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真実(イルスデン)

 イルスデン城の謁見の間。神竜王国ダルフェニアから帰参したフォスターと寝返ったリオは皇帝ジークムントらから話を聞かれていた。


「アデル王のことを良く知っているようですが……彼は何者なのですか?」


 ジークムントがリオに尋ねる。


「あいつか? あれはまあ……子供だな」


「子供?」


 想定外の答えにジークムントは拍子抜けした表情になった。


「ああ。世間知らずで純朴で騙しやすい……甘っちょろい奴だったな」


 リオが懐かしむような表情で言う。


「なにかもっと具体的にどういう人物か話してもらえませんか?」


 そんなリオにやや苛ついた様子でジークムントが話を促す。


「どういうって……あんまり知らねぇな。危険な黒き森で猟師をやってたって話だが……まああの化け物みたいな強さに、魔法まで使うんだから納得だよな」


「魔法……間違いなくアデル本人が?」


「あぁ、間違いねぇ」


「なるほど……」


 話を聞き、ジークムントはしばし考え込んだ。アデルが戦闘で魔法を使っていたという噂はあったが、ダークエルフが側にいるため本当にアデルが使っているのかはわかっていなかった。実際にアデルの魔法を食らったことのあるリオの証言はその噂が本当であったことをジークムントらに確信させた。


「ではアデル王の目的は? 何を企んでいるのですか?」


 すこし熱っぽくジークムントが尋ねる。これまでアデルの正体は謎に包まれていた。突然現れ目覚ましい戦果を挙げ、国を立ち上げたかと思えば魔物やドラゴンを操りカザラス帝国の前に立ちふさがった。それがようやく判明する。その想いがジークムントを突き動かした。


「目的……あいつは流されやすい奴だからな。あんまり深く考えてないんじゃねえか?」


 リオが首をひねりながら答える。


「そんなわけないでしょう。目的もなく国を立ち上げるわけがない。何か目的があったはずです」


 またジークムントは苛ついた。リオの答えがまったく求めているものと違ったからだ。


「う~ん……異種族や魔物とは仲良くしてぇみたいだが。まあイルアーナ……アデルとよく一緒にいる女ダークエルフが『世界征服だ!』って息巻いてるからな。アデルはあんまり乗り気じゃねぇみたいだが、それに流されてんだろ」


 リオは世間話でもするように淡々と話す。魔法文明の復活を阻止するというような話はあまり信用されていなかったリオは聞かされていない。隣にいるフォスターは知っていたが、今はその異名通り沈黙を貫いていた。


「ダークエルフ……そういえばアデル王がダークエルフに操られているという噂もありましたね。それならアデル王自身の意思が薄弱というのも納得がいきます。実際、そういった様子はありませんでしたか?」


 自我を持っている者を魔法で操るのは極めて困難だ。なぜかジークムントはそのことを知っており、だからこそ他者よりもアデルがダークエルフに操られているという可能性を追ってしまっていた。


「操られているっていうか……尻に敷かれてるって感じだったな。ダークエルフたちは『王の器だ!』とか持ち上げて、アデルの尻を叩いて……」


「王の器!?」


 リオの話を遮り、ジークムントが声を上げて立ち上がる。その目は驚愕に見開かれていた。


「間違いないか!? 確かに王の器なのだな!?」


「そ、そうだって!」


 ジークムントの剣幕にたじろぎながらリオが答える。


「……そうか、そういうことか。それなら全てが繋がる」


 ジークムントは呟くと崩れ落ちるように玉座に座り込んだ。しかしその顔には狂気に満ちた笑みが浮かんでいる。リオは訳が分からず呆けた顔になった。


「素晴らしい……あなたには望むだけの褒美を差し上げましょう」


「マ、マジかよ!」


 満足げに言うジークムントの言葉にリオは小躍りした。


「じゃあ俺を将軍にしてくれ! それとあのネーチャンの下で働きたい!」


 リオがユリアンネを指さす。


「はぁ!? な、なぜ私が……!」


 リオに名前を出されたユリアンネが瞬発的に反応した。


「いいでしょう」


 だがジークムントはユリアンネにかまわずリオの願いを了承する。


「兄上!?」


「作戦の立案をするにあたって神竜王国ダルフェニアの戦略に精通している彼が側にいれば何かと便利でしょう。それに彼には神竜王国ダルフェニアから帰参した兵たちを率いてもらいます。彼らが本当に帝国への忠誠心を取り戻したかどうか、しばらく様子を見なければなりません。ユリアンネ、あなたくらいの力量が無ければこんなことを頼めません。お願いできますか?」


 ジークムントは落ち着きを取り戻し、穏やかにユリアンネに話す。


「くっ……承知いたしました。ですが裏切りの兆候がある場合はもちろん、役に立たないと判断したときは、私の判断で処断を下してもよろしいですね?」


 ユリアンネが怒りと不快感に顔を歪めてリオを睨んだ。


「もちろんです」


「へへ、よろしく頼むぜ」


 ジークムントが頷く。リオは余裕の笑顔を浮かべて舌なめずりをした。


「……私はぜひジークムント様のおそばに置いていただきたいのですが」


 一同のやり取りを黙って見つめていたフォスターが口を開く。その言葉にジークムントは眉をひそめた。


「……私としてもそうしたいのは山々ですが、立場上、一度裏切ったあなたをすぐに私のそばに置くということはできません。そうですね……まずは第三宰相フランツに付いてください。それでしばらく様子を見させていただきます」


「かまいません。ご配慮ありがとうございます」


 ジークムントの言葉にフォスターは頭を下げる。フランツも険しい表情になったがジークムントに向かって頷いた。


 こうしてフォスターとリオの謁見は終了したのだが、ジークムントは大きな失敗をしている。


 原因の一つはフォスターをメインに話をしなかったことだ。フォスターは現在の神竜王国ダルフェニアの土台作りに多大な貢献をした。式典や闘技大会の司会など、公の場にも立つことが多かった。


 しかし実際にどれほど重要な役割を担っていたかについては重要な会議に呼ばれる一部の人々しか把握しておらず、しかもラーゲンハルトの副官というイメージが強いため、その貢献度に比べあまり評価はされていなかった。一般に噂されるラーゲンハルト、ジェラン、フレデリカ、ホプキンといった「ダルフェニア四天王」に入っていないのもそのためだ。


 また常識から言っても敵国から寝返った人物に国の大事を任せるわけがない。そういった先入観からフォスターはそこまで重要な情報を持っていないという判断をしてしまったのだ。


 もう一つの原因はリオのような出まかせを言う男との付き合いが少なかったことだ。自分の出自や功績を誇張する貴族はたくさんいる。また貧しい物や犯罪者には詐欺をする者もたくさんいるだろう。しかしリオのように一国の王に重用される立場で、バレれば問題になるような嘘を重ねる軽薄な男はなかなかいない。全てのリオの話の真偽をフォスターに確認していれば良かったのだが、最初だけしか確認しなかったことが間違いであった。


 そして最後にジークムントが己の知識とリオの話を勝手に結びつけてしまったことだ。これによって話をしたリオ自身がまったく意図しない勘違いをジークムントに植え付けてしまったのだった。


 そのことに気付かぬまま、ジークムントは謁見の間を後にしたのだった。

お読みいただきありがとうございました。

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