表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
557/825

竜戯王大会(ミドルン)

誤字報告ありがとうございました。

 エルゲイツは客人扱いとなり、大会が終わるまで監視付きながらミドルン城で自由に過ごせることとなった。ラーゲンハルトがミドルンの町を案内し、竜戯王の販売店や神竜グッズの店などを案内していた。


 竜戯王はアデルが開発したトレーディングカードゲームだ。簡略化はされているものの戦争の要素がいろいろ再現されており、軍略を教える教材としても使われるほどである。実際の各国の将兵が登場し、神竜王国ダルフェニア内はもちろん、敵国であるカザラス帝国内ですら徐々に人気が出始めていた。


 竜戯王の対戦は二人で行われる。両者はあらかじめ自分の使いたいカードを組み合わせた「デッキ」と呼ばれるものを作る。そして戦場を模したプレイマット上に部隊や本陣を配置し、先に相手の本陣を破壊した方が勝者となるのだ。


 そして竜戯王大会当日。剣技大会と違い、客席には空席が目立つ。ただ今回は予選に限り競技エリアにも観客の立ち入りが許されていた。客席から竜戯王の対戦を見ても何をしているかわからないからだ。 


 予選はたくさんのテーブルが置かれ、あちらこちらで同時に対戦を行っていく形式だ。上位八名は翌日の決勝トーナメントへの出場権を得る。


 試合が始まると、エルゲイツは圧倒的な強さで順調に勝ち進んでいった。アデルは特別観客席からその様子を見つめる。


(やっぱり……強いな)


 アデルはエルゲイツの能力値を思い出していた。


名前:エルゲイツ・リュプレヒト

所属:カザラス帝国 第三征伐軍

指揮 68

武力 39

智謀 116

内政 75

魔力 37


 エルゲイツの智謀は他の参加者に比べて圧倒的に高かった。そしてエルゲイツは当然のように決勝トーナメントへ駒を進めたのである。


 二日目の決勝トーナメントでもエルゲイツは順当に勝ち進んでいった。決勝トーナメントは一試合づつ行われ、プレイマットを模した大きな掲示板で試合の進捗を再現する。そしてその掲示板を指し示しながらラーゲンハルトとアデルが解説をし、観客に試合の状況を伝えるのだ。さながら現代日本の将棋中継のような形だった。


 エルゲイツ以外の参加者の智謀も70~80台と低くはなかったのだが、番狂わせは起きずエルゲイツが順当に勝ち進んでいった。そして……


「決まったぁ! 勝者はカザラス帝国軍の頭脳、”教授プロフェッサー”エルゲイツ・リュプレヒトだぁ!」


 ラーゲンハルトがノリノリで実況する。決勝トーナメントを制したのはエルゲイツだった。参加者の経歴は観客にも知らされており、現役のカザラス帝国軍人が勝利したことで客席からブーイングが起きていた。


「みんな落ち着いて! 剣技大会でもトーナメントを勝ち進んだだけじゃ優勝できなかったでしょ!」


 ラーゲンハルトの言葉に客席がざわついた。


「おお、まさかアデル様が……!?」


「アデル様! お願いします!」


 客席から期待の声援が飛ぶ。それを聞きアデルはオロオロするしかなかった。


「残念! アデル君じゃないんだ!」


 ラーゲンハルトが芝居がかった様子で首を振る。ラーゲンハルトの言葉を聞き、観客はがっかりした様子だった。


「最後に立ちはだかるのは……この僕、ラーゲンハルトだ!」


「ほう」


 それを聞き、エルゲイツが笑みを浮かべる。


 そして客席から微妙な量の歓声が飛ぶ中、ラーゲンハルトはエルゲイツの座る対戦台の対面に腰かけた。


「よろしくね、先生」


 ラーゲンハルトは笑顔で自らのデッキを取り出す。竜戯王大会で使われる札は全て新品のものが用いられる。竜戯王カードは木製であり、傷や摩耗などで裏返しの状態でも何のカードが推察できてしまうためだ。もっと良い素材はないかと試行錯誤が行われたが、この世界の技術レベルではこれ以上のものは見つからなかった。


「……いいでしょう。君がどれだけ成長したのか、見せてもらいましょう」


 エルゲイツが眼鏡の位置を直しながら不敵に笑う。


 そして両者の対戦が始まった。エルゲイツのデッキはカザラス帝国軍のカードが多く、実際のカザラス軍ばりに重装歩兵を主力としたものだった。カザラス帝国の軍事学校で教鞭をとるエルゲイツらしい選択である。


 一方のラーゲンハルトは様々な勢力を取り入れた多彩なデッキであった。こちらも現在のダルフェニア軍を反映したようなデッキである。


 試合はエルゲイツが優勢で進んでいった。エルゲイツは重装歩兵を複数配置し、少しづつ領地を広げるかのようにじわじわと進んでいく。


 ラーゲンハルトはオーソドックスに本陣を自陣の深くに置いていた。手札を増やしつつ、進軍するエルゲイツの重装歩兵を軽装歩兵などで迎撃しようとするが、簡単に撃退されてしまっていた。


(簡単すぎますね……罠ですか?)


 その試合展開にエルゲイツは不安を覚える。


(しかし……重装歩兵部隊に対抗できるカードは少ない……これだけの枚数で展開してからでは、もはや撃破は不可能……)


 カザラス軍の重装歩兵はコストの割りに優秀な戦闘力を持つカードだ。特に防御力に優れている。もっと強いカードはあるものの、レアなカードであったりコストが高かったりと、複数枚を盤上に展開することが難しいものだった。


(また奇策を練っていたのでしょうが……策に溺れましたね)


 ラーゲンハルトはエルゲイツの生徒時代から奇策を好む性格だった。もっとも、堅実そうなエルゲイツも実際はそれ以上に奇策を好む性格でもあった。竜戯王のために神竜王国ダルフェニアに来てしまうような性格からもそれが察せられる。ラーゲンハルトと波長が合うのも、このような共通点があるからなのかもしれない。


 エルゲイツは何枚もの重装歩兵部隊をじりじりと進ませ、ラーゲンハルトの本陣に迫る。ラーゲンハルトの本陣を守っているのは、戦闘力の低い軽装歩兵部隊だけであった。


「どうしたのですか? 終わってしまいますよ」


 エルゲイツが対戦中のラーゲンハルトに話しかける。


「いえ、これからだよ。重装歩兵ならうちにもいるからね」


 ラーゲンハルトは本陣を守るように部隊を配置する。それはエルゲイツが使っているのと同じ、カザラス帝国の重装歩兵部隊だった。


「ほう。しかし多勢に無勢ですよ」


 ラーゲンハルトは続けて数枚、重装歩兵部隊を配置したが、それでもエルゲイツの軍勢には及ばなかった。エルゲイツは部隊を進め、ラーゲンハルトに攻撃を仕掛ける。防御力の高い重装歩兵部隊を倒すのは困難だったが、エルゲイツはラーゲンハルトが配置した重装歩兵部隊を一体づつ着実に倒していった。


「戦いは数ではないよ。どっちが相手の本陣を落とすか、だ」


 ラーゲンハルトはニヤリと笑うと、主戦場から外れた場所に騎馬隊を配置する。多数の重装歩兵部隊でラーゲンハルトを攻めているエルゲイツの本陣は無防備だった。エルゲイツがラーゲンハルトの重装歩兵部隊を倒すのに時間をかけている間に、ラーゲンハルトは複数の騎馬隊を配置していた。機動力のある騎馬隊はすぐさまエルゲイツの本陣へと迫った。


「おっと。戦力を温存していたのはそちらだけではありませんよ」


 エルゲイツはそう言うと手札から新たな重装歩兵部隊を出し、本陣へと配置した。


「重装歩兵部隊は防御力が高いうえに、騎馬隊の攻撃にはさらに強くなるという特徴を持っています。あなたの騎馬隊では私の本陣を落とせません」


 エルゲイツは勝利を確信する。しかしラーゲンハルトはまだ笑みを浮かべたままだった。


「残念だったね。特殊カード、『ハーピー(火樽装備)』を使用! このカードは相手の補給隊を破壊することで、最後に配置された相手の部隊カード一枚を除去する!」


「なっ!?」


 エルゲイツが驚愕する。


 そして無防備になったエルゲイツの本陣はラーゲンハルトに攻め落とされ、勝敗が決まったのであった。


お読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ