)

 背中を消毒されたヴェルメラは痛みにもだえ苦しむ。だが肩をポチにガッチリ抑えられており、まったく身体を動かすことが出来なかった。しかしポチは気だるそうにボーッとしているだけで、たいした力を入れているようには見えない。


「ヴェルメラ様!」


 それを見ていたライナードは思わず駆け寄ろうとする。


「おっと。何をする気だい?」


 その前にすっとミルシングが身体を割り込ませた。


 顔には笑顔が張り付いているが、その瞳は冷たくライナードを睨んでいる。


(とんでもない殺気だな)


 ライナードはミルシングの目を見て背筋に寒気が走った。


「ヴェルメラ様の身を案じただけです。安全なのでしょうね?」


「当たり前だよ。君たちに何かをしようと思ってるなら、しょうもない演技なんかせずにさっさとやってるよ」


 ライナードの問いかけにミルシングが軽口をたたく。ミルシングの背後ではイルアーナとドリューシェもライナードを無表情で見つめていた。敵意は感じないが、自然とライナードに半身を向けている。ライナードが敵対的な行動をとろうとすれば、すぐに応戦できる体勢だ。


 ミルシングはため息をつくと、大人しく引き下がった。ヴェルメラはぐったりとしていた。消毒の痛みと疲れから気を失ってしまったのだ。


(動きに無駄がない。相当な猛者だね……ダークエルフは皆こうなのかな?)


 ダークエルフ三人の動きを思い出し、ライナードは舌を巻く。


(この状況でずいぶん冷静だな。こういう相手が一番やりづらいんだよね)


 一方でミルシングもライナードへの警戒を強めた。


「ところで君、彼女の部下なの? なかなかいいよね。傷ついた女性ってなんかこう、グッと来るものがあるよね」


 ミルシングが笑顔でライナードの横に立ち話しかける。


「部下という表現は微妙ですね。同国人ではありますが、同陣営というわけでもありませんし……」


「なにそれ。ハーピー派とペガタウロス派みたいなもん?」


「なんですか、それは?」


「ほら、ハーピーとペガタウロスっていう美人種族がいるんだけどさ。すぐエッチさせてくれるハーピーが最高って男たちと、高嶺の花って感じのペガタウロスが最高って男たちがいてさ。どっちが好きかでけっこう派閥が分かれてるんだよね」


「へぇ、それは楽しみですね」


「おしゃべりなら外でしていただけますか?」


 笑顔で語り合うミルシングとライナードをドリューシェが睨んだ。


「わー、怖いね。でもこれでもマシになったんだよ。言葉遣いが丁寧になったからさ。どうやら強いのに腰が低いアデル様に憧れてるみたいで……」


「ミルシング!」


 ドリューシェがミルシングを睨む。ミルシングの言う通り、最近のドリューシェは他人に対して言葉遣いが丁寧になっていた。これはアデルやレイコなどの影響を受けてのことだった。


「あはは、照れなくてもいいじゃん。アデル様にはみんな憧れてるんだから。ねぇ、イルアーナさん?」


「当たり前だ。この世界を導く男だぞ」


 ミルシングに同意を求められ、イルアーナは誇らしげに微笑んだ。


(アデル王か。そんな感じには見えなかったけど、そこまですごい子なのか……?)


 ライナードは会話を聞きながら、心の中で首をひねった。


「終わったよ。カレー食べに行っていい?」


 ポチがボソッと言う。


 いつの間にかヴェルメラの背中の傷は塞がっていた。傷があった場所はわずかに肉が隆起し、傷跡として残ってしまっている。気を失ったヴェルメラは安らかな寝息を立てていた。


「駄目だ。もう一人もだ」


 イルアーナが部屋から出て行こうとするポチを捕まえる。


「こちらへ寝てください」


 メイズがライナードをヴェルメラの隣の寝台へ誘導した。


「……魔竜とは悪逆無道の存在と聞いていましたが、どうやらそうではないようですね」


 ライナードは素直に指示に従い、寝台に寝そべった。


「悪だの善だの、そんなの人間が自分の都合で言ってるだけ。存在が『悪』の生物なんていない」


 少し怒った口調でポチが言う。その言葉にライナードははっとした。


(自分は物事を客観視出来ているつもりでいたけど、さすがに視野が広い……神と呼ばれるだけあるな。ラーベル教の女神ベアトリヤルよりもよっぽど……)


 メイズの手で消毒がされた後、ポチがライナードの傷口に手を置く。ライナードはポチの手から体の中に熱を送り込まれるような感覚を覚えた。傷の周辺が熱くなり、痛みが引いて行く。少し汗ばむほど体がポカポカとしていた。身体の新陳代謝が活発化したためだ。


「終わった」


「え?」


 ボソッとポチが呟くのを聞いて、ライナードは顔を上げる。ライナードの胸の傷はわずかな傷跡を残して消え去っていた。


(結構な深手だったのに……)


 ライナードの傷は肺や内臓にまでは至っておらず致命傷ではなかった。だが範囲は広く、骨の近くまで肉が抉られていたはずだった。それが短時間で消えたことにライナードは驚く。


「たいした深さじゃなかったし、身体も頑丈だったからこんなもんじゃない?」


 ライナードの驚きを察したようにポチが呟く。


(これが……神竜か……)


 ポチの眠そうな顔を見るライナードの胸に、神竜への敬意が芽生える。そして傷が治ったライナードはヴェルメラを抱き抱えると、イルアーナらとともに医務室を後にした。

お読みいただきありがとうございました。

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