緑化(ロスルー周辺)
更新遅れて申し訳ありません。
誤字報告ありがとうございました。
ロスルーの東にあるというラーベル教の聖地を探索するため、アデルは探索部隊を編成した。メンバーはアデルにイルアーナと数人のダークエルフ、そしてエレイーズと彼女の部下の騎士が数人だ。さらにポチ、ピーコ、ひょーちゃんも同行することになった。死の砂漠が生まれる前のことを知っている彼女らの意見を聞くためだ。
レイコとデスドラゴンは「めんどくさい」という理由で同行を断った。魔法文明との戦いでこの二人だけが行かなかったのも、こういった性格なのだからだろう。
ロスルーから一日ほど東へ馬車で進むと、目的の場所が見えてきた。
「あれか……」
イルアーナが前方を見ながら呟く。その視線の先には奇妙な塔がそびえたっていた。
塔は小高い岩山の陰に隠れるようにして建っている。その麓には壁で囲まれた集落があるようだ。民家の屋根は黒くなっており、火でも放たれた跡のようだった。
「あれが……?」
アデルはポカンと塔を見つめる。アデルはファンタジー世界の石積みの塔を想像していたが、その塔の壁にはほとんど継ぎ目がなく、まるでコンクリートで作られているかのようだった。劣化なのか破壊されたのか、塔の上部は損傷している。
「ふむ。ここにマナが吸われていたようじゃな」
ピーコが南側に広がる「死の砂漠」を見ながら呟いた。その横でポチが頷く。
死の砂漠とは言っても、かなり草原が砂漠を侵食している。ここ十数年で死の砂漠は急激に緑化していた。かつては南から風が吹くたびに砂が吹き付けていたロスルーもそのおかげでだいぶ住みやすくなっている。
「マナが……吸われる……?」
アデルは首を傾げた。
「元々この辺りは緑豊かな土地だった。だけど魔法文明の末期にこの辺りのマナが急激に失われていった。砂漠の広がり方から見てもここに吸われてるみたい」
ポチが物憂げにつぶやく。
「大地を砂漠に変えてしまうとは……なんと恐ろしい力なのでしょう」
エレイーズは顔を強張らせた。
「しかしそれほどまで強大なマナを集めて、いったい何をしたのだ?」
イルアーナは眉をひそめる。
「さあな。人が減って魔力が集まらなくなっていたのかもしれん」
ピーコは余り興味がなさそうに肩をすくめた。
「だけどこのまま草原になってくれた方がありがたいよね。砂漠じゃ用途に限りがあるし」
遠くに広がる砂漠を見ながらアデルは呟いた。
現代日本でアデルがよく遊んでいた、二頭身のかわいいキャラが様々な地形があるマップに都市を立てて覇権を争うゲーム「チビラゼーション」でも、砂漠地形はあまり資源も取れず領土にしてもあまり意味のない地形だった。実際、生息できる植物も動物も少なく、アデルもどう活用していいかわからなかった。
「草原になった方がいいの?」
「え? そりゃそうだけど……」
ポチの問いかけにアデルが頷く。
「しーちゃんに頼めば早いかもよ」
「しーちゃん?」
アデルはしーちゃんこと海竜王に視線を向ける。しーちゃんは恥ずかし気にひょーちゃんの後ろに隠れていた。
「海竜王だけでは時間がかかるじゃろ。我も力を貸そう」
ピーコがそう言いながら前に進み出る。そしてピーコは両手を空に掲げた。
「……?」
アデルは不思議そうにその様子を見守る。風が少し強くなったが、何をしようとしているのかは理解できなかった。
すると今度はしーちゃんが空に手を伸ばす。アデルには魔力が発せられていることは分かったが、特に何かが起きたようには見えなかった。
しかししばらくするとそれまで晴れ渡っていた空に明らかに雲が増えだしたのが分かった。雲は厚みを増し、陽の光を遮断する。そして間もなく、アデルの頬に雨粒が当たる。それを皮切りに一帯に雨が降り始めた。
「すごい……」
エレイーズが雨にうたれながら呟く。雨の勢いは激しくはないものの、あっというまに大地を潤していった。
(しーちゃん……あんまり強い能力だと思わなかったけど、一度に操れる水の量が半端じゃないな……)
アデルはしーちゃんの能力に圧倒され、雨空を見つめた。
「ピーコ、しーちゃん」
アデルは二人の神竜を見つめる。
「……すごくありがたいんだけど、出来れば帰り道にして欲しかったな」
全身が濡れたアデルは髪から水を滴らせながら言った。エレイーズら神竜騎士団の面々はブレストプレートアーマーを着込んでいる。その下には衝撃を和らげるため綿を詰めた鎧下を付けており、雨に濡れればその重量はかなりのものとなった。
「そっか」
あまり悪びれた様子もなくポチが呟く。雨粒はポチたち神竜の体を濡らすことはなかった。彼女たちを包む魔力が、彼女たちにとって不都合な外的要因を遮断するのだ。
「濡れてるのが嫌なら、ひょーちゃんが凍らせてあげるの!」
「そ、それはやめて!」
やる気を出したひょーちゃんこと氷竜王をアデルが慌てて止める。
そんな小さなトラブルがありつつ、アデルたちは集落を守る扉を開けて中に入って行くのだった。
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