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テスト(古の森)

誤字報告ありがとうございました。

 アデルたちはグールの生き残りを捜索しながら森の中を進んでいた。


「あっ、馬車だ」


 アデルは森の中で停まっていた馬車を見つけた。その馬車には矢が何本か刺さっている。


「これは私が襲撃した馬車ですね」


 エルフのラズエルが周囲を見ながら呟く。馬車の周囲には腐臭が漂っていた。カザラス兵やグールの死体が転がっているはずだが、森の動物か他のグールに食べられたのか、腐った肉塊や内臓が散らばっているだけだった。


「これにアレがはいってたのか」


 ラーゲンハルトが鼻を押さえながら馬車に近づく。荷台には覆いが掛けられた檻のようなものが乗せられていた。


「そうです。カザラス兵たちは中身が何なのか知らない様子でした」


 ラズエルがラーゲンハルトに言う。客人という扱いのため敬語だった。


「なるほどねぇ……」


 ラーゲンハルトは興味深げにつぶやくと、馬車から離れる。


「そろそろ引き返そうか。これ以上進むと危ないかもしれない」


「危ない? グールがいそうなんですか?」


 ラーゲンハルトの言葉にアデルが小首をかしげる。


「いや……もっとやばいのがいるんだと思うよ」


「もっとやばいの? た、大変じゃないですか!」


 アデルは訳が分からなかったが、言葉の響きだけで慌て始めた。


「どういうことですか?」


 エルフの女王ロレンファーゼがラーゲンハルトに尋ねる。


「グールは制御が効かないからね。当然、みんながみんなエルフの里のほうに向かうとは限らない。そして運んでいた兵士たちにすら中身を教えなかったということは、その存在は機密だったんでしょ。グールが森の外へ向かったら、それを排除するための戦力が配置されていると考えた方がいい」


「で、でも運んでいた兵士が逃げ伸びることだって考えられますよね? だったら情報なんて洩れちゃうんじゃ……」


 疑問を口にするアデルにラーゲンハルトはゆっくりと首を振った。


「その兵士たちも生かして返すつもりはなかったんだよ。最初からね。もし逃げれた兵士がいたとしても、森の外に潜ませている奴らに殺させてる。兵士なのかラーベル教徒なのか知らないけどね」


「ええっ……!」


 ラーゲンハルトの言葉にアデルは呆気にとられた。


「しかしグールを倒せるような大きな戦力が周囲にいるという情報はない。考えすぎではないのか?」


 イルアーナが眉をひそめて言う。


「いや、輸送中にもグールが逃げ出しちゃう可能性はあったからね。ただしあまり目立ちたくないはずだから、僕らみたいに少数精鋭の部隊なんじゃない?」


「少数精鋭って……我々のような個々の戦闘力に優れた部隊はカザラス帝国にはいないのではないか?」


 イルアーナが反論すると、ラーゲンハルトは小さくため息をついた。


「確かに。カザラス軍は精鋭とはいってもただの人間の集まりだからね。だけどラーベル教にはいるんじゃない?」


「グールやバーサーカーのような奴らか……だがそんな戦力がいるなら、エルフの里を攻めるのに投入するべきだったのではないか?」


「普通に考えればそうだけど……まだそういう段階じゃなかったんじゃないかな」


「まだそういう段階ではない?」


 ラーゲンハルトの話にイルアーナが怪訝な表情になる。


「救命騎士もバーサーカーもグールも……みんな戦略的な価値があるとは思えない戦いにしか投入されてない。救命騎士は一番マシだったけど、それでも時間稼ぎにすぎなかったからね」


「戦略的な価値が無いとはどういうことですか?」


 ロレンファーゼが心外そうに声を上げた。


「まああくまでもカザラス帝国にとってね」


 そんなロレンファーゼにラーゲンハルトが苦笑しながら答える。


「協力を断られたとはいえ、敵対してたわけでもないエルフを倒さなければいけない理由なんてない。まあもちろんいつ敵対するかわからない存在ではあったから、森に封じ込めるためにグールを放ったのかもしれないけど……どちらかというと力試しのためだったんじゃないかな?」


「力試し?」


「うん。グールがどこまで戦えるかを試したんじゃないかな。神竜王国ダルフェニアの中心戦力となっているのはダークエルフだ。そしてエルフは仮想ダークエルフとしてこれ以上のないテスト相手だったんじゃない?」


「我々をダークエルフの代わりに使ったと?」


 笑いながら言うラーゲンハルトにロレンファーゼは怒りの視線を向けた。


「……しかしグールは全滅しました。ただのテストだというのなら、大きな失敗だったのではないですか?」


 ラズエルが冷静に話に割って入る。しかしラーゲンハルトは首を振った。


「彼らにとってはたいした戦力じゃなかったんじゃない? 戦闘力はあるけど制御は効かないし、人目に晒すわけにもいかない。案外、作ったはいいけど処理に困っていたのかもね」


「ではそもそもテストする意味もないでしょう。もし我々に勝てていたところで、回収することすら困難だったはず」


 ラズエルが顔をしかめる。


「……僕はグールは失敗作だと思ってる。だけどもっと完成度の高いものができれば話は変わってくるんじゃない? もっと知能が備えられさえすれば劇的に戦力として扱いやすくなるはずだ。何なら今回、失敗作が処理されただけで、すでにちゃんと出来ていた個体は他にいるのかもしれない。例えば今この瞬間も、グールが逃げた時に処理をするために森の周囲に配置されていたりとか……」


「ええっ、そんな奴が……!?」


 ラーゲンハルトの話にアデルが驚きの声を上げた。


「そんなものを生み出している……ラーベル教徒は一体何なのですか?」


 ロレンファーゼが険しい顔で尋ねる。


「ラ、ラーベル教は魔法文明を復活させようと企んでいるんじゃないかと思ってるんです。あくまでも想像なんですけど……」


「魔法文明を!? まさかそんなことが……」


 アデルがたどたどしく話すと、ロレンファーゼの表情は一層険しさを増したのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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