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成り行き英雄建国記 ~辺境から成り上がる異種族国家~  作者: てぬてぬ丸
第十四章 真相の章

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受け継がれるもの(イルスデン)

 物置を塞いでいた家具がすべてどかされた。


「私が開けます」


 騎士のルイーザはそう言うと、ゆっくりと扉を開く。


「姫さん、大丈夫か!」


 その扉を押しのけてリオが部屋に飛び込む。そのせいでルイーザは扉に額をしたたかに打ちつけられてしまった。


「早く中へ! 外は危険です!」


 ユリアンネが警告する。しかしリオは笑みを浮かべて首を振った。


「あの気持ち悪いやつらか? 転がってる死体は見たが、生きてるやつには会わなかったぜ。全部死んだんじゃねぇのか?」


 リオが軽い口調で言い肩をすくめる。


「そんなわけありません。私たちが見ただけでも八匹の化け物が生き残っていました」


 ユリアンネが言った。


「じゃあ逃げたんだろ。とにかく襲われなかったぜ。そうだよな?」


 リオが扉の外にそう言葉をかける。


「一人ではないのですか?」


 ユリアンネは眉をひそめた。そこに一人の子供が姿を現わす。


「姉上たち……ご無事だったんですね!」


 入り口から顔をのぞかせて驚いたのはユリアンネたちの弟、エデルーンだった。


「エデルーン、なぜここに!?」


 ユリアンネが驚く。


「ユリアンネ、無事なのか!」


 老人の声が聞こえた。帝国第一宰相、ヴァシロフの声だった。


 ユリアンネたちは物置の外に出る。そこには六人の男たちがいた。そのうち三人はリオ、エデルーン、ヴァシロフだ。


「ヴァシロフ様……なぜここに?」


 ユリアンネはヴァシロフの姿を見て驚く。


「当たり前じゃないか。お前のことが心配で……」


 ヴァシロフは人目もはばからず涙ぐんだ。


「ヴァシロフ……」


 フローリアがそんなヴァシロフを見て呟いた。ユリアンネは表向きは前皇帝ロデリックの子ということになっているが、ヴァシロフとの不義の子であるとヴァシロフが打ち明けていた。


「フローリア……太后殿下。よくぞご無事で……」


 ユリアンネの無事を確認して我を取り戻したのか、ヴァシロフは丁寧な態度で頭を下げる。


「エスカライザ様!」


 一方、エスカライザのもとには副官のライナードが走り寄っていた。


「遅いぞ、ライナード」


 エスカライザがそのライナードを叱った。しかしその声はどこか嬉しそうだった。


「ヒルデガルド様」


 ヒルデガルドに話しかけたのはラーゲンハルトの副官だったフォスターだ。


「外はどうなっているのですか、フォスター」


 ヒルデガルドが尋ねる。


「帝都守備隊が防壁の外を取り囲んでいます。警備というよりは後宮へ入る者や……出ようとする者を止めるためのようでした」


「そんな中、よく入れましたね」


 フォスターの答えを聞いてヒルデガルドが言った。


「リオ殿が衛兵を殴り飛ばして強引に突破したのです。ベッケナーが怒り狂っていたので、後が怖いですね」


 フォスターがため息をつく。


「へへ、一度はここに入ってみたかったんだ」


 リオは得意げに笑って見せた。


「後宮への侵入は重罪じゃぞ」


 話を聞いていたエスカライザが呆れて言う。


「その辺は姫さんたちの権限でうまくやってくれよ」


 リオはニンマリと笑って見せた。


「そして……」


 ヒルデガルドは最後の一人に目を向ける。


 だがその時、近くの窓を突き破って一匹の蜘蛛男が入ってきた。蜘蛛男は一同に襲い掛かる。


「シャァァァッ!」


「うぉっ、マジかよ!」


 リオが慌てて槍を構えようとする。しかしそれよりも早く、間に割って入った人物がいた。


 彼はもっていた剣を一閃させる。剣は難なく蜘蛛男を切り裂き、蜘蛛男は胸元から両断された。切られた上半身は床に滑り落ち、下半身は襲い掛かったときの勢いそのままに壁に激突する。だが上半身はまだ襲い掛かろうと腕をバタバタさせていた。


「おっと、そういうタイプなのですね」


 蜘蛛男を斬った男はもう一度剣を振るう。蜘蛛男は首を斬り落とされ、動きを止めた。


「お待たせいたしました、ヒルデガルド様」


 男は優雅に礼をする。


「よく来てくれました。”剣者”ヴィレム」


 ヒルデガルドが男に向かってほほ笑む。それは以前ヒルデガルドの警護を務めていた騎士、”剣者”ルトガーの弟子、ヴィレムだった。

お読みいただきありがとうございました。

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