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上空(ロスルー近辺)

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 ダルフェニア軍はガルツ要塞を出発した。狭いガルツ峡谷を進む。そしてガルツ峡谷の出口の少し手前で足を止めた。対するカザラス軍はガルツ峡谷とロスルーの中間地点に陣を敷いている。


 そこで両者は足を止めて睨み合った。ダルフェニア軍はそれ以上進めば、せまい峡谷の出口でカザラス軍から集中攻撃を食らう可能性がある。一方、カザラス軍も峡谷内に進めば数的有利を生かせなくなってしまう。そのためどちらの軍勢も自分から攻めることが出来ずにいるのだった。


 カザラス軍は二千名ほどの兵をロスルーに残していた。ロスルーには領主の管轄する千名ほどの守備兵もおり、合計で三千人ほどの兵が守りを固めている。


 ダルフェニア軍にワイバーンやハーピーで兵士を空輸する能力があることはカザラス側にも知られていた。そして空輸できる兵数はそれほど多くないであろうことも推測されている。


 一万名ほどのダルフェニア軍と二万名ほどのカザラス軍は、どちらも動かないまま二日ほどが経過した。


「ええい、いつまで待たせるつもりだ!」


 カザラス軍の天幕にイェルナーの怒鳴り声が響く。短気なイェルナーは早くもしびれを切らせていた。


「きっとダルフェニア軍は怖気づいているのでしょう」


 ヤナスがイェルナーの気を静めるために思ってもいないことを言う。戦争では何日も動きのないまま睨み合うことなぞよくあることだ。内心ではイェルナーの短気にうんざりしつつも、この硬直状態をダルフェニア軍のせいにすることでイェルナーを落ち着かせようとしていた。


「ちっ。あの忌々しい山脈が無ければ、こちらから攻め込み蹴散らしてくれるものを……」


(こちらから攻めてはいけないことを理解できる程度の知能があって助かった……)


 舌打ちをするイェルナーを見てヤナスは心の中で思った。ヤナスにはイェルナーに対する敬意は欠片もない。


「どうかご辛抱を。動いた以上、ダルフェニア軍は確実に攻めて来るでしょう。動かなければまたロスルーの住民を殺せばいいのです」


「それもそうだな」


 ヤナスの言葉にイェルナーはようやく機嫌を直した。


「早く新兵器でドラゴンを倒し、その頭を部屋に飾りたいものだ」


 イェルナーが暴力的な笑みを浮かべる。そして布陣時から変わりはしていないものの、ヤナスが事務的に現在の自軍の配置を説明した。


 カザラス軍の前衛には主力の重装歩兵部隊が幾重にも配置されている。その背後には三十台の新型大型弩バリスタ部隊が置かれていた。その両脇には騎馬隊や弓兵隊が配置され、前線の援護や側面に回り込んでの奇襲を狙う。そしてその後ろに本陣や物資の集積所、予備隊などが配置されていた。


 予備隊は戦況に応じて投入される部隊であり、臨機応変さが求められるため最精鋭の兵士で編成されている。いわば最後の奥の手として使われる部隊であった。


「さて……俺はもう寝るぞ。警戒を怠るな」


「はっ!」


 イェルナーは退屈な話を聞き終わり、欠伸をすると自身の天幕へと向かう。その背中にヤナスは敬礼しつつ見送った。






「あぁ、首が痛ぇ……」


 カザラス兵が首を抑える。夜の第一征伐軍の陣営には監視のための兵士が多数配置されていた。地上はもちろん、ハーピーやワイバーンを見逃さぬよう空を監視するために兵士が割かれていた。


 空を監視する兵士は当然、ずっと上を向いていなければならない。しかも兜をかぶっているため首の負担は凄まじかった。兵士たちは上官に兜を脱いで空を監視する許可を求めたが、上官は規律が乱れるとしてそれを許さなかった。そのため兵士たちはずっと首の痛みに悩まされることとなった。


 空にはうっすらと雲がかかり、月明りを遮っている。そのためぼんやりとしか周囲が見れず、かろうじて物の輪郭が見える程度であった。


「どうせダルフェニア軍が攻めて来るなら籠城してればいいのに、なんでここに陣を張るんだよ」


「優勢な側が籠城するなんてわけわかんねぇだろ。せっかく相手がガルツ要塞から出て来たのに、逃がすわけには行かねぇ」


 空を見上げながら兵士同士が会話する。


「だけど相手にはドラゴンがいるんだぜ? 優勢かどうかなんてわからねぇじゃねえか」


「そんな弱気じゃ勝てるものも勝てないだろ。俺たちにはラーベル教の加護が……」


 兵士たちが言い合いを始めたその時……


「おい、なにか飛んでないか?」


 一人の兵士が空を指さす。その方向の空には巨大な影が浮かんでいた。さらにその上空にもドラゴンの影がいくつか見える。


「ド、ドラゴンだ!」


「でかいぞ! 普通のドラゴンじゃない!」


「噂の魔竜か!?」


 一気にカザラス軍の陣営がざわめき立つ。


 寝ていた兵士たちも飛び起き、とりわけ新型バリスタ部隊は慌ただしく配置についた。


「巻き上げ急げ! 目標、上空の魔竜!」


 空に浮かぶ巨大な影に向かってバリスタ部隊は標準を合わせる。迫りつつあるドラゴンの影は、すぐ目の前にいるのかと錯覚するような大きさだった。


「う、撃て!」


 隊長の指示に従い、全てのバリスタから矢が放たれる。その攻撃は狙いたがわず巨大なドラゴンの影に吸い込まれていった。


「命中か!?」


 バリスタ部隊は闇夜に浮かぶ影に目を凝らす。しかし空に浮いた影は微動だにしなかった。


「効いてないのか!?」


 兵士たちに動揺が走る。


「次弾、装填急げ!」


 隊長が慌てて指示を出す。


 しかしそのバリスタ部隊に向かって上空にいた小型のドラゴンの影が急降下してきた。それは何かを抱えたワイバーンたちであった。


「ド、ドラゴンが来ます!」


 複数のカザラス兵が悲鳴のように叫ぶ。そんな新型バリスタ部隊に向かってワイバーンから何かが放たれた。それは丸い岩だ。ワイバーンが抱えたカーゴには岩が満載されており、それがバリスタ部隊に向かって放たれたのだ。


 ワイバーンが放った岩は爆撃のように新型バリスタを破壊する。周囲にいた兵士にも無常に岩は降り注ぎ、破片と肉片が撒き散らされた。兵士たちの悲鳴はバリスタの破壊音にかき消される。


「なぜだ! 新型のバリスタですら奴らには通じないのか……!?」


 天幕から飛び出たイェルナーは惨状を目の当たりにし、茫然と呟いた。

お読みいただきありがとうございました。

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