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分裂(パルロー)

 ヒルデガルドとエマはカイが滞在しているという屋敷に到着した。知らせを受けていたらしく、入り口でカイが二人を出迎えた。


「ヒルデガルド様、お待ちしておりました」


 カイが笑みを浮かべながら頭を下げる。


「カイ殿。我々が町に入ったという報告はすでに受け取っていたはず。それなのにヒルデガルド様を迎えに来ないとは何事ですか?」


 エマが目を吊り上げながらカイに言った。


「なにぶん、戦後処理で忙しかったものですから。なにとぞお許しください」


 カイは余裕の表情のままだった。


「そもそも私の留守中に、あなたの一存で出陣をした理由は何なのですか?」


 ヒルデガルドがカイを問いただす。


「何をおっしゃる。軍団長の不在時に軍を取り仕切るのが副官の役目。ヒルデガルド様のいらっしゃらない間に知らせが届き、私は私が最良と思う選択をしたまでです。お言葉ですが、このような事態の最中に私用で軍団を離れていたヒルデガルド様にこそ落ち度があるのではありませんか?」


 カイは馬鹿にするような笑みを浮かべた。


「誰がいつ謀反を起こすかなど予期できるものですか!」


 エマがカイの不遜な態度に怒りをあらわにする。


「王弟派が一斉に蜂起する可能性は予期できる範囲でしょう」


 ニヤリと笑いながら肩をすくめるカイ。


「しかし私が戻るまで待つこともできたはずです。まるで私がいない隙に片付けてしまおうと思ったのかと疑ってしまいます」


「賊軍に時間的猶予を与えろと? もしそうなればより多くの兵を集め、他の貴族たちにも悪い考えを起こさせるかもしれません。それに知らせとともに迅速に対応しろと皇帝陛下からの言伝もございました」


 問い詰めようとするヒルデガルドの言葉を、カイは飄々とした態度でかわした。


「……わかりました。それで戦いはどうだったのですか?」


 ヒルデガルドは納得の行かない様子であったが、埒が明かないと判断し話を進める。


「シュライヤー子爵の兵は千名ほどでした。籠城して激しく抵抗して来ましたが、私の迅速かつ苛烈な攻撃によって二日で陥落いたしました」


「こちらの被害は?」


「死者は五百名ほど。負傷者はその三倍程度です」


「そんなに……!?」


 カイの報告にヒルデガルドは沈痛な面持ちになった。


「籠城戦は相手が有利。むしろ損害は抑えられていると考えますが?」


 ヒルデガルドの反応にカイは不服そうな様子だった。


「包囲して降伏を迫るという選択肢もあったでしょう。守りを固めた相手を無理に攻めて被害を大きくする必要はありません」


「時間がかかれば次の作戦に支障が出たはず! 私の判断は正しかった!」


 ヒルデガルドに攻められたのが心外だったのか、カイが声を荒げる。


「……まるで次の蜂起があることを予期していたような物言いですね」


 ヒルデガルドがカイに冷たい視線を向ける。それを聞きカイははっとした表情になった。


「さ、先ほど申し上げたはずです。予期できる範囲だと」


 平静を装いながらカイが答える。しかしその声には動揺が現れていた。


「あなたが攻略を強行した理由はわかりました。しかし相手の兵士や住民を虐殺したのはなぜですか? 私は前回、そういった行為を禁じさせたはずです」」


「その結果、今回のように追随する者が現れたのではないですか? ヒルデガルド様は甘すぎるのです」


 平静を取り戻したカイが唇の端を歪めながら答える。


「このような馬鹿なことを考えないように、逆賊は徹底的に懲らしめなければなりません」


 続けて言うと、カイは残忍な笑みを浮かべた。


「シュライヤー子爵はどうなりました?」


 険しい表情でヒルデガルドが尋ねる。


「徹底抗戦を続けた挙句、我々が屋敷を取り囲むと降伏し、恥知らずにも命乞いをしてきました。

私は彼を見せしめのために広場の木に縛り付け、住民を集めました。そして帝国への忠誠心を確かめるために、シュライヤー子爵へ石を投げつけさせました。もちろん拒否する者は処刑です。そのうちシュライヤー子爵も死んだようですな」


「なんということを……」


 当然のように語るカイにヒルデガルドは言葉を失った。


「私の采配に不満をお持ちなのであれば解任でもなんでもなさるといいでしょう。ただし私は皇帝陛下直々に現在の任を与えられました。もし解任されれば皇帝陛下にご報告さしあげるつもりです。そうなればヒルデガルド様のお立場も悪くなるでしょうな」


 カイは余裕の笑みを浮かべてヒルデガルドを見る。ヒルデガルドの表情は硬かった。もっともそれはヒルデガルドは自身の立場が悪くなることを気にしたためではなく、カイの態度への不快感や次の作戦への不安によるものであった。


「……あなたの処遇は事態が収束してからにしましょう。あなたの口ぶりからすれば、報告は聞いていますね?」


 ヒルデガルドがカイに尋ねる。


「……エスカライザ様が蜂起された件ですな」


 カイの言葉にヒルデガルドは小さく頷いた。


「逆賊である王弟派の筆頭を討ち取る良い機会です」


 カイは笑みを浮かべる。そんなカイをヒルデガルドは冷たい視線で見つめた。


「……作戦を決めます。兵たちに移動の準備をさせてください」


「かしこまりました」


 カイや恭しく頭を下げる。そして部下に指示を出すと、ヒルデガルドたちとともに屋敷の中へと入って行った。


お読みいただきありがとうございました。

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