空中戦(ハイランド)
誤字報告ありがとうございました。
「……やはり失敗作ではこの程度ですか」
夜の闇に紛れ、上空からハイランドの様子を見ていたセラフィムは呟いた。その顔には侮蔑の表情が浮かんでいる。
「まあ相手を奇襲におびえさせる程度の効果はあったでしょうが……魔力の無駄遣いですね」
セラフィムはため息をついた。
「しかしこのまま手ぶらで帰るのも何ですね……」
セラフィは上空からハイランドの防壁を睨む。
「……せめて敵将の一人にでも死んでもらうとしますか」
その視線の先には、防壁上にいるホプキンの姿があった。
セラフィムは翼をはためかせると、眼下にいるホプキンめがけて降下を始める。
「……!」
しかしその時、夜空を切り裂いて何かが飛来した。それは10本ほどの矢だった。
セラフィムはとっさに身をよじる。ほとんどの矢はセラフィムの身体をかすめていったが、数本がセラフィムの体に吸い込まれる。だがその矢はセラフィムの体に刺さることなく、弾かれて地面へと落ちていった。
「何者……!?」
セラフィムは矢が飛んできた方向に目を向ける。大きな白い影が目の前に迫っていた。
「くっ……!」
セラフィムは寸前でそれをかわす。セラフィムの身体があった場所を鋭い槍の穂先が通り過ぎていった。
「一瞬ハーピーかと思いましたが……見たことのない姿ですね」
セラフィムを襲った白い影は優雅に翼を羽ばたかせながら空中で方向を変え、セラフィムと対峙する。それは白い馬の下半身と翼を持ち、上半身は人間の女性の姿をしていた。ペガタウロスの族長、”天姫”のヴィクトリアだ。報告を受け、ミドルンから急いで飛んできたのだった。
ヴィクトリアの左腕には小型のクロスボウが装備されている。それで攻撃を仕掛けた後、右手に持ったランスで突撃を仕掛けたのだ。
「ダルフェニアの異種族……まったく珍妙な……」
セラフィムが嫌味を言おうとしたその時、また別の影が襲い掛かってきた。
「!」
どうにか身をよじったセラフィムの側をヴィクトリアとは別のペガタウルスが飛び去る。しかしそこにまた別のペガタウルスがランスを構え突撃してきた。
その穂先がセラフィムを捉える。命中したランスはセラフィムの胸元を切り裂いたが、致命傷となるような傷とはならなかった。
「……!?」
攻撃を当てたペガタウルスの赤い目が驚きで丸くなる。ペガタウルスたちは一様に銀髪と赤い瞳をしていた。いわゆるアルビノだ。
美しい姿をしたペガタウルスたちは10人ほどいた。セラフィムを囲むように翼をはためかせている。ワイバーンも住むバーランド山脈の空で生きてきた彼女たちが弱いはずもない。個々の戦闘力が高いのはもちろん、その連携力で自分たちよりも強い相手を仕留めてきたのだ。
「おのれ……!」
セラフィムは傷を抑えながらペガタウルスたちを睨みつけた。
「……おかしいですね。人間であれば今のランスの一撃で死んでいるはずですが。どうやらその翼以外も普通ではないようですね」
ヴィクトリアが油断なくセラフィムにランスを向けながら呟く。
「獣ごときが我々に勝てると思うな!」
それまでの態度を一変させ、セラフィムが怒りをあらわにする。そして手で印を組み始めた。指には大きな宝石の付いた指輪がいくつもはめられており、それが不思議な光を放つ。
「気を付けて、何か……」
ヴィクトリアが警告の言葉を発しようとした瞬間、セラフィムの空間が一瞬歪んだ。そして空気が爆発したかのように衝撃波がペガタウルスたちを襲う。
「きゃあっ!」
衝撃波に吹き飛ばされ、ヴィクトリアは木の葉のように宙を舞った。上下の感覚が無くなりそうになるほど回転した後、翼をはためかせてどうにか体勢を維持する。
素早く周囲を確認するとヴィクトリアと同様に体勢を立て直したペガタウロスの姿が見えた。しかし衝撃波で気を失ったらしい数人のペガタウルスが落下していく。
「いけない!」
ヴィクトリアは慌てて気絶したペガタウルスのもとへと急ぐ。ペガタウルスたちは地面へと激突する前にどうにか仲間を救出することが出来た。
一人の仲間を抱えたヴィクトリアは空を睨みつける。しかしそこにはすでにセラフィムの姿はなく、遠くにセラフィムのものらしき小さな影が見えるだけだった。
「あれは一体……」
セラフィムが飛び去った方角を見つめながらビクトリアは眉をひそめた。
「追いますか?」
ヴィクトリアの傍らに飛んできたペガタウルスが尋ねる。
「……いえ、やめておきましょう」
ヴィクトリアは小さく首を振った。
「相手の力は未知数です。アデル様は何よりもまず自分たちの安全を確保するようにとおっしゃってくれています。報告を優先し、今後の対策を立ててもらいましょう」
ヴィクトリアたちはハイランドへ通り、ホプキンと情報共有を行う。そして得られた情報を抱え、ミドルンへと戻っていったのであった。
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