親族(ロスルー)
更新遅れて申し訳ありません。
クロディーヌとサラディオはしばらく再会を喜んでいた。
「ところで、王位継承の証は持ってるの? カザラス王国に取られちゃった?」
しかしいつまでも待っているわけには行かず、ラーゲンハルトが尋ねた。
「金の雫か。女王に預けてある」
「女王……イルヴァちゃんと交易してる最大部族の族長って人だね」
サラディオの言葉にラーゲンハルトが思案顔になる。
「言葉だけでは信用できないか。その気持ちはわかるが、残念ながらすぐに返してもらうわけにはいかない」
「あはは、別に信用してないわけじゃないよ。なんなら偽物だって別に構わない。元ハーヴィル兵たちが信じてくれるならね」
ラーゲンハルトは笑いながら言う。
「君みたいな若くて頼もしいイケメンの王子が生きてたとなれば、ハーヴィルの兵たちの士気も上がる。まあ見た目だけで、中身が無能だと困るけど」
ラーゲンハルトはそう言いながらアデルを見る。アデルはブンブンと首を振った。それを見てラーゲンハルトは安心したように微笑む。
「ただし一般市民向けには、新しいハーヴィル王国は神竜王国ダルフェニアの政策を参考にするとか言っておいたほうがいいと思う。国民生活優先の神竜王国ダルフェニアの統治から、昔のハーヴィル王国みたいな軍事優先の政策に変わったら、住民たちは不満に思っちゃうかもしれないからね」
「ハーヴィルの再興を認めてくれるのか? 話が早いな」
ラーゲンハルトの話を聞きサラディオは意外そうに言った。
「そこはアデルさんたちと話し合ってて、私たちの頑張り次第で領土を返してもらえるって話になってるんだよ」
クロディーヌがアデルたちとの約束をサラディオに説明する。
「なるほどな。具体的にどの程度返してくれるという話が無ければ不安ではあるが……だが贅沢を言える立場でもないな」
サラディオは少し不満そうであったが、納得はしている様子だった。
(ラーゲンハルト……カザラス皇帝の子供か。軽薄そうな人柄に似合わず切れ者と聞いているが……確かにそのようだな)
話の中心がサラディオたちになったため、ラヒドは黙って会話を聞きながらそこにいる面々を値踏みしていた。
「金の雫はこちらで預かろう。我々が持っていた方が安全だろう」
イルアーナがサラディオに言う。
「なんだ、ダークエルフも金目のものに弱いのか?」
「ふん、人間と一緒にするな。あれはカザラス帝国……と言うより、ラーベル教会が狙っている。奴らが本気になれば、遠く離れた場所にも兵を送り込んで来るだろう」
眉をひそめるサラディオの言葉をイルアーナは鼻で笑った。
「化け物か……確かに北の戦いでも遭遇したな」
サラディオは少し俯き、ノルデンハーツでの戦いのことを思い出していた。
「どんな化け物だったのだ?」
イルアーナの問いにサラディオは自分たちが戦った化け物の話をする。
「それに敵将のカイも、途中でその化け物たちみたいな姿になっていたな」
「えっ? じゃあ、めちゃくちゃ凶暴になってました!?」
サラディオの話にアデルが食いついた。
「凶暴? 戦いの最中だったからよくわからないが……」
サラディオはいまいち質問の意図がわからず、怪訝な顔になる。
「完全に理性を失って獣みたいになってた? もう言葉をしゃべれなくなってる、みたいな」
そこにラーゲンハルトがフォローを入れる。
「獣? いや、凶暴ではあったが、理性的な戦い方をしていたと思うが……それに戦いの最中にもしゃべっていたようだった」
サラディオの答えを聞き、アデルたちは顔を見合わせる。人間が変身したと聞き、アデルたちはラングール共和国のバーデンで戦った「教信者」を思い浮かべていた。魔法で生きている人間の筋肉を異常に発達させるが、代わりに理性を失ってしまう。そんな獣にされたのがラーベル教の信徒であったことから、アデルたちはそれを「教信者」と名づけたのだ。しかし言葉をかわせたとなれば「教信者」とは少し違う。
「何かまた新種の何かを作ったんですかね……」
アデルは不安げに呟く。
「かもしれない。それだとちょっとマズイね」
ラーゲンハルトは天井を仰いだ。
「獣や魔物に、身体能力で劣る人間が対抗できるのは、装備や戦い方によるものだ。化け物みたいな力を持った奴らが人間みたいに戦えるとなったら……」
「た、大変じゃないですか!」
ラーゲンハルトの話を聞き、アデルは慌てだす。
「落ち着けアデル。ノルデンハーツではそれを撃退できたのだろう? 我々の戦力をもってすればそれほど恐れる敵ではないだろう」
イルアーナはそう言ってアデルを落ち着かせようとした。
「ずいぶんと見くびってくれるな。化け物たちを倒せたのは、冒険者ギルドの腕利きやドレイクと名乗る謎の剣士が力を合わせた結果だ。そう簡単に……」
「ドレイク!?」
少しムッとした様子で言い返そうとしたサラディオの言葉をアデルの驚愕が遮る。
「ドレイクって……中年でこういう風貌の……」
「ああ、そうだ。知り合いか?」
アデルの説明に訳が分からない様子のサラディオが頷く。
「そ、それ僕のお父さんです!」
「はぁ!?」
サラディオとラヒドは同時に驚きの声を上げた。
(そういやドレイクのやつ……アデル王のことを知っている様子だったな)
ラヒドは以前、ドレイクがアデルの名を耳にした時の様子を思い出した。
「あいつの息子か……なるほどな。確かにそれなら国のひとつやふたつ、簡単に滅ぼしそうだ」
サラディオはもはや呆れた様子で呟いた。
「と、父さんは今何をしているんですか!?」
「さあな。こっちが聞きたいくらいだ」
サラディオとラヒドは共に肩をすくめる。
「あいつが何をしたいのかはよくわからないが……何か魔法を使う集団のことを探してたみたいだったぜ」
「そうだな。あいつがラーベル教の大司教を殺した時は、さすがに肝を冷やした」
「えぇっ!? あれ父さんの仕業なんですか!?」
ラヒドとサラディオの話にアデルはまたも驚く。
「とにかくあいつは謎だらけだ。勝手に動くから、今はどこで何をしているやら……」
「そうなんですね……すいません、父さんがご迷惑をおかけして……」
呟くサラディオにアデルが頭をペコペコと下げた。
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