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成り行き英雄建国記 ~辺境から成り上がる異種族国家~  作者: てぬてぬ丸
第十四章 真相の章

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乗っ取り(イルスデン)

誤字報告ありがとうございました。

「こっちへ!」


 ヒルデガルドがフローリアに向けて叫ぶ。フローリアは近寄ってくる蜘蛛男たちから慌てて離れた。しかし蜘蛛男たちもかなりのスピードで追ってくる。


「くっ、何匹おるのじゃ!」


 エスカライザは苛立たし気に言いながら、蜘蛛男たちが来るのとは逆の方向へと廊下を走る。ヒルデガルドたちもそれに続いた。


「誰か! 誰かおらぬのか!」


 すると行く手から誰かが叫びながら逃げて来る。


「ヴェルメラか?」


 エスカライザは険しい目でそれを見つめた。逃げて来るヴェルメラの背後には一匹の蜘蛛男が迫っている。


「あれをやるぞ!」


 エスカライザがヒルデガルドに声をかける。ヒルデガルドは黙ってうなずいた。


「こっちだ、化け物め!」


 エスカライザが叫びながら蜘蛛男の背後に回り込もうとする。蜘蛛男の注意はエスカライザへと向けられた。


「ハッ!」


 無防備になった蜘蛛男の背後にヒルデガルドとエマが斬りかかる。知能の低い蜘蛛男の注意を引くことは容易い。誰かが注意を引いている間に背後から攻撃する。先ほどの戦いで有効だった戦い方だ。打ち合わせもなく三人は互いの意図を察し、連携をとっていた。三人の攻撃であっさりと蜘蛛男は倒される。


「大丈夫か……」


 エスカライザはヴェルメラのほうを振り返り、言葉を失った。蜘蛛男から逃げてきたヴェルメラは肩で息をしながら床に四つん這いになっている。その背中は蜘蛛男の昆虫の足によるものか、ズタズタに引き裂かれている。


「ヴェルメラ姉上!?」


 ヒルデガルドがヴェルメラに駆け寄った。


「フォルゼナッハが……お母様を……」


 ヴェルメラは涙を浮かべながら、うわごとの様に呟く。


「向こうからも化け物が!」


 騎士のルイーザが警告する。ヴェルメラの来た方向から、三匹の蜘蛛男が迫ってきていた。


「挟まれたか……!」


 エスカライザが眉をひそめる。背後から追って来ていた蜘蛛男たちもすぐそこまで迫っていた。


「こっちです!」


 マギヤが傍らにあった扉を開けて叫んだ。ヴェルメラを支えながらヒルデガルドたちはその部屋へと駆け込む。


「きゃぁっ!」


 部屋の奥から悲鳴が上がる。部屋の奥には隠れていたらしい若い女性の使用人が座り込んで震えていた。その部屋は物置らしく、テーブルや椅子、予備のベッドや布団、掃除用具などが雑多に置かれている。奥の壁には明り取りと換気のための小さな窓が一つあるだけだった。


「入り口を塞ぐのじゃ!」


 扉を閉めたエスカライザが命令する。扉にはフローリアの部屋ほどではないものの、贅を尽くした後宮の作りが幸いし頑丈な分厚い木材が使われていた。その扉を外側から蜘蛛男たちが叩く。ヒルデガルドたちはテーブルや予備のベッドを積み上げ、扉を塞いだ。


「どうにか一息付けるな」


 エスカライザがため息をつきながら言う。


「どれだけ持つかはわかりませんが……」


 ユリアンネもため息をついた。蜘蛛男が扉を叩く際、ガリガリという音も響いている。蜘蛛男のギザギザとした昆虫の足が扉の木材を削っているのだ。蜘蛛男たちが諦めない限り、そのうち扉は破壊されてしまうだろう。


「ヴェルメラ姉上の手当てを」


 ヒルデガルドは震えて座っていた使用人に声をかける。


「は、はい!」


 使用人は弾かれたように立ち上がると、ヴェルメラに駆け寄った。しかしその背中の傷をみて小さく悲鳴を上げる。


「お水かお酒でもあれば良かったのですが……今は止血しかできそうもないですね」


 マギヤもヴェルメラのそばにより、傷を見て言った。


「わ、私のことは置いて行てください……」


 ヴェルメラは呻くように言う。


「できればそうしたいところじゃが……逃げ道がな」


 エスカライザは肩をすくめた。


「こ、これなら私の部屋にいた方が良かったのでは!?」


 フローリアが少しヒステリックに言う。


「いえ、あの部屋では扉を塞いでも窓から侵入されてしまいます。ここなら窓が小さくて彼らは入れません。ただ、状況が好転したかといわれると微妙ですが……」


 ユリアンネが言い聞かせるようにフローリアに言った。


「ヴェルメラ姉上、そちらはどういう状況だったのですか?」


 ヒルデガルドがヴェルメラに尋ねる。使用人が部屋にあったシーツを包帯が割にその身体に巻き付けていた。


「フォルゼナッハです……フォルゼナッハが母上を……殺しました」


「フォルゼナッハ?」


 一同は訳が分からず眉をひそめる。


「さきほどの……化け物です」


 ヴェルメラは苦痛に顔を歪めながら言った。


「なるほど。たしかにそう言われれば似ていたが……」


 エスカライザは首をひねりながら言う。だがだいぶ人相が変わっており、親しくない者にはあれがフォルゼナッハであるという確信は持てなかった。


「あれが本当にフォルゼナッハだとすれば……噂通り、ラーベル教会は死者の体を利用して化け物を作っているということですね」


 ユリアンネが呟いた。こんな状況でも冷静に神竜王国ダルフェニアからの情報であることは伏せていた。


「そ、そんなことが!?」


 ルイーザと使用人がそれを聞き驚く。


「なぜ教会があんな恐ろしいものを……それにどうして後宮を襲うのですか?」


 ルイーザが恐る恐る尋ねた。


「神竜王国ダルフェニアに対抗する戦力と思いたいですが……どうやらラーベル教会が帝国の実権を握るために使っているようです。そしてそれを疑っていた我々を殺したいのでしょう」


 ユリアンネが情報を整理しながら答える。


「ノルデンハーツも化け物に襲われた。ラーベル教会はダルフェニア軍以上に妾が邪魔なのであろう。この国の正統な後継者は妾なのじゃからな」


 エスカライザが口を挟む。


「……確かに、ここでユリアンネ様、ヴェルメラ様、ヒルデガルド、そしてエスカライザ様が亡くなれば帝位の継承者はだいぶ絞られますね」


 マギヤが考え込みながらそう言った。


「わたしたちがいなくなれば……帝位の継承権を持つのは大司教も兼任するジークムント兄上と教会関係者を母に持つエデルーンだけになります。帝国は完全にラーベル教会のものに……!」


 ヒルデガルドが呟く。それを聞いた一同の顔色が青ざめた。

お読みいただきありがとうございました。

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