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真の力(ノルデンハーツ)

誤字報告ありがとうございました。

「行けぇ、お前たち! 勝てば殺しも強姦も略奪もし放題だぞ!」


 夜の闇の中にカイの大声が響く。


「うぉぉ~っ!」


 カイの兵たちも興奮した様子で叫んだ。カイの部隊はノルデンハーツへと向かっていた。


(ふふふっ……これまで美味しい思いをさせてきたのが効いているか)


 その様子を見てカイがほくそ笑む。


 暗闇に乗じ、カイの部隊はノルデンハーツの防壁へと気付かれることなく接近することが出来た。町の中は騒然としており、怒声や悲鳴がここまで聞こえてくる。


「聞け! 敵には混乱が起きている! いまのうちに防壁を超えるのだ!」


 兵たちは梯子を持って走り、防壁に取りつこうとする。防壁にいた守備兵もそれに気付き、激しい闘いが始まった。


 しかし不意を突かれた守備兵たちは押され気味だった。あちらこちらで防壁に梯子が立てかけられ、兵たちが登り始める。守備兵たちはそれを必死で阻止していた。


「いいぞ! ラーベル教と帝国の偉大さを奴らに見せつけてやれ!」


 カイは興奮の笑みを浮かべ、その様子を眺めていた。






「リオ様!」


「うおぉっ!?」


 天幕に飛び込んできた兵士の大声に驚き、リオは寝ていたベッドから転がり落ちた。


「な、なんだ! 敵襲か!?」


 慌てて枕元に置いた槍に手を伸ばし、リオが尋ねる。


「いえ、ノルデンハーツ内で騒ぎが起きているようです。それにカイ殿の部隊が混乱に乗じ、城攻めを行っているようなのですが……」


「はぁっ!?」


 事態が呑み込めず、リオが間抜けな声を上げる。そしてリオは急いで身支度を整えると、天幕から出てノルデンハーツの様子を観察した。


「これは……!?」


 リオは目の前の光景に絶句する。ノルデンハーツの町の中心部がところどころ明るく照らされていた。火事でも起きているかのようだ。そして正門の方角からは風に乗って戦いの音が流れてきている。


「どういたしますか?」


「どうするって……」


 兵の問いかけにリオは困惑する。


(姫様の命令じゃ手を出すなってことだけどよ……このままカイの野郎が攻め落としでもしたら、俺はただの間抜けで終わっちまう……)


 リオは考え込むが、思考が堂々巡りするばかりで答えは出なかった。


(……くそっ、俺は頭が悪い。考えるな、勘で動け!)


 リオは理論的に考えるのをやめ、ノルデンハーツの町を見つめながら勘を研ぎ澄ませた。


(理由はよく分からねぇが……あの戦い、なんかヤバそうな気がする……)


 何かしら得体のしれない気配のようなものを、リオはノルデンハーツの町から感じ取っていた。


(あそこに行くのは危険だ……)


 リオはしばらくして自らの行動を決めた。


「……投石機を前に出せ! 俺たちも行くぞ!」


 リオの部隊の後方には数台の投石機が待機している。リオは百人ほどの兵を投石機とともに残し、残りの兵たちに出撃を命じたのであった。






「うぉら!」


「ぎゃぁっ!」


 カザラス兵に斬り捨てられた守備兵が悲鳴を上げて倒れる。街中に現れた化け物の対処に気を取られていたノルデンハーツの守備兵は、カイの部隊の猛攻に耐えられず侵入を許してしまった。


 防壁にかけられた梯子から次々と兵がノルデンハーツに侵入してくる。そしてついにカイ自身も防壁を登っていた。防壁の上からは数か所で起こっている火事の様子が見て取れる。


「いいぞ、抵抗は少ない……逆賊どもを殺しまくれ!」


 カイはそう叫ぶと、近くで戦闘中だった守備兵たち数人を一瞬で斬り捨てた。そして周囲にいた兵とともにカイは夜のノルデンハーツの町を突き進んだ。


「ガハハッ! 城まで一気に落としてくれようか!」


 カイはノルデンハーツの街中で起きている騒ぎを避けるように迂回しながらノルデンハーツ城へと向かう。途中で散発的に守備兵が向かって来るが、カイが一瞬で斬り伏せた。


「抵抗が少なすぎるな。ちと物足りぬ……」


 余裕の笑みを浮かべて突き進むカイ。しかし通りの路地からいくつもの影が出て来てその行く手を塞いだ。


「そこまでにしていただきましょうか。下品なあなたにこれ以上、ズカズカと自分の町を踏み荒らされるのはさすがに気分が悪い」


 カイの前に現れたのは盾を構えた重装歩兵の隊列だった。その向こう側から馬に乗ったライナードがカイを冷たい目で見据える。


「エスカライザの腰巾着か……今度は逃がさんぞ」


 カイが残忍な笑顔を浮かべた。


「その言葉……そっくりそのままお返ししますよ」


「ふっ。お前はわかっておらぬな。俺は……ん?」


 ライナードとのやり取りの途中で、カイは違和感を感じ周囲を見回す。町の中心部から聞こえていた悲鳴や怒号はいつの間にか止んでいた。暗闇に包まれた闇の中で、カイたちの周囲を多くの武装した人間が走り回っている音がする。そしてカイたちの背後にも重装歩兵の隊列が現れた。


「気付きましたか? あなた方は包囲されました。降伏するなら今のうちですよ」


 ライナードが事務的な口調で言う。どうせカイが従わぬのがわかっているかのようだった。


「馬鹿な……『子供たちチルドレン』はどうした……?」


「チルドレン? あの化け物たちのことですか?」


 カイの呟きにライナードが眉をひそめる。


「もちろん排除しましたよ。おかげで大変でした」


「なにっ!?」


 カイはライナードの言葉に驚きの表情を浮かべた。


「あなた方にもアレが混じっているのかと思って警戒していたのですが……どうやら通常の兵だけのようですね。これなら楽勝です」


 ライナードは肩をすくめる。そんなライナードをカイが憎々し気に睨んだ。


「調子に乗るなよ……」


「ん?」


 カイを包む気配が変わる。ライナードは眉をひそめつつ、剣を構えた。


「ベアトリヤル様のお力……身をもって味わうがいい」


 カイが自分の体を抱くように腕を回す。そしてなにやら全身に力を込め始めた。


「……変神へんしん!」


「なっ……!?」


 ライナードは絶句する。


 ライナードたちが見ている前で、カイの肉体が変貌を遂げようとしていた……


お読みいただきありがとうございました。

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