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決着(ロスルー)

更新遅れて申し訳ありません。

誤字報告ありがとうございました。

「あれ? どうしたんですかね?」


 第一征伐軍の混乱を見てアデルは不思議そうに言った。


 第一征伐軍の陣内のあちらこちらに火柱が立ち、目に見えて統制が失われたのがわかる。陣形も乱れ、最前線ではダルフェニア兵が簡単にカザラス兵たちを倒していた。


「我々に恐れをなしたのか。情けない」


 カザラス軍に恨みを持つウルリッシュが嘲笑するように言う。


「アデル殿。絶好の好機ですぞ。ここは全軍に突撃を命じ、一気に敵を殲滅すべきです」


「う~ん……」


 興奮気味に進言するウルリッシュだったが、アデルは悩んでいた。


「敵は混乱し、統制を失っている。誰がどう見ても責め時だ。それが我が軍によって引き起こされたものであれば、な」


 アデルの横で戦況を睨みながらイルアーナが言う。


「そうなんですよね。カザラス軍の陣中に忍び込んで工作を行うなんて誰にでもできることではないです。そんなことできるのは冒険者ギルドくらいですかね」


「冒険者ギルドがこちらに連絡もなくそんなことをするのは不自然だ。奴らならここぞとばかりに恩を売ってくるだろう」


「確かに……」


 老獪な冒険者ギルド会長のことを思い浮かべ、アデルは頷いた。そして意を決したように口を開く。


「……一度軍を下げましょう」


「はぁっ!?」


 アデルの言葉にウルリッシュは思わず声を上げた。


「みすみす敵を逃がすというのですか!?」


 ウルリッシュが掴みかからんばかりの勢いでアデルに詰め寄る。


「い、いや、だってもう勝負はついたようなものですし、もしかすると僕らの突撃を誘うための罠かもしれませんよ」


 アデルはオドオドしながらウルリッシュに説明する。


「一カ所二カ所なら混乱の最中に火事が起きてしまうこともあるだろう。だがあれだけ同じタイミングで何カ所も火が起きるというのは何者かの仕業と考えるべきだ。もちろん我々以外のな」


 イルアーナがウルリッシュを諭すように言った。


「そ、そうなんですよ。その意味も分からないまま、その人の思惑通りに事が運んじゃうのも危ないかなと」


 ウンウンとアデルは頷いた。


「くっ……」


 悔し気にウルリッシュは引き下がる。話に納得したというよりは、冷静さを取り戻し、軍の方針に口を出せる立場ではないことを思い出したからであった。


(まあアデルとしては余計な犠牲を出したくないというのが本心だろうがな)


 イルアーナはアデルの心情を推測する。例え敵であっても無駄に殺したくないというのがアデルの方針だ。勝敗が明らかになった今、撤退する余裕を与えたいというのがアデルの本音でもあった。ただ一方で、誰がしたのかもわからない工作を気味悪がっているのも本心である。


 そしてアデルの指示によりダルフェニア軍は後ろに下がり、ロスルーからの攻撃も中止された。その間に獣の森にいたラーゲンハルトがアデルたちの元に合流する。


「おかえりなさい。どうでした?」


「うん、快勝だったよ。獣人たちが敵将も討ち取ったし」


 出迎えたアデルに、ラーゲンハルトは言葉とは裏腹に少し表情を曇らせて答えた。


「ただ獣人ちゃんたちが止まらなくて、敵が逃げられた敵はあんまりいなかったね」


「そうですか……」


「それでこっちの状況は? なんか変な状況になってるみたいだけど」


 ラーゲンハルトがアデルに尋ねる。アデルは現在の状況をかいつまんで説明した。


「なるほど……それにしてもおかしいね」


「そうなんですよ」


 ラーゲンハルトとアデルは第一征伐軍に目を向ける。


 ダルフェニア軍が退いたにもかかわらず、第一征伐軍は相変わらず混乱していた。逃げ出す者もいればその場にとどまる者もいる。しかし統制が取れている動きには見えなかった。


「まさか……指揮官がいないのか?」


 ラーゲンハルトがその様子を見て呟く。


「指揮官が?」


 アデルは首を傾げた。普通、将たちは部隊の中でも安全な位置におり、壊滅状態にでもなっていない限り兵よりも先にやられることはない。


「暗殺でもされたというのか?」


 イルアーナが険しい顔で呟く。


「あり得るね。あれだけ大規模に工作が出来たなら、暗殺もやってておかしくはない。となるとイェルナーが……」


 ラーゲンハルトは沈痛な面持ちになって言った。


「もしかして……それが狙いだったんですかね」


 アデルは何か思いついた様子で呟く。


「『それが』て……暗殺?」


 ラーゲンハルトが首をかしげる。


「いえ、違います。第一征伐軍の将たちを暗殺して、撤退や降伏の判断をできる人がいなくなるようにしたんじゃないでしょうか?」


「全滅するまで戦わせようってしたこと? う~ん、どうだろうね。単純にうちを勝たせようとしたんじゃないのかな。確かに普通の軍ならあの状況で退いたりせず、敵軍を好きなだけ倒しまくっただろうけど」


「余程カザラス軍に恨みのあるものの仕業なら、アデルの説も納得がいく。元ハーヴィルの関係者やロスルーの町の住民ならあり得る話だろう。ただそれだけのことが出来るなら、いままで何もしていなかったのがよくわからぬがな」


 アデルの説にラーゲンハルトとイルアーナがそれぞれ意見を出すが、決定的な結論には至らなかった。


「とりあえず敵全軍に対して降伏を呼びかけましょう。指揮を執る人がいないなら、個人の判断で降伏してもらうしかないですから」


「一応、フレデリカちゃんたちや獣人ちゃんたちを敵の退路を防げるように置いて来たけど、逃げる敵はどうする?」


「それは……見逃してあげましょうか」


「うん、わかった」


 アデルとラーゲンハルトは方針をまとめる。


 そして結局、第一征伐軍の生き残りの大部分は逃げ去り、一部の兵と負傷者だけが後に残された。






「味方が散り散りに退却していきます」


 そんなダルフェニア軍と第一征伐軍の様子を遠目に眺めている部隊がいた。第一征伐軍の重装騎兵隊だ。わけがわからず味方から攻撃され、どうしてよいかわからず戦場から離れていたのだ。


「ダルフェニア軍が逃がしたようにしか見えぬが……それにしても無様な有様だな」


 重装騎兵隊の指揮官は眉をひそめる。統率が取れておらず、カザラス兵はバラバラに逃げている。集団戦を得意とし、鉄の規律を叩き込まれているカザラス軍の姿とは思えなかった。


「我が軍も質が下がったものだ……」


 その様子を見て指揮官は嘆いた。


「我々はどうしますか?」


「そうだな……」


 問いかけられ、指揮官は考え込む。


「不本意だが、一度ダルフェニア軍に降伏しよう」


「なっ!? ほ、本気ですか?」


 指揮官の言葉に兵は驚いた。


「あの様子ならひどい目には合わされまい。それにトビアス様がいらっしゃるなら、一度お会いしたい」


 そして重装騎兵隊はダルフェニア軍に降伏する。こうしてダルフェニア軍と第一征伐軍の戦いは予期せぬ終わり方を迎えたのであった。

お読みいただきありがとうございました。

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