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正体(イルスデン)

「……なぜそう思うですか?」


 フォスターの考えは自分と同じであったが、それでもユリアンネは警戒を解かずフォスターに尋ねた。


「姿はもちろんしゃべり方までジークムント様にそっくりです。しかし根本的な発想が違います」


 フォスターは目を瞑って小さく首を振った。


「ジークムント様は何よりも帝国に住まう人々のことを考えておいででした。だからこそ多くの人々が彼を慕い、”カザラスの未来”と称したのです。しかし現在のジークムント様は真逆です。国のために人々が尽くすべきと考えています。ラーベル教を信仰しない者を冷遇するというのが良い例でしょう。ロデリック陛下にもそういう部分はあられましたから、皇帝という立場が……いや、失礼いたしました」


 話していたフォスターだったが、ロデリックと今のジークムントを並べたことでユリアンネが嫌な顔になっているのに気づき、話を中断した。


「かまいません。しかし……それだけですか? 何かもっと確証に迫ることはありませんか?」


 ユリアンネがフォスターに話を促す。


「ホットワインですね」


「ホットワイン?」


 フォスターがふいに出した言葉に、ユリアンネとヴァシロフは怪訝な表情になった。


「ええ。以前はよく作って差し上げていたと言ってお出ししたのです。ジークムント様はお疑いにならず、お飲みになりました。もっとも実際は初めて作ったので、香辛料を入れ過ぎてしまいましたがね」


 フォスターがいたずらっぽく笑う。そんなフォスターの表情を見るのは初めてだった。


「なるほど。ジークムント様にカマをかけたというわけか……しかしジークムント様は生死の境をさまよっておられた。記憶があいまいな部分もあるとおっしゃられている。覚えていなかったとしてもおかしくないのでは?」


 ヴァシロフが眉間にしわを寄せつつフォスターの話に異議を唱える。


「おっしゃる通りです。覚えていないのであれば仕方のないことでしょう。しかし問題はそこではないのです」


 フォスターはヴァシロフを見据えて言う。


「覚えていらっしゃらないならそう言ってくだされば良い。ジークムント様はつまらない嘘をつくような方ではなかった。しかし今のジークムント様は嘘をついて誤魔化しになりました。まるで覚えていないことを知られると都合が悪いかのように……」


 少し遠い目をしてフォスターは語る。


「それでも……確証とは言えぬな」


 ヴァシロフは複雑な表情のままだった。


「もちろんです。それに私だって信じたいですよ。本当にジークムント様が戻ってきてくださったのだとね。しかし……今のジークムント様を疑いなく信じるわけには行きません」


「……私もそう思います」


 ユリアンネはフォスターの言葉に同意した。


「ですが、これは私やフォスターのようにジークムントお兄様と近しい者にしか信じてもらえぬことかもしれません」


「確かに。お心変わりをしたというのならわかりますが、別人というのはなかなか……」


 ユリアンネの言葉にヴァシロフが唸る。ヴァシロフはまだジークムントが別人であるという話に納得したわけではなかった。


「この話は……ジークムント様が別人であるという話より信じてもらえないかもしれませんが」


 フォスターは逡巡しながら話す。


「実はダルフェニアでラーベル教会が操る恐ろしいモノが確認されました。恐らくですが、死体を再生し、かりそめの命を与えて心を持たぬ兵士としているのです。肉体は強化され、死の恐怖も感じぬ彼らは強敵でした」


「本当にそんなことが?」


 ヴァシロフは半信半疑だった。


「死体を再生……つまりジークムントお兄様の死体を蘇らせたということですか?」


 ユリアンネの言葉にフォスターは頷いた。


「ラーベル教は傷を治す魔法を使います。それを応用すれば肉体を強化したり、死体を復活させることも難しくはないとか」


「本当にお兄様が蘇ったのであれば喜ばしいことですが……」


「……いえ」


 フォスターはため息をつきつつ、ゆっくりと首を振った。


「肉体は再生できても、この世から去った魂を呼び戻すのは大変困難だそうです。莫大な魔力が必要となり、ダークエルフや神竜ですら不可能なのだとか……」


「肉体は戻せても魂は戻せない……」


「では……別の誰かの魂が入っていると?」


 フォスターの話にヴァシロフとユリアンネは表情に険しさを増す。


「……ジークムント様がお戻りになる前、丁度良いタイミングで亡くなったラーベル教会の重要人物がいました」


「マクナティア大司教……ですね」


 ユリアンネの出した名前にフォスターは重々しく頷き、ヴァシロフは驚愕した。


お読みいただきありがとうございました。

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