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海の結晶(アスカブトケロン エステルランド)

誤字報告ありがとうございました。

 アデルたちは海竜王の宮殿で海竜王に協力を要請していた。


「いい? 海竜王さん」


 アデルがしゃがんで目線の高さを合わせ、海竜王に尋ねる。


「……うみちゃん、がんばる」


 海竜王が潤んだ瞳でアデルを見つめ、か細い声で呟いた。どうやら海竜王も氷竜王やデスドラゴン同様、自分のことを名前で呼ぶタイプのようだ。


「あー、そうなのー! 偉いねー!」


 アデルは相好を崩し海竜王の頭を撫でる。


「なんじゃ、我の時はそんな嬉しそうにしなかったではないか」


「うん」


 ピーコとポチがそれを見て不服そうに声を上げた。


 こうして海竜王の協力を取り付けたアデルたちは、海竜王に仕えるシーパラディン、マーメイド、そしてシーサーペントにも協力してもらえることになった。


 シーパラディンは合計で千人ほどいるらしい。ただし海の各地に散らばっている。要請すれば集まってくれるということだったが、とりあえずは海竜王の側に仕えている三十人ほどのシーパラディンがアデルの元に来ることになった。海中のほうが戦いは得意ではあるが陸上でも問題なく戦えるということだった。


 マーメイドは宮殿に三百人ほどいるそうだが、人間のところに行くことに恐怖を覚えるものが多かった。そのため海竜王の身の回りの世話をする十人程だけが同行することとなった。マーメイドは水魔法が得意だが、地上では走ったりなどの素早い動きは出来ないとのことだった。下半身が魚なので仕方のないことだろう。


 シーサーペントは合計で五十体ほどいるそうだ。ただしシーパラディンと同様、海の各地に散らばっている。そのうえ陸上での活動はほぼできないということだった。大きな川などがあれば内陸まで入って来れるが、それでも活動範囲は限られる。海では最強に近い力を持っているだけに、その活動範囲の狭さが悔やまれた。


(ゲームでも海上ユニットって使いどころが限られるんだよな。世界レベルの現代戦争物になると一気に戦艦ユニットとか輸送船の価値が高まるけど……)


 アデルは海竜王やポチから彼らの説明を聞きながらそんなことを思った。


「それにしても……偶然、うみちゃんが僕らの国の近くにいて良かった」


 アデルが呟く。海竜王のことは早くも「うみちゃん」と呼べるようになっていた。


「偶然ではないぞ。ここにはキングサーモンが食えるからな。シーサーペントたちには良い狩場なのじゃろ」


 ピーコがアデルに言う。


 海竜王の宮殿は現在、キングサーモンが多く生息するリード川の河口の沖合に位置している。シーサーペントたちはそれらを食糧としていた。


 以前はポチやピーコがキングサーモンを食べておりそれほど豊富ではなかったが、ポチやピーコが幼体となったことでキングサーモンの数が増え、それを目当てに海竜王がやってきたのだ。


(食物連鎖と言うか……色んなことが結びついてるんだなぁ……)


 アデルは変なところに感心する。


 そしてシーパラディン、マーメイドらに後から来てもらうようにお願いし、アデルたちは海竜王を連れてミドルンへと戻るのであった。






 その頃、ラングール共和国の首都エステルランドでは騒ぎが起きていた。


「探せ! 絶対に逃がすな!」


 夜の闇の中、ラングール兵たちが松明を手に通りを走る。何事かと住民たちが不安そうに窓から顔をのぞかせていた。


 そんな中、いくつかの影がラーベル教の神殿へと滑り込む。他の都市の例にもれず、エステルランドにもラーベル教会は勢力を伸ばしていた。


「ふぅ、危ないところだった……」


 そのうちの一人が目深にかぶっていたフードを脱いだ。太い眉の印象的な中年のいかつい男だった。ラグナル・ノルドヴァル――由緒正しいラングール六公爵家の一人だ。行政を司るノルドヴァル家の当主として権勢をふるっていたが、カザラス帝国に通じていたことが発覚し多くの権限をはく奪されてしまっていた。


「おい、本当にこれで大丈夫なのだろうな!?」


 同じくフードを脱ぎながら行ったのは腹の出た中年男、ストール・フロズガル公爵だ。ラグナルと同じくラングール六公爵の一人で陸軍を司っていた。だがカザラス軍の侵攻にまったく歯が立たなかったため、陸軍の権限を奪われてしまっていた。


 そのほかの者たちもフードを脱ぐ。残りはすべてストールが信頼を置いている直属の護衛兵たちであった。


「安心しろ。私といればカザラス帝国内での地位は約束される」


 ラグナルが息を切らせながらもニヤリと笑う。


「おやおや、これは公爵様方」


 そこに神殿の奥から神官たちを引き連れた司教が現れた。


「町中を兵が捜索している! 早く安全な所へ逃がしてくれ!」


 ラグナルがその司教に走り寄って言う。


「落ち着かれよ。まずは例の物を」


 そんなラグナルに司教は何かを催促した。


「ちゃんと持ってきた。ほら、見てみろ」


 ラグナルは懐に手を入れると、一本のベルトを懐から取り出した。ベルトのバックルの部分には大きな青い宝石がはめ込まれている。


「おお、これは……」


 司教はそれを見て言葉を失った。


「ラングール共和国の象徴……『海の結晶』だ」


 ストールが胸を張って説明をした。


 「海の結晶」……それはラングール共和国の王位継承の証であった。共和制になってからは共同で管理されている。


「なせか知らんが他の公爵たちと兵の多くがバーデン方面に出払ってくれたからな。おかげで残ったわずかな手勢でもこれを奪うことが出来た。長年、陸軍を率いてきた儂の実力だ」


 己の力を誇示するかのようにストールが笑みを浮かべる。


「バーデンに? バーデンを攻め落とすのですか?」


 それを聞き司教が怪訝な表情で尋ねた。


「いや、それなら全軍で向かうだろう。どうやら例のドラゴン絡みの話のようだが、我々には詳しい話が聞かされなかった」


 ストールが憤慨した様子で言うとラグナルも横で頷く。


「魔竜ですか……確認してみる必要がありそうですな」


「そ、それより早く安全な所へ! 脱出を手配してくれるのだろう?」


 考え込む様子の司教をラグナルが急かした。


 カザラス帝国は『海の結晶』と引き換えに、ラグナルに保護とカザラス帝国内での地位を約束していたのだった。しかし権力を失ったラグナル一人では計画を実行するのは難しい。そこで同じく落ち目となっていたストールを仲間に付け、警備が手薄になった今夜それを実行したのだ。


「ええ、どうぞ奥へ」


「休んでいる場合か! 急がないと全ての出入り口を塞がれてしまうぞ!」


 ストールが怒声を上げるが、司教は涼しい顔をしていた。


「気にすることはありません。ラーベル教を信仰しない者共の抵抗など、神のお力の前では何の障害にもなりません。我々は秘密のルートによって帝都と行き来できるのです」


「そんなものが……?」


 司教の話を聞きストールは訝し気に呟く。


 そしてラグナル、ストールらは司教の後について神殿の奥へと進んでいった。

お読みいただきありがとうございました。

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