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成り行き英雄建国記 ~辺境から成り上がる異種族国家~  作者: てぬてぬ丸
第十三章 跋扈の章

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翻弄(ノルデンハーツ)

誤字報告ありがとうございました。

「終わったか……」


 倒れたカイを見下ろしてライアスが呟く。そしてライアスは痛そうに腕をさすった。カイの強力な攻撃にライアスの腕は限界寸前だったのだ。


「助かった」


 ライアスはぶっきらぼうに礼を言う。その言葉は倒れたカイの向こう側に佇む二人の人物に向けられていた。


「お前がアレの動きを止めてくれたおかげだ」


 一人の中年の男が剣を振る。暗闇でさえ輝きを放つ美しい剣からは、一振りで刀身についた血が簡単に飛び去った。


「でもコイツはさっきのやつらと違う感じだったな」


 もう一人はよく日に焼けた肌の青年だった。同じく美しく輝く剣を手に持っている。


 中年の名はドレイク、青年の名はディオ。冒険者ギルドに身を寄せている謎の二人組だった。この二人が後ろから斬りつけ、カイを倒したのだ。


「失礼あそばせ」


 三人の間に屋根の上にいたカロリーネが飛び降りてきた。カロリーネは無情にも倒れたカイを踏みつけている。着地の衝撃を和らげるためにカイの死体を使ったのだ。魔術師と言えば接近戦に弱いと思われがちだが、冒険者として少人数で行動するカロリーネはそこらの男たちよりずっと強い。多少の相手であれば「魔法を使うより早い」と杖で殴りつけて倒すほどだ。


「お見事でした」


 そこに馬から降りたライナードが近付いてくる。カイとともに行動していたカザラス兵たちは、すでに倒されるか降伏していた。


「危なかったですわ。私ももう魔力切れでした」


 カロリーネが品を作りながら言う。


(……おかげで火事を消すのが大変ですけどね)


 ライナードは心の中で眉をひそめた。現在、ノルデンハーツの各所で起きている火災は、グールに殺された兵士が持っていた松明が原因のものもあるが、それ以上にカロリーネの魔法によるものが多い。魔力を持つグールには魔法も効きづらく、カロリーネも手加減をしていれなかったのだ。


(しかしこれほどの力を持つ者たちが在野にいるとは……)


 一般の兵では歯が立たなかったグールたちだが、冒険者ギルドの精鋭たちの協力によってどうにか倒せていた。特にミスリルの剣を持つドレイクの活躍が目立った。ミスリルの剣はグールの硬い体をやすやすと切り裂いた。


(あの二人の持つ剣はミスリルに違いありません……”宣告者”ウィラーくらい著名な冒険者ならともかく、聞いたこともない彼らがなぜ国宝になってもおかしくないミスリルの剣を……?)


 ライナードは正体不明の二人組を訝しげに見つめていた。


「無事に終わったようだな」


 そこに陰からすっと一人の女性が現れた。黒い装束に身を包んだ、浅黒い肌の美女だ。”黒秘くろひめ”オルティア、冒険者ギルドの諜報部門を束ねる美女であった。


「異形の敵は全て倒せたようだ。ラーベル教会には監視をつけている。まだノルデンハーツ内に侵入したカイの部隊が戦いを続けているが、所詮は多勢に無勢。すぐに鎮圧できるだろう」


 オルティアが状況を知らせる。オルティア率いる諜報部隊は町の各所に散らばり、状況を報告し合っていた。


「ご協力ありがとうございます。後は我々の仕事でしょう。残った敵を殲滅し、ラーベル教の神殿を強制調査するとしましょう」


 ライナードは冒険者ギルドの面々に礼を言うと、馬に跨った。


(冒険者ギルドの現在トップが投入されている……冒険者ギルドも本気と言うことか。こちらとしてはありがたいが……)


 馬を歩かせながらラーナードは考えを巡らせていた。


(しかし……ノルデンハーツを中心に多数の思惑が渦巻いている。うまく利用すれば本当に情勢をひっくり返せるかもしれないな)


 ライナードは兵たちとともに西門へ向かう。だがその途中、西門の方角から聞こえてくる戦いの音が大きくなった。慌てた様子の兵士がライナードのほうへと走ってくる。


「どうした?」


 ライナードがその兵士に尋ねた。


「て、敵の増援です!」


「なに!?」


 兵の報告にライナードは驚く。


「どの部隊だ!? 急いで敵の配置を確認しろ!」


 険しい顔になりライナードは指示を出す。そこにまた一人、慌てた様子の伝令が走ってきた。


「報告します! 南門に敵襲! 投石機による攻撃を受けています!」


「なんだと!?」


 ライナードが再び驚く。


(あれだけやられたリオの部隊が動くとは予想外だった……だがタイミングがズレ過ぎている。カイと同時に仕掛けてきていたら、あるいは……)


 しかしすぐに落ち着きを取り戻すと、ライナードは頭の中で算段を巡らせた。


「南でリオの部隊が攻撃を仕掛けて来ている以上、西側に援軍に来るとすれば北にいたヒルデガルド様の部隊だろう。私の手勢では対処できん。エスカライザ様に対応をお願いしろ。私は南門の対応へ向かう。騎馬隊を南門に集結させろ。手の空いた兵も南に来させるのだ。エマ殿の部隊も南に回ってきているかもしれん」


「はっ!」


 ライナードの指示を受け、伝令が走り去る。


 そしてライナードは方向を変え、南門へと急いだ。






「うぉらっ!」


「ぎゃぁっ!」


 リオの槍に突かれ、守備兵の一人が防壁から落ちていく。防壁にかけられていた梯子をのぼり、カイの部隊は防壁の一角を制圧することに成功していた。


 リオたちがいる場所は西門――カイの部隊が攻めていた場所であった。周囲では残ったカイの部隊が集まりつつある守備兵と戦っている。


「おい、カイの野郎はどうした?」


 リオは近くで戦っていたカイの部下を捕まえて尋ねた。


「わ、わかりません! 半分ほどの兵とともに城へ向かってしまわれました」


 カイの部下が困惑した様子で答える。カイは独善的な性格もさることながら、リオと同様に大部隊を指揮した経験が乏しい。そのためカイは全軍を統率できておらず、置いて行かれてしまった兵士たちはどうしてよいかわからず、ただ周囲にいる守備兵と戦い続けていた。


(なんかヤバイ気がしたから、カイの後に付いて美味しいとこだけ奪えないかと思ったんだが……)


 リオは町の様子に目を凝らす。すでに街中の騒ぎは収まっており、守備兵が持っている松明の灯りがこちらに向かって来ているのが見える。


(あの野郎、失敗したようだな。まあそれはそれで美味しいか)


 リオはニヤリと笑った。


「よし……おい、カイの兵たち! カイはもう死んだ! 撤退だ! 俺たちが援護する!」


 リオは周囲で戦っているカイの兵たちに大声で叫んだ。


「な、なぜそんなことがわかる!?」


 隊長格らしい一人の兵がリオに尋ねる。


「守備兵がこっちに向かって来てる! 奴は失敗したんだ! グズグズしてると逃げれなくなるぞ!」


「し、しかし……まだカイ様が生きていらっしゃったら……」


 カイの兵士たちは不安げに顔を見合わせる。


「そうかもな! だが生きてるとしても敵の捕虜だ! 心配すんなって、責任は俺が取る!」


「わ、わかった!」


 自信満々に言うリオに従い、カイの部隊は撤退を始めた。彼ら自身、これ以上戦い続けるのは困難と思っていた。リオの言葉は彼らの助け舟となったのである。


(まだあいつが戦ってるとしても、これで生きて帰れねぇだろ。あばよ、カイ!)


 リオは心の中でほくそ笑むと、自身もさっさと後退を始めた。






「状況は!?」


 南門へ到着したライナードはそこにいた兵士に尋ねる。しかし兵士は困惑した様子だった。


「それが……投石機による攻撃があっただけで、敵兵は姿を見せませんでした。投石機の攻撃も今は止んでいて……」


「なに!?」


 ライナードは防壁にのぼり、闇の中に目をこらす。しかしそこに敵の気配はなかった。


「……門を開け。騎馬隊で投石機があると思われる場所に攻撃を仕掛ける」


 そしてライナードは騎馬隊を率いて出陣する。しかし見つけられたのは、放置された数台の投石機だけだった。リオの兵たちは投石機を何発か撃ち込むと、投石機を放置して後退していたのだ。


(貴重な投石機を囮に使ったというのか……!?)


 裏をかかれ、ライナードは悔しげに顔を歪める。攻城兵器なしに防御された都市を落とすのは至難の業だ。これにより第二征伐軍は攻城戦を放棄したということになる。


 もっとも、リオにはそもそも投石機が貴重なものだという認識が薄かった。「使わないなら要らないだろう」程度の軽い気持ちで囮とすることを決めたのである。ダルフェニア軍での戦いで投石機が活躍してこなかったのも影響しているかもしれない。


 こうしてリオはカイの部隊とともにノルデンハーツから撤退したのであった。

お読みいただきありがとうございました。

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