交戦(ハイランド)
突如ハイランドに現れた救命騎士団。その姿に、捜索に当たっていた兵士たちは慌てふためいた。
「ホ、ホプキンさまに報告だ! 残りはここでこいつらを足止めする!」
隊長格の男が叫ぶ。一人の兵士が報告のためにその場から走り去ろうとした。
その様子を背中から翼を生やした美女――神空騎士が見つめる。
「いけません」
セラフィムはそう呟くと腕を振るった。走り去ろうとした兵士は背中を何かに切り裂かれ、地面に倒れる。
「早く見つかっていいことなどないですからね……ん?」
セラフィムは首をかしげる。頭のすぐ脇を何かが高速で通り過ぎた。
それは一本の矢だ。セラフィムが矢の飛んできた方向を見ると、一人のダークエルフが弓を構えて立っていた。
「こんな小さな町にもダークエルフが……?」
セラフィムは眉をひそめて呟くと、翼をはばたたかせながら跳躍した。セラフィムは翼の力と脚力で一気にダークエルフとの距離を詰める。しかしダークエルフも瞬時に弓を捨て、短剣を手にしていた。
「化け物め!」
「お互い様」
ダークエルフに対して軽口をたたきながらセラフィムは腕を振るった。ダークエルフのかまえた短剣が切断される。そして上体を逸らしたダークエルフの胸元からも血が噴き出した。
「くっ……!?」
ダークエルフは後ろへと倒れ込む。致命傷は避けたがかなりの出血だった。
「良い血ね。流すのはもったいないけど」
残念そうに言いながらセラフィムは倒れたダークエルフに向けて腕を上げる。
「空気障壁!」
突如その腕が白い靄に包まれた。まるで泥沼に突っ込んだかのように腕の動きが鈍くなる。濃密な空気がセラフィムの腕の動きを封じているのだ。
「なに!?」
少し驚きながらもセラフィムはその白い靄から腕を引き抜く。その直後、暗闇を切り裂いていくつかの煌めきが飛来した。
セラフィムが腕を振るう。金属音とともに、数本の投げナイフが地面へと落ちた。
「もう一匹いましたか」
セラフィムが暗闇を睨む。そこには闇と同化するように立つ、別のダークエルフがいた。しかしそのダークエルフはすぐさま路地へと姿を消す。
「いいのですか? 味方を見殺しにして……」
セラフィムは倒れたダークエルフの方を振り返る。しかしそこにはすでにダークエルフの姿はなかった。
ダークエルフは能力が高く万能で神竜王国ダルフェニアにとって貴重な戦力だ。アデルは彼らの消耗を避けるため三人組での行動を徹底させている。一人が行動中、もう一人はそのサポートに回り、もう一人は待機・休憩するといった具合だ。
この時は異常な魔力を感知し、ハイランドにいた一組のダークエルフ全員が現場に向かっていた。そして一人が気を引いている間にもう一人のダークエルフが傷ついた仲間を回収したのだ。
「やはりダークエルフは厄介ですね……」
セラフィムは眉間にしわを寄せる。そしてすぐに空に向かって飛んでいくいくつもの魔力を感じた。
「ダークエルフがこんなに……!?」
ダルフェニア軍では魔力がある程度高いものには連絡役として風魔法を覚えさせ連絡役としている。ハイランドにも十名ほどの魔法を使える兵がおり、緊急事態を受けて風魔法にメッセージを乗せて飛ばしていた。セラフィムはそれら全てがダークエルフによるものだと勘違いしたのだ。
「万が一ということもあります。救命騎士たちには命令を残し、私は離れた方がよさそうですね」
セラフィムは一人呟く。
「うぎゃぁっ!」
ダルフェニア兵から悲鳴が上がる。救命騎士団のハルバードで貫かれたのだ。
「そのままダルフェニア兵を殺しなさい」
セラフィムは救命騎士たちにそう命じると、翼をはためかせ夜空へと消えていったのだった。
「きゅ、救命騎士団による奇襲だと!?」
ホプキンは報告を聞き驚愕する。そして茫然とハイランドの街並みに視線を向けた。
「こんな街中に突如現れるとは……」
ホプキンは苦々し気に呟く。ハイランドの町を囲む防壁は以前はボロボロであったが、今は強固な防壁に作り変えられている。しかし内側に現れられては、その防壁もあまり意味をなさなかった。
「特務守備隊の出撃を急げ! 防壁上のバリスタ部隊も移動の準備をしろ! 寝ている兵もたたき起こして住民の避難誘導だ!」
ホプキンは命令を下すと、自らも武具の準備を始めた。
「急げ!」
ホプキンの命を受け、ハイランドの通りをひとつの部隊が走る。それは「特務守備隊」と名づけられた特別な部隊だった。神竜王国ダルフェニア領内に救命騎士団のような部隊が現れ、奇襲を仕掛けてくることを想定して作られた迎撃用の部隊だ。
「特務守備隊」の基本的な戦術思想は「まともに戦わない」ことである。強靭な肉体を持つ救命騎士たちと接近戦を挑めば力負けするのは歴然だ。さらに救命騎士たちはいくらダメージを与えても痛みを感じず、脳やせき髄を破壊しなければ完全に動きを止めることはできない。
そのため長槍を武装として相手の剛撃範囲外からの攻撃をメインとする。また二人掛かりで操作をする支柱付きの大型クロスボウが配備されており、遠距離から強烈な一撃をお見舞いすることが可能だ。そうして衝撃を与えたり部位を破壊して倒れた救命騎士を鉄槌を装備した兵士が「粉砕」するというのが基本戦術だった。
すでに当直の兵士が現場に駆け付け、救命騎士たちと対峙している。だがその多くは傷つき、倒れていた。
「あれが救命騎士……!」
その姿に特務守備隊の隊員たちは戦慄する。訓練はしたものの、実際に目の当たりにするのは初めてだった。
全員が筋骨隆々の大男。それが分厚い鎧を身にまとい、常人であれば両手でも持つのが難しい大きなハルバードと大盾を片手で難なく扱っている。その攻撃は正確無比で、少しでも攻撃範囲に入ってしまった兵士を目にもとまらぬハルバードの一撃で仕留めていた。
「ぜ、全員交戦開始!」
特務守備隊の隊長が震える声でそう命じた。
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