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相性(ロスルー周辺)

更新遅れて申し訳ありません


 蛮族たちに忍び寄る影に気付き、ラヒドは目を見開いた。


「おい!」


 ラヒドは警告の言葉を発しようとする。だがその時、自身の背後にも微かな気配を感じた。


「くそっ!」


 ラヒドは振り向きもせずに背後に剣を振るった。大振りなその一撃はかわされれば致命的になりかねなかったが、気配の主は大きく飛び下がりラヒドは事なきを得た。


「な、なんだてめぇらは!」


 そこでようやく他の蛮族たちも異常に気付き、剣を手に周囲を警戒する。死角をなくすために互いに背中を合わせていた。忍び寄っていた影は散開するように蛮族たちから離れる。


「お前たちはカザラス兵ではないのか?」


 その影たちから声が発せられた。闇に紛れるような黒い装束に身を包み、顔も黒い布で隠している。


「カザラス兵だと? そんなお上品なものに見えるか!」


 ラヒドは冷や汗をかきながら声を張り上げた。


(こいつら……かなりやるぞ)


 影のような者たちの数はラヒドたちの半分以下だった。それでも彼らの声や態度に焦りの色は微塵も感じられない。


(仲間がいるのか、それとも腕に自信があるのか……)


 ラヒドは剣を握りなおしながら影のような者たちの顔を睨みつける。


(……ん?)


 その時、ラヒドは違和感を感じた。相手が頭に巻いた布から、長くとがった耳が出ていることに気付いたのだ。その耳やわずかにのぞく目元の肌は、日に焼けたラヒドたちよりもやや黒に近い。


「まさか……ダークエルフか!?」


 ラヒドが驚く。


「ダ、ダークエルフだって!?」


 周囲の蛮族たちも色めきだった。


 ダークエルフと言えば少し前までは幽霊や悪魔と同じく多くの人にとって、出会ったことはなくとも恐ろしい存在として認知されていた存在だ。人間と手を結んだということで神竜王国ダルフェニア内ではだいぶその印象は和らいだ。


 だがダークエルフは神竜王国ダルフェニアの外ではいまだに恐怖の対象だった。ドラゴンほどは目立っていないものの、その噂通りの力は戦争の内外で発揮されている。実際に戦っているカザラス兵にとってはおとぎ話で聞く以上に脅威的な存在となっていた。


「貴様らは?」


 ラヒドの問いに答えることなく、ダークエルフが尋ねた。凄んでいるわけでもないのに、その声からは威圧感が感じられる。


 尋ねられたラヒドは一瞬躊躇しつつ仲間と視線をかわしたが、意を決して口を開いた。


「俺たちは砂漠の民だ。こっちの人間には『蛮族』とか呼ばれているな」


「そうか」


 ダークエルフの返事は素っ気ないものだった。ラヒドは興味を持たれていないと感じたが、実際にはダークエルフの予想通りだったからだ。


「あんたらはダルフェニア軍の手の者かい?」


 ラヒドは挫けずにまた尋ねる。


「そうだ。他に我らと手を結んでいる人間はおるまい」


 ダークエルフは当然といった調子で答える。


「じゃあ俺たちはカザラス帝国と戦う仲間だな」


 剣を収めながら、ラヒドは笑顔で言った。


「敵が同じだからと言って味方とは限らんだろう」


 しかしダークエルフは冷静に返した。ダークエルフは当然のことを言っているのだが、ラヒドは冷たくされていると感じた。


(こいつらとは気が合いそうにねぇな……)


 砂漠の民の臨機応変さに馴染んでいたラヒドにとっては、ダークエルフの毅然とした態度はとっつきにくいものだった。


「住民がどこに消えたか知っているか?」


 ダークエルフはまだ警戒しつつラヒドに尋ねる。


「さあな。俺たちが見てきた村も無人だったが……」


 ラヒドは肩をすくめた。蛮族たちは略奪のために周囲の村を訪れていたが、住民がいなかったため実入りが少なく、仕方なくこの町にやってきていた。


「そうか、ならいい。さっさと立ち去れ、ここはダルフェニアの領土だ」


「はぁ? な、なんだって!?」


 ダークエルフの言葉にラヒドが食いつく。


「文句があるのなら力づくで追い出すまでだ。領土を荒らされては困るからな」


 ダークエルフは細身の剣を構えて言った。


「そ、そうじゃねぇ! 本当にダルフェニア軍がこんなとこまで制圧したってのか!?」


 ラヒドはダークエルフにぐいっと近付いて尋ねる。


「そうだ。正確にはロスルーを攻略しただけだがな。この辺の町や村は攻めるまでもなく住民が姿を消してしまった。我々は周辺の調査と偵察をしているところだ」


 ダークエルフは剣を盾のようにしてラヒドが顔を近づけるのを防いでいる。ダークエルフからしてもグイグイ来るラヒドは苦手なタイプのようだ。


「そうか……カザラス軍を追い出したか……」


 ラヒドは何やら思いつめた様子で呟く。その間にダークエルフは距離をとっていた。


「とにかく警告はしたぞ。次にうろついているのを見つけたら、容赦なく攻撃する」


「ま、待ってくれ!」


 離れようとするダークエルフたちにラヒドが追いすがる。ダークエルフは露骨に嫌そうな表情になった。


「アデル王に伝えてくれ! 俺たちには神竜王国ダルフェニアに力を貸す意思があると!」


「何?」


 ラヒドの言葉に、ダークエルフたちは困惑した様子で顔を見合わせた。

お読みいただきありがとうございました。

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