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編入(ロスルー)

更新遅れて申し訳ありません。

 イェルナーに手をかけ、アデルは深いため息をついた。胸の中には気持ちの悪い感覚が込み上げている。


(人はたくさん殺してきたけど……この感覚は慣れないな。特に相手が無抵抗だと……)


 アデルは気持ちを落ち着かせながら剣を収める。


「すいません、ラーゲンハルトさん」


「いや、仕方がないよ。アデル君がやってくれてよかった……」


 兄弟を殺害したことをアデルが謝ると、ラーゲンハルトは強張った笑顔を返した。


「なぜ儂にやらせてくれなかったのです!」


 そこに憤慨した様子のウルリッシュが詰め寄る。


「ウルリッシュさんのお気持ちはわかります。ですが、それではただの復讐です」


 アデルは首を振りながらウルリッシュに言った。


「冷静な判断に基づき、誰もが納得する形で彼の命を奪うならいいでしょう。だけど今のウルリッシュさんは私念で敵を殺そうとしています。それを認めてしまったら、ずっと負の連鎖は止まりません」


「アデル殿は当事者でないからそんなことが言えるのでは? 自分の仲間が殺されてもそんなことが言えますか?」


 ウルリッシュは険しい顔で首を振った。


「自分の仲間が殺されれば怒る。それは当然だ」


 イルアーナが会話に割って入る。


「だが当事者ではないからこそルールに則り冷静に判断ができる。それにアデルの元にいる以上、アデルの判断に従うのが筋であろう。怒りはわかるが、そこは抑えなければならないところではないか?」


「くっ……!」


 イルアーナに諭され、ウルリッシュは奥歯をかみしめる。しかし怒りの感情を押し込み、引き下がった。


「ありがとうございます。状況は?」


 イルアーナとウルリッシュの双方に頭を下げ、アデルは尋ねる。


「降伏した敵、取り残された負傷者は合わせて三千名ほどだった。それとは別に敵の重装騎兵隊が一時的に我々の保護下に入る」


 各隊から魔法によって飛んでくる報告をイルアーナが取りまとめて言う。


「撤退した敵は八千ほどだ。恐らく撤退した敵はドローレン要塞まで後退するだろう」


「そうだね。今後は今までと逆の立場になるかもしれない」


 イルアーナの言葉にラーゲンハルトは頷いた。


 ドローレン要塞は大陸の中央近くに作られたカザラス帝国の要塞だ。征服地域に睨みを利かせるこの要塞はカザラス帝国の軍事力の象徴とも言われている。地形こそガルツ要塞ほど攻めにくい場所ではないが、その規模はガルツ要塞の比ではない。


 もしダルフェニア軍が領土を広げていこうとすれば、遠からず敵が籠城するドローレン要塞を攻略しなければいけなくなる可能性が高かった。


「とりあえずは完勝と言えますかね。神竜の力を借りずに勝ったことでみなさん自信も付くでしょうし」


 アデルはほっとした表情で言う。アデルはなるべく神竜の力に頼らずに勝ちたいと思っていた。その強すぎる力に頼るのは危険だと思ったからだ。また本来であれば人間同士の戦いに関係ない神竜たちをなるべく戦争に巻き込みたくないという気持ちもある。


 ラーゲンハルトも竜王の力に頼りすぎるのは危険と判断していた。「神竜さえいれば勝てる」と思わせてしまえば、兵士たちは訓練に身が入らなくなるし、神竜のいない戦場では指揮が下がるだろう。神竜はあくまでもいざという時の切り札として使うべきだとラーゲンハルトも思っていた。


「だけど今回は化け物が出て来なかったね。どういうことなんだろう。そもそもカザラス帝国としてあんな戦い方を支持するとは思えないし」


 ラーゲンハルトが首をかしげながら呟いた。


「確かにまともな者が考え付く作戦ではなかったが……ではイェルナーの暴走だったということか?  帝国としても想定外に起きた戦いだというなら化け物がいなかったのも理解できるが……」


 イルアーナが考え込みながら言う。


「まあ化け物のこともよくわかってないから何とも言えないけどね。実験体じゃないかって話だったけど、完成品と呼べるようなものがまだ出来ていないのか、それとも完成品が作れるようになって実験体がいらなくなったから局地戦に投入して様子を見ているのか……もしかしたらそのうち化け物だらけの軍隊が送られてくるのかもしれない」


「うぅ、あまり考えたくない……」


 ラーゲンハルトの話にアデルは身を震わせた。


 そして死体の回収などを命じ、アデルたちはロスルーの町へと向かう。


「うわぁっ、懐かしいなぁ」


 アデルは町の門を見て声を漏らした。ロスルーの町を訪れるのはほぼ一年ぶりとなる。


「あはは、そういえばアデル君と初めて出会ったのもロスルーだったよね」


 アデルとともにロスルーの町に入るラーゲンハルトが笑いながら言った。


「そうですよね……あれ?」


 町に入ったアデルは驚きに言葉を失う。大通りの両脇は警備のため、兵士たちによって壁が作られている。しかしその向こう側には多くの住民が詰めかけ、キラキラとした目でアデルたちを見つめていた。


「アデル様がお越しになられたぞ!」


 誰かが叫び声をあげる。すると詰めかけた住民たちから爆発的な歓声が沸き起こった。


「アデル様、バンザーイ!」


「町を開放してくださってありがとうございます!」


 オロオロしつつ進むアデルたちに次々と感謝の言葉が贈られる。イェルナーの蛮行により、町の人々は完全にカザラス帝国への忠誠心を失っていたのだ。


 そしてこの日、アデルは王としてロスルーを正式に神竜王国ダルフェニアの領土として編入したことを発表した。

お読みいただきありがとうございました。

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