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成り行き英雄建国記 ~辺境から成り上がる異種族国家~  作者: てぬてぬ丸
第十三章 跋扈の章

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力の差(ハイランド)

誤字報告ありがとうございました。

 闇夜に救命騎士たちの持ったハルバードの穂先がキラリと光る。ハルバードは長槍の穂先の脇に斧のような刃が付いた武器だ。突くのにも斬るのにも使え、斧の部分を相手に引っ掛けて転ばしたりすることもできる。


 しかしその重量と長さから、通常は両手でやっと扱える武器だ。それを救命騎士たちは片手でやすやすと扱っていた。隊列を作り、一糸乱れぬ行進。そして獲物が攻撃範囲に入るや否や、そのハルバードが一閃する。


 兵士たちは当然かわそうとするが、その鋭い攻撃から逃れられなかった。盾で受け止めようとしても、そのすさまじい膂力で盾ごと身体を貫かれた。それではと遠くから槍を投げつける兵もいたが、簡単に盾で弾かれてしまう。


「こ、こんなのどうやって倒すんだよ……!?」


 ハイランドの守備兵たちは救命騎士たちの恐ろしさに圧倒される。


 だがその時、背後から特務守備隊が現場に到着した。


「落ち着け! 敵の動きは鈍重だ。距離をとれば危険はない!」


 特務守備隊の隊長が守備兵たちに大声で叫ぶ。


「ここは我々が受け持つ! お前たちは住民の避難を!」


「りょ、了解!」


 階級があいまいなダルフェニア軍において、特務守備隊と町の守備兵のどちらが上かなどは決まっていなかったが、自然と守備兵たちは特務守備隊の指示に従った。


「お、おい、盾を持っているなんて聞いてないぞ……」


 だが特務守備隊の兵士の一人が呟く。カイバリーに現れた救命騎士はハルバードしかもっていなかったのだ。


「想定の範囲内だろ」


「で、でも、あれじゃ長槍の攻撃なんて……」


「少しでも足を止めれればいい!」


 特務守備隊はそんなことを言い合いながら、救命騎士たちの前に隊列を組む。


「クロスボウ、装填急げ!」


 特務守備隊の面々は救命騎士に睨みを利かせながら、背後でクロスボウの準備をしている味方に声をかける。


「ま、待て! 今準備をしている!」


 大型クロスボウを準備している兵士が苛立たし気に声を上げる。このクロスボウは威力がある反面、重量や反動が凄まじく、支柱で地面に固定しなければ扱えなかった。兵士たちは急いでクロスボウの足元に杭を打ち込み、地面に固定している。


「い、急いでくれ! もう敵がすぐそこまで来ている!」


 特務守備隊の兵士が悲鳴のような声を上げた。動きはゆっくりに見えるものの救命騎士の歩幅は大きく、すでに展開した特務守備隊に近付いている。


 特務守備隊は長槍で救命騎士たちを叩き潰すように振り下ろすが、命中しても救命騎士たちは全く動じなかった。攻撃を仕掛けて退くのが遅れた特務守備隊の兵士に救命騎士のハルバードが繰り出される。ハルバードは狙い通りにダルフェニア兵を突き刺すが、救命騎士は喜ぶ様子もなくハルバードを振り払う。刺されたダルフェニア兵の体が千切れながら闇夜の中へと飛んでいった。


「装填完了! 射線を開けろ!」


 クロスボウの準備をしていた兵士が叫ぶ。救命騎士に立ち向かっていた兵士たちが道の両脇へ届いた。


「くらえっ!」


 数台の大型クロスボウから矢が放たれ、救命騎士たちへ襲い掛かる。しかし半分以上は救命騎士の構えた盾に弾かれてしまっていた。少しでも命中時の角度が浅くなると、大型クロスボウといえども大盾を貫くことはできないようだ。


 結局、盾を貫けた矢は二本だけで、一本は盾を構えた救命騎士の腕を、もう一本は救命騎士の額を貫いていた。額を貫かれた救命騎士は崩れ落ちるが、後続の救命騎士は無表情にその身体を踏み越えていった。


「ぜ、全然効いてないぞ!」


「それに台数が足りない!」


 特務守備隊の兵士たちは狼狽える。最も効果があると思われた大型クロスボウが不発に終わったのだ。また通りの道幅では大型クロスボウが展開できる数も限られており、救命騎士たちの足を止めるには至らなかった。


「次弾装填を……」


「駄目だ、間に合わない!」


 すでに大型クロスボウの元にも救命騎士が接近していた。固定された大型クロスボウは簡単に撤去することもできず、ハルバードの一振りで破壊される。吹き飛んだクロスボウの残骸にあたり、一人のダルフェニア兵が倒れた。


 その様子を現場に到着したホプキンが馬上から距離を置いて見ていた。


「くっ、特務守備隊でも足止めすらできてないではないか……!」


 ホプキンが顔を歪める。


「敵は少数だ! 囲んで背後から攻撃しろ!」


 ホプキンが兵士たちに指示を出す。救命騎士たちの数は二百人程度。一方、ハイランドの守備兵は特務守備隊と合わせて千人以上いる。ホプキンの命でダルフェニア兵たちは通りを回り込み、背後へと回った。


 敵に前後を囲まれるというのは対処がしにくいだけではなく、精神的にもプレッシャーとなる。しかし恐怖を知らぬ救命騎士たちはまったく動じる様子もなく、半分ほどが向きを変え回り込んだ兵士に対処しようとしている。


「だ、駄目です! まったく隙がありません!」


 背後に回ったダルフェニア兵が怖気づいて叫ぶ。構えた剣が恐怖で震えていた。周りを囲んでいるのはダルフェニア兵の側だというのに、むしろ救命騎士たちがダルフェニア兵を追い詰めているような雰囲気だった。


(通常兵力で勝てる相手ではないか……カイバリーでもワイバーンやアデル様たちがいてやっと勝てた相手だ……!)


 ホプキンは諦めた様子で狼狽えるダルフェニア兵たちを見つめた。ホプキン自身も戦いが得意ではなく、指揮にも自信はない。


(せめてガルツ要塞のような堅牢な防壁で迎え撃てる状況であれば……)


 ホプキンは現状を嘆き、ため息をついた。


「ん?」


 その時、ホプキンはあることに気付く。救命騎士たちが二手に分かれたのだ。片方は特務守備隊の方へ、もう片方は後ろへ回り込んだダルフェニア兵たちに向かっている。


(これは……)


 ホプキンはその光景を茫然と見る。そして頭の中にある考えが浮かんだ。


「……退くぞ」


「は?」


 ホプキンの呟きに近くにいた兵士が信じられないといった様子で顔を上げる。


「撤退だ! 全兵士に伝えろ!」


 ホプキンはそう命じると馬を操り、町の外へ向かって走り始めたのであった。


お読みいただきありがとうございました。

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