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成り行き英雄建国記 ~辺境から成り上がる異種族国家~  作者: てぬてぬ丸
第十四章 真相の章

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治療(ロスルー)

 イルアーナに連れられ、ヴェルメラとライナードは医務室へと向かった。


 医務室には簡素なベッドが並び、備え付けられた棚には薬品の入った瓶やガーゼなどが並んでいる。


「お、お待ちしておりました!」


 医務室に入ると、緊張した面持ちの若い女性が出迎えた。元ラーベル教会の神官だったメイズだ。


 「秘儀」とされるラーベル教会の回復魔法は門外不出とされており、メイズはラーベル教を恐れて冒険者の一団に身を隠していた。現在はアデルの保護下にあるものの、目立つ行動は避けている。現在は魔力の高い者を集めて、回復魔法を使える秘密の部隊を指導中だった。


「あなたたちが……?」


 ヴェルメラは露骨に顔をしかめる。


 ヴェルメラたちを待っていたのはメイズだけではなかった。室内にはポチこと白竜王に、サンズウッド族のダークエルフであるミルシングとドリューシェがいた。ポチはけだるそうにベッドの一つに寝そべり、その頭をドリューシェが撫でている。


 サンズウッド族は他のダークエルフの氏族に比べてやや魔力が低い傾向にあるが、治癒魔法に関しては他の氏族よりも長けていた。また薬物の知識も豊富だ。太陽の森には毒性を持つ生き物や植物が多く存在しており、そこに住むサンズウッド族はそれらに対応する必要があったのだ。そのため治療役としてサンズウッド族のダークエルフがよく呼ばれるようになっていた。


「こ、こちらに寝てください」


 メイズが上ずった声で案内する。相手がカザラス帝国の皇族ということで緊張しているようだ。


「彼女はラーベル教式の回復魔法を使える。お前たちも安心だろう」


 イルアーナがヴェルメラに言う。


「ラーベル教の秘儀は門外不出では?」


「ダルフェニアでもラーベル教の信仰は許されている。ここは門外ではなく門内なのだろうな」


 訝しむヴェルメラに、イルアーナは皮肉っぽく言った。


 ヴェルメラはイルアーナを睨んだが、大人しく指示に従い寝台にうつぶせで横たわる。


「失礼します!」


 メイズはヴェルメラの背中に張り付いている止血のための布をゆっくりと剥がす。ヴェルメラが痛みに顔をゆがめた。


「これは……」


 メイズは眉をひそめる。


「どうだ?」


「も、申し訳ありません! この傷は私では……」


 ヴェルメラに問われ、メイズは口ごもる。


 ヴェルメラの傷はいびつな形をしていた。回復魔法は傷自体を治すのではなく、失われた組織を再生して傷口を埋めると言ったほうが正しい。傷口が複雑な形だとその修復のための難易度は跳ね上がるのだ。


「なんですって? では何のために痛みを我慢したの!?」


「す、すみません!」


 ヴェルメラが怒りをあらわにする。メイズは申し訳なさそうに平謝りするしかなかった。


「安心してください。そのために白竜王様と我々が控えております」


「白竜王?」


 ドリューシェの言葉にヴェルメラは室内を見回す。イルアーナが寝ているポチの首元を掴み、猫でも持つようにヴェルメラの前に連れてきた。


「まさか……この子供が……?」


「ん」


 驚くヴェルメラにポチは軽く手を挙げてあいさつした。 


「ダークエルフに魔竜……信用して大丈夫なのですか?」


 ライナードが眉をひそめる。


「武装解除はしておらぬのだ。我々が不穏だと感じれば、その剣で抵抗すればよかろう」


 イルアーナがライナードの腰の剣を顎で指し示した。


「本当に魔竜なら、私ごときが抵抗しても仕方ないでしょう」


「では諦めろ」


 肩をすくめるライナードにイルアーナは冷たく言い放った。


「毒はないみたいだけど、人体に害のある菌が付着してる。殺菌して」


「はい」


 ヴェルメラの傷を観察したポチが言うと、ドリューシェがその言葉に従い棚から瓶を持ってくる。消毒用の純度の高い酒だった。


「痛みますよ」


「さっさとやりなさい」


 警告するドリューシェにヴェルメラがキッパリと言う。前皇帝ロデリックの娘だけあり、度胸は座っているようだ。


「では行きます。白竜王様、ヴェルメラ様を押さえていていただけますか」


「わかった」


 ポチがヴェルメラの肩に手を置く。それを確認し、ドリューシェはヴェルメラの背中に酒をかけた。


「きゃぁぁぁっ!」


 背中に走る痛みに、ヴェルメラは絶叫した。

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