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真夜中の襲撃

 辺りは静まり返り、時折焚火のはぜる音が響くだけだ。


 動物たちは夜の帳に押しつぶされたかのように息をひそめている。


 アデルは怯えながら辺りを見回した。


「イ、イルアーナさん……やっぱり何か周りにいると思うんですけど」


 アデルは寝ているイルアーナの肩をゆすった。


 今は顔の包帯も外しているため、美しい顔があらわになっている。こんな状況で無ければずっと見つめていたいところだが、こんな状況ではアデルもそんな気にならなかった。


 季節は春先、高地ということもあり夜は寒い。その後3日ほど歩いて黒き森まではあと二日ほどというところまで来ていた。


(ここまでくれば兵士の巡回も来ないだろうと安心して、焚火を炊いたのが間違いだったかも……)


「ん……」


 イルアーナが寝ぼけ眼でアデルを見つめる。カワイイ。


「さっきも言っただろう。10m以内に脅威になりうるサイズの生き物が入れば私にはわかる」


 魔法なのか気配を察知するのかわからないが、イルアーナが自信満々に言うので見張りなどは立てずに寝ることにしたのだが、少し前もアデルが何かの気配を感じイルアーナを起こしていた。


 ちなみにこの世界も距離、重さ、時間といった単位は日本と同じだ。


「安心して寝ろ。それとも私の能力が……」


 少し機嫌が悪そうだったイルアーナの顔つきが変わった。


「……何かいるかもしれん」


「や、やっぱり……?」


「試してみろ」


「え?」


 イルアーナが何かを顎で指し示す。どうやらアデルの手元に落ちている石を投げろと言っているらしい。


「危険な魔物とかだったら……」


「だったら余計に早く相手の正体を確かめねばならんだろ」


「うっ……」


 アデルは躊躇していたが、観念して石を気配に向かって投げた。


 暗闇の奥で何かが崩れ落ちた音がする。


「どうした!」


「なんだ?」


「何かあったのか!」


 暗闇の中の気配が濃くなり、複数の男たちの狼狽した声が聞こえる。


「誰か転んだんだろう、間抜けめ! 急いで獲物を囲め!」


 男たちが焚火の明かりの中に浮かび上がる。あっという間にアデルたちは8人の男に囲まれた。


「おい、お前ら金目の物を……」


 威勢よく言葉を吐いた男の言葉が、イルアーナを見るなり凍り付く。


「ダ、ダークエルフ……?」


 男たちの注目を集めているイルアーナは冷静に周りを見回した。


「おい、マーダーアロー。どうした、怖気づいたか」


「……あ、僕?」


 呼びなれない名で呼ばれ、アデルの反応が遅れる。


(よく咄嗟に使い分けられるなぁ)


 アデルはイルアーナの頭の回転の速さに感心した。


「いや、良かった……危険な魔物だったらどうしようかと……」


 アデルの目には男たちの能力値が浮かんでいる。


 ほとんどは武力が40台や50台の者たちだ。


(このくらいが平均なのかな……)


 戦場で戦った感覚で、普通の相手なら遅れは取ることはないとアデルは思っていた。


「う、うろたえるな! ダークエルフといえど相手は二人だ! この人数なら勝てる!」


 自身もうろたえながら一人の中年の男が周りを鼓舞する。


名前:ミルド

所属:マライズ村

指揮 62

武力 63

智謀 38

内政 55

魔力 21


(武力60台か……勝てるかなぁ……)


 アデルは少し心配になった。


「それにこっちにはリオがいる。頼むぞ!」


「やれやれ、わかったよ……だが、あのダークエルフは俺が一番に味見させてもらうぜ。よく見りゃいい女だ」


 リオと呼ばれた、黒く塗装された槍を抱えた男が一歩前に出る。年は30半ばくらい。少し瘦せこけた顔には無精ひげが生えており、不男ではないが一番盗賊らしい風体をしていた。


リオ

所属:マライズ村

指揮 43

武力 75

智謀 55

内政 26

魔力 13


(75! これはまずい……)


 アデルは息をのんだ。強そうな相手が二人。しかもアデルの武器はイルアーナから借りたダガーで、得意の弓ではない。


(でもイルアーナがいる……あんなに自信満々だし、盗賊くらいきっと……)


 アデルは隣にいる、頼もしい相棒に目を向けた。


「マーダーアロー、ここはお前に任せる」


「……え?」


「おい、盗賊ども! 私に相手をしてほしければ、まずこの男を倒してみろ!」


「え? え?」


 予想もしなかった展開にアデルの表情が固まる。


「この程度の相手、お前一人で十分であろう?」


 あまりの展開に、アデルは口を開けてイルアーナをただ見つめた。


(コノ カタ ハ……ナニ ヲ……オッシャッテ イル……?)


「見くびられたもんだな。おい、ガキ。いいだろう、一騎打ちと行こうじゃないか。その隙に逃げようなんて思うなよ、ダークエルフのお嬢さん!」


 リオが不敵な笑みを浮かべながら言った。


「ところで……なんでお前、マーダーアローなの?」


 リオはアデルが異名と違ってダガーを持っていることに違和感を感じたようだ。


「いや、僕はただの猟師なんです……あの……見逃してもらうわけには……?」


「駄目だ、役人に通報されたら厄介だ」


 リオが冷たく言い放つ。


「待て、リオ。無駄に殺すのは良くない」


 そのリオをリーダーらしき中年、ミルドが制止した。


「金目のものをすべて差し出すなら見逃してもいい。悪いが我々も金が必要でね」


 ミルドは申し訳なさそうにアデルに言った。もともとは悪人ではないようだ。


「ど、どうして盗賊なんて?」


「戦争だよ。俺たちは供託金を払ったんだ。借金までしてね。家族や恋人のために、どうしても死にたくなかった……」


(この人たちも戦争の犠牲者なのか……)


 アデルは目の前の相手に恐怖とともに同情も覚えた。


「イルアーナさん、ここはひとつ……」


「断る」


 アデルが提案しようとする先にイルアーナがばっさりと切って捨てた。


「私は大金を持っている」


「え? ど、どうして?」


「お前が金で動くなら、これで説得しようかと思っていた」


「そ、そうですか……」


 大金と聞いて盗賊たちの熱気が上がったのをアデルは感じた。


「大金と聞いちゃますます見逃せないな。俺はリオ、”黒槍”リオだ。冥途の土産に覚えておけ」


 リオが槍を構える。全くアデルたちを逃がしてくれるつもりはないようだ。


(やるしかないのか……というか槍の間合いで一騎討ち始めるのズルくない?)


 アデルは震える手でダガーを構えた。相手の武器との長さの違いが、余計にアデルを心細くさせた。


「そういえばもう一つ聞きたいんだが」


「な、なにを……うわっ!」


 アデルがしゃべっている途中で、リオの槍が突き出された。アデルの顔のすぐ脇を槍がかすめる。


「卑怯な!」


 イルアーナが思わず叫んだ。


「油断する方が悪いんだよ!」


 かわされた槍をすぐに引き戻し、リオは二度三度と突きを繰り出した。しかしその全てをアデルはかわす。リオの顔に驚愕と焦りが浮かんだ。


(これは……勝てる)


 逆にアデルはリオの突きをかわすたびに心に余裕が生まれた。能力値を見て怖がってしまったが、実際に戦ってみると自分のほうが強いとアデルは確信した。


(少なくとも僕の武力は80以上はあるってことか……)


 アデルが自分の手や体を見ても能力値は見れなかった。水面に映った自分を見ても駄目だった。


「くそ、どうなってんだ……!」


 不意打ちすらもかわされ、リオはただ闇雲に突きを繰り出すしかなくなっていた。穂先に刃がついていたり全体が鉄製の槍なら薙ぎ払いもできるが、リオの槍は穂先だけが鉄であとは木製だ。これを横に振ったところでダメージはたかが知れているし、折れてしまう可能性もある。全体が鉄製の槍など高価でリオには買えなかった。


「いい加減くたばれ!」


 リオは全身の力と全体重をかけた渾身の一撃を繰り出した。速さも威力もその分上乗せされる。


 だがアデルは簡単にそれをかわすと、槍を手でつかみ引っ張った。


「!?」


 全体重を乗せた槍をさらに引っ張られ、リオは前のめりに倒れる。


「くそ!」


「動かないで」


 気が付くとリオの槍は奪われ、急いで起き上がろうとしたリオの鼻先に突き付けられていた。


「そこまでです。あとたぶんですが……皆さん全員より僕の方が強いので降伏してください」


 アデルはリオを見つつも、他の男たちの気配に気を付けながら言った。


「ふ、ふざけるな! 全員でかかれ!」


 血の気の多い男二人が背後から同時に斧でアデルに飛び掛かる。しかし一瞬後、反対方向に数倍の距離を吹き飛ばされていた。アデルが腹を蹴ったのだが、ほとんどの者は何をしたのかすらわからなかった。


「こいつ……本当に人間なのか!?」


 リオが唸った。相変わらず鼻先には槍が突き付けられている。二人の男を倒す間にもまったく隙などなかった。


「人間だが化け物だ。ダークエルフの私が恐れるほどのな。死にたくなければ降伏しろ」


 一歩引いて見ていたイルアーナが盗賊たちに向かって言った。


「言っただろう、私たちはどうしても金が必……」


 ミルドが恐怖に抗ってアデルに襲い掛かろうとした。だが言い終わるよりも早く、地中から突如沸いた太い木の根がミルドに絡みつき、その体を絞り上げた。


「あがっ!」


 ミドルの口から苦痛の嗚咽が漏れる。


「すまんな。見ているだけのつもりだったが、退屈なので手を出すことにする」


 身動きがとれぬミルドに近づきながらイルアーナが言う。木の根は彼女の精霊魔法だった。


「……すけて……」


「何? 聞こえんな」


「た……助けて……」


 ミルドが苦痛と恐怖のあまり泣きながらイルアーナに許しを請うた。こうして盗賊たちとの戦いは幕を下ろした。


お読みいただきありがとうございました。


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