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大使(古の森)

「魔法文明……その技術は失われたのではありませんか?」


 ラズエルが眉をひそめる。


「そのはずなんですが……でも竜王達によれば、ラーベル教は魔法文明を彷彿とさせるような魔法を使っているんです」


 アデルは神竜たちのほうに視線を向ける。しかしポチ達はもう疲れたようで、離れたところで座っていた。一番やる気のあったデスドラゴンもグールを殲滅し終えたことで、もうやる気を失った様子だった。


「とはいっても派手な攻撃魔法とかは無くて、肉体を再生する魔法や、グールのような奇妙な化け物を作るだけっぽいんだけどね」


 ラーゲンハルトが口を挟んだ。


「神竜ちゃんたちやダークエルフちゃんたちの話によれば、メモリーセーバーっていう魔法文明の知識を貯えた魔石があるらしいんだ。それは各国の王位継承の証となって今も受け継がれているらしい。僕たちもヴィーケン王国のを一個持ってるよ」


「メモリーセーバー……なるほど……」


 ロレンファーゼはそれを聞いて何やら考え込んだ。


「父上……皇帝ロデリックが各国の征服に乗り出したのは、その魔法の力で不老不死にでもなりたかったのかもって思ったけど、どうやらラーベル教が操って集めさせてたっぽいんだよね。もしかすると最初に手に入れたメモリーセーバーに肉体操作系の魔法の知識が入っていて、他のはまだ解析中なのかもしれない」


「その話が本当であれば恐ろしいことですね」


 ラーゲンハルトの話にロレンファーゼは眉をひそめた。


「化け物のほかに僕らはバーサーカーと名付けた奴らと救命騎士団ってのと戦ってるんだけど、人間の肉体を異常に強化させた奴らだったんだよね。神竜ちゃんによれば今回のグールはそもそも肉体が強化された人間を作ったらしいんだけど、いずれにせよ魔法で超人的な戦闘集団を作ろうとしているんじゃないかな。そのテストとして局地戦にあいつらが投入されてる気がする」


「だけど……いつからなんですかね?」


「え?」


 アデルの呟きに、ラーゲンハルトが虚を突かれた表情になる。


「いやほら、ラーベル教の方々がずっと昔から魔法の知識があったなら、とっくに世界征服されてるじゃないですか」


「確かに……」


 ラーゲンハルトは考え込んだ。


「そう考えると……父上が国教にラーベル教を選んだ辺りに知識を得たのかな。ローゼス王国をカザラス帝国に改める際に、ローゼス王国の王位継承の証をラーベル教にあげちゃって、そこから知識を得たとか……」


「しかしそうなると、その時はたいした力のなかったラーベル教を国教に据えたのか?」


 ブツブツと呟くラーゲンハルトにイルアーナが疑問を投げかける。


「そうなんだよね。その時にはラーベル教は治癒の力は身に着けてたはずなんだ。その力を神の奇跡として見せることで信徒を獲得し、父上は国をまとめる力になると思って国教に指定したはず……う~ん、色々謎だね。それに……」


 ラーゲンハルトは戸惑うような表情を見せたが、意を決したように再び口を開く。


「さっきポチちゃんの話を聞いて、すごい嫌な考えが思いついちゃってさ」


「え、なんですか?」


 沈痛な面持ちのラーゲンハルトにアデルが尋ねる。


「……グールに脳を入れ替えた跡があったって言ってたでしょ? もしかするとジークムント兄上も誰かに体を奪われたんじゃないかと思ってさ」


「ええっ!?」


 アデルが驚きの声を上げる。


「死者を蘇らせるには莫大な魔力が必要なんでしょ? さすがに神竜ちゃんやダークエルフが無理なことを、ラーベル教が出来るとは思わない。そう考えると、兄上の体だけ修復して脳を入れ替えたって考えるしかなくない? 救命騎士団も死者の体を修復して利用しているって仮説があるし。まああくまでも僕らの考えが正しいって前提だけどね」


「じゃ、じゃあ新皇帝ジークムントさんは中身が別人ってことですか……?」


 ラーゲンハルトの話にアデルは言葉を失う。


「実際に会って話したわけじゃないからわからない。難しいのは、今のところやってることは父上よりはるかにまともなんだよね。やってることが異常だったら別人って判断がしやすいんだけど」


 ラーゲンハルトは難しい顔になった。


「まとも? あんな化け物を使っておいてまともだと言うのですか?」


 ロレンファーゼが険しい表情で言う。


「今回の襲撃が兄上主導かどうかはわからないよ。父上のころからラーベル教は裏でも動いてるからね。ただ戦略的に言えば、多方面で同時期に戦争を仕掛けた父上のやり方は明らかに失敗だった。結果から見ても明らかだよね」


 ため息をつきながらラーゲンハルトは肩をすくめた。


「うちと停戦して疲弊した国力を回復しつつ、国内の情勢を安定させようっていう今の方針は正しいよ。ここを襲ったのも、国内の不穏分子を排除するって目的なのかもしれない。まああくまでもカザラス帝国の立場ではね。そんな怖い顔しないでよ」


 自分を睨むロレンファーゼにラーゲンハルトは苦笑いを浮かべた。


「ということは……結局どういうことなんでしょう?」


 アデルは話を頭の中でまとめようとしたが、あきらめてラーゲンハルトに尋ねた。


「つまり……」


 ラーゲンハルトは一呼吸置いた。


「仮説はいろいろ立てたけど、真相はまだ不明ってことだね」


「そういうことですか」


 アデルはガッカリして呟いた。


(彼らの情報収集能力、そしてその分析能力……侮れませんね)


 しかし話を聞いていたロレンファーゼはラーゲンハルトの明晰な頭脳に驚いていた。


「……あなた方の話を完全に信用するわけにはいきません。しかし話が本当であれば我々に害をなす存在が強力な力を手に入れることになる。こちらとしてもそれを見過ごすわけには行きません」


「ロレンファーゼ様、まさか……」


 ロレンファーゼの言葉にラズエルが驚く。


「情報の真偽を確かめるためにも、あなた方と手を結びましょう。こちらの人員を一部、あなた方とともに行動させてください」


 ロレンファーゼはアデルの目を見つめながら言った。


「ほ、本当ですか? それは良かっ……」


「ちょっと待って。完全に信用できないのはこっちも同じだよ。なんせそっちは以前にカザラス帝国と手を結んでたわけだからね。こちらの情報を筒抜けにするわけには行かないでしょ」


 喜ぶアデルの言葉を遮ってラーゲンハルトが言う。


「だいたい敵対していたことを謝るのが先ではないか? 故郷を焼かれたものもいるのだぞ」


 イルアーナもロレンファーゼを睨む。


「ま、まあまあ。それは完全にカザラス帝国相手に共闘することが決まったらと言うことで……」


 アデルがそんなイルアーナを慌てて制した。


「ロレンファーゼさん、それまでは今まで通りメルディナさんをお借りするということでいかがでしょう?」


「えっ?」


 アデルの言葉にそれまでずっと成り行きを見守っていたメルディナが戸惑う。


「うん、メルディナちゃんならこちらも信用できるよ。ただしこちらの不利益になるようなことは報告しないって条件は付けてね」


 ラーゲンハルトは笑顔でメルディナを見つめた。


「……わかりました。メルディナ、あなたを正式に神竜王国ダルフェニアへの大使とします。いいですね?」


 ロレンファーゼがメルディナに視線を向ける。


(正式に……大使に……)


 メルディナの胸に熱いものが込み上げた。伝染病に感染した「忌み子」として居場所がなくなっていた彼女は、アデル暗殺という任務にも失敗しそのアデルに仕えるという裏切者として扱われても仕方のない行動をしていた。しかし紆余曲折を経て今、ロレンファーゼは再びエルフの一員としてメルディナを迎えると言っているのだ。


「は、はい! 謹んでお受けいたします!」


 メルディナは瞳を潤ませながら、胸に手を当てたのであった。

お読みいただきありがとうございました。

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