プライド(古の森)
誤字報告ありがとうございました。
アデルたちはエルフの里で囲まれながらロレンファーゼと向かい合っていた。
「エルフの王、ロレンファーゼと申します」
ロレンファーゼは優雅に一礼する。しかしアデルに対する態度は素気のないものだった。
「ロレンファーゼちゃんにラズエルさん、久しぶりだね。まさかこんな形で再会するなんて、人生ってわからないもんだね」
そんなロレンファーゼにもラーゲンハルトがなれなれしく話しかける。
「ラーゲンハルト殿……お久しぶりですな」
ラズエルが渋い表情で頭を下げた。ラーゲンハルトがカザラス帝国の将だった頃、エルフたちの協力を得ていたことがある。それがわずか一年後、互いにカザラス帝国と敵対する立場で再会したのだ。
名前:ラズエル
所属:古の森
指揮 86
武力 102
智謀 89
内政 61
魔力 113
(みんな能力が高い……!)
アデルはラズエルの能力値を見て息を飲む。エルフたちの中でも上等な衣服をまとったハイエルフたちは総じて能力が高く、ダークエルフたちを凌ぐほどであった。一般のエルフたちもそれには劣るものの、能力は高い。
「それでいったい、どういうご用件でいらしたのですか?」
ロレンファーゼは冷たい目でアデルを見つめる。
「どういうって……皆さんが化け物に襲われてると聞いたので、助けに来たんです」
アデルはキョトンとしながら問いかけに答えた。
「我々エルフが人間に助けを求めると? ましてやダークエルフやオークなど……」
アデルの背後に目線をやりながら、ロレンファーゼは眉をひそめた。
「確かにメルディナに現状を伝えはしましたが……まあせっかく来ていただいたのです。お手伝いしていただいてもよろしいのではないですか?」
ラズエルが何食わぬ顔で言う。
「やれやれ。無駄足だったようだね。帰ろうじゃないかい、アデル」
フレデリカがムッとした表情で言った。
「フレデリカ殿のおっしゃる通りですな。自分たちだけで大丈夫と言うなら、アデル王のお手を煩わせる必要はないでしょう」
「ていうか、勝手にヤるし。勝手に殲滅やつらは全滅」
プニャタに続きデスドラゴンも不機嫌そうに言う。
(一際暴力的な気配を放っている。あれが黒竜王……)
ロレンファーゼはそのデスドラゴンに目をやった。
「ロレンファーゼ様。さきほど化け物たちと戦いましたが、あれは恐るべき敵です。ここはアデルと手を組むべきです。どうかお考えをお変えください」
メルディナが必死な顔つきでロレンファーゼの目に進み出る。
「化け物たち……?」
その言葉を聞き、ロレンファーゼが眉をひそめる。ワイバーンたちが戦っていた様子は防壁の上からでもわかったため、戦闘があったことはわかっていた。しかしグールたちは集団で戦ったりはしないはずだ。そのためエルフたちはアデルたちを襲ったグールは一体だと思っていた。
「……あれを何体倒したのですか?」
「え? 三体ですが……」
ロレンファーゼの問いかけにメルディナが答える。
「三体!? ワイバーンが三体倒したのですか?」
信じられないといった表情でロレンファーゼが言った。
「いえ、ワイバーンたちが倒したのは一体だけです。あとはデスドラゴンとアデルが一体づつ……」
「デスドラゴンと……アデル王が……?」
その話を聞き、ロレンファーゼは茫然とアデルを見つめた。
(デスドラゴンはともかく……この少年が?)
とても強そうには見えないアデルがグールを倒したという話を、ロレンファーゼはにわかには信じられなかった。なにせエルフたちが多くの犠牲を出しながらも、まだ八体しか倒せていない敵だ。
「エルフの王よ」
そこでギディアムが進み出て声を上げる。
「あなたは……絶望の森の……」
ロレンファーゼは鋭い視線をギディアムに向けた。カザラス帝国がギディアムの故郷である絶望の森を攻めた時、ギディアムは捕虜となりロレンファーゼと顔を合わせたことがあった。
「お前たちは俺にとっては敵だ。あの怪物に滅ぼされてくれようとも一向にかまわん。しかしそれによってカザラス帝国の目的が叶ってしまうのも癪に触る。貴様らは嫌がるだろうが、古の森は我らダークエルフにとっても故郷だ。そして森を失う苦しみは誰よりも知っている。お前たちがプライドが邪魔をして利をとれぬほど愚か者なら、勝手に滅ぶがいい。俺は高みの見物をさせてもらおう。あの時と逆の立場だな」
「くっ……」
不敵な笑みを浮かべるギディアムにロレンファーゼは言葉を詰まらせた。
「ギディアムさん……」
アデルはギディアムを見つめた。
「我が一族はお前に大きな恩がある。それに個人的にもお前がやろうとしていることに興味がある。お前がどうしてもエルフを助けたいというなら、俺は個人的な感情は押さえつけておくことにしよう」
ギディアムはアデルに微笑みかけた。
(兄上……立派に成長されて……)
イルアーナはそんなギディアムを感激して見つめる。子供っぽいところがあったギディアムであったが、アデルの元に来てから急激に成熟していた。アデルや他の者たちから刺激を受けたこともあるだろうが、ダークエルフを取りまとめる立場につくことが増えたことも原因だろう。
「……わかりました」
考えをまとめたロレンファーゼが意を決する。
「あなた方が共闘したいというのであれば、我々も応じましょう」
こうしてエルフとダークエルフの歴史的共闘が実現したのであった。
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