神官(バーデン)
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人外の化物と化した神官の攻撃からアーロフとトビアスを救ったアデルだったが、その周囲ではカザラス兵や住民とアーロフの私兵との戦いが始まっていた。剣戟の音と怒号が夜空に響く。
「アデル君、こっち手伝って!」
ラーゲンハルトが叫ぶ。ラーゲンハルトも神官相手に戦っている最中だった。
イルアーナはピーコ、ポチ、氷竜王を守るように短剣を構えている。その前には困り顔のレイコと不機嫌なデスドラゴンが立っていた。
「ちょっと、バカアデル! これやっていいんでしょ!?」
イラついた声でデスドラゴンがアデルに呼びかける。その手は一体の神官の首を掴んでいた。化け物と化した神官は必死にもがいている様子だったが、デスドラゴンの腕はビクともしない。
「は、はい! やっちゃってください!」
ラーゲンハルトを襲っていた神官を斬り捨てながらアデルは返事をした。その瞬間嫌な音がして、デスドラゴンの前に神官が倒れた。どうやら首を握りつぶされたようだ。その体は死にかけの虫のようにバタバタと暴れまわっていたが、そのうち動かなくなった。
「あら? 人間に手を出してはいけないとおっしゃってたのに」
レイコが少し驚いた様子でアデルを見た。
「じ、事情がちょっと変わりまして! 襲ってくる人は倒しちゃって大丈夫です!」
「良かったですわ。実はさっき、飛び掛かってきた殿方を消してしまいましたの。おかずを減らされてしまうのではないかと心配でしたわ」
アデルの返事に安心したのか、レイコが照れたように笑った。
その時、レイコに向かって一体の神官がカエルのように跳躍して襲い掛かった。
「邪魔ですわ」
レイコが光をまとった腕を払う。すると神官は空中でいくつかの残骸となる。レイコの光に当たった部分が瞬時に蒸発したのだ。残った腕や足だけが虚しく地面に転がった。
(す、すご……!)
それを見たアデルは絶句する。神竜たちは人間の姿の時には発揮できる力が制限されるが、それでもやはりレイコやデスドラゴンの戦闘力は並外れていた。
敵わぬ相手と察したのか、レイコたちの反対側からイルアーナたちを狙って二体の神官が突進してくる。
「こっちからも来るぞ!」
イルアーナが鋭い声を上げた。
「がんばれー」
ポチはまだカーゴの中で言われた指示を忠実に実行していた。
「ポチ! 出来れば手伝って!」
「えー」
アデルの叫びにポチが面倒くさそうな表情になる。
「グラァッ!」
そんなポチに向かって一体の神官が腕を振り上げて飛び掛かった。
「円輪斬!」
ピーコが回転する風の刃を生み出す。その刃が神官の振り上げた腕を切断した。何が起きたかわからないといった様子で神官は首をかしげる。
「えい」
気の抜けた声とともにポチがその体にパンチを打ち込む。傍から見るととても威力があるようには見えないが、神官は糸引くよだれを残して吹っ飛んだ。
一方、イルアーナにも別の神官が飛び掛かる。
「地霊拘束!」
イルアーナが呪文を唱えると、地面から蔦のようなものが伸び神官の足を絡めとった。バランスを崩した神官は地面に顔から落ちる。しかし鼻から血を流しながら顔を上げると、イルアーナを焦点の合わぬ目で睨みつけた。神官の太い脚が力ずくで拘束から逃れる。そのせいで足首が変な方向に曲がっているが気にしている様子はなかった。
「くっ!」
イルアーナは短剣を構えて神官を迎え撃とうとする。そこに氷竜王が割って入った。
「おまかせひょーちゃんなの!」
「ギャバァッ!」
しかしそれに構わず神官はイルアーナに襲い掛かろうとする。
「氷結棺桶!」
だが氷竜王が声を上げると、神官の体がみるみるうちに凍っていった。神官は逃れようと悶えていたが、ついには全身が分厚い氷で覆われてしまう。
「すまない、助かっ……」
イルアーナが氷竜王に礼を言う。だが言い終える前にバリンッという音が響いた
「なっ!?」
「びっくりなの!」
驚く二人の前で神官が氷を割って飛び出していた。犬のように体を震わせ身体に付いた氷を剥がしている。
「そっちも魔力切れか」
ピーコが顔をしかめて氷竜王に言った。
「イルアーナさん!」
そこにアデルが駆けつけた。剣を構え、背後にイルアーナや神竜たちをかばうように立つ。しかし向かってくると思われた神官はまったく違う方へ走り出した。
「え?」
アデルが拍子抜けする。さきほど片腕を斬られた神官とともに、生きている神官たちは夜の闇に向かって走り出した。
「怖気づいたみたいだね」
ポチが呟いた。神官たちは知性を失っており、唯一残っていたのはアデルたちが敵だという認識だけだった。だが本能的な恐怖が勝さったことで逃げ出したようだ。
「逃がさない!」
それを追って走り出したのはデスドラゴンだった。
「デスドラゴンさん! 危ないですよ!」
「まあ奴なら心配なかろう」
デスドラゴンを制止しようとするアデルにピーコが呟いた。
「アデルくん、デスドラゴンちゃんよりあっちが心配だよ!」
ラーゲンハルトが反対方向を指さす。
そこではカザラス兵や住民による乱戦が始まっていた。
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