調査(バーデン)
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アーロフから亡命を希望され、アデルは面食らっていた。
「アーロフ様!? いったいどういうことですか! 返答次第ではアーロフ様とて反逆罪と見なします!」
トビアスがアーロフを睨み、剣に手をかける。
「待ってトビアス。話くらい聞いてあげてよ」
「……わかりました」
ラーゲンハルトが言うと、トビアスはあっさりと引き下がる。第一征伐軍時代、トビアスの真面目で猪突猛進な性格はラーゲンハルトと相性は良くなかった。だがそれは軍人としてであり、人間としてはラーゲンハルトに好印象を抱いている。またラーゲンハルトがあらぬ疑いで国を追われたことに対しては納得がいっていなかった。
「……私は以前、黒い獣に襲われた」
トビアスを横目で見つつ、アーロフが切り出す。
「その時救ってくださったのがデスドラゴン様だ。そしてその獣を送り込んだ犯人はラーベル教ではないかと思っている。そして今回の赤い魔物だ。あれも教会の仕業だろう」
アーロフは暗い海のほうに視線を送った。
「い、いや、あれは……」
「ふ~ん。なんでそう思ったの?」
しゃべろうとするアデルの声をかき消すようにラーゲンハルトが尋ねる。
「今回、ラーベル教のネズミが同じ船に乗船を願い出たのだ。兄上の名だと言って、突然な。そしてあの魔物の襲撃。偶然にしてはタイミングが良すぎるだろう」
「そんなことがあったんだ。確かにそうかもしれないね」
ラーゲンハルトは笑顔でアーロフに話を合わせた。
「偶然ということもあり得るでしょう。むしろあの魔物はラーベル教の司祭殿を狙ったとも考えられます。すこし早計では?」
だがトビアスは半信半疑の様子だった。
「僕らもラーベル教は何か企んでると思ってるんだ。アーロフ、トビアス、ここはひとつ教会を調べてみないかい? ここで想像だけで話してても埒は開かないだろう?」
「……確かに」
ラーゲンハルトの提案にアーロフは少し考えてから答えた。
「私もおかしいと思っていたところです。この町や周辺都市の住民が大勢虐殺され、この町の教会の地下墓地に埋葬されたそうですが、どう考えてもそんな広さがあるとは思えない。もし勇敢に散った我が軍の兵士がぞんざいな扱いを受けていたりしたら、それは我が国に対する背任行為です。どうだ、トビアス?」
アーロフがトビアスに呼びかける。
「……承知しました。調査に同行させていただきます」
トビアスが険しい表情ながらアーロフに向かって頷く。
「お前たちも付いてこい。ラーベル教の闇を暴くぞ!」
「はっ!」
アーロフの私兵たちが敬礼で答えた。
「神竜……様?」
アーロフの言葉にアデルは首をかしげる。
「抵抗に気を付けてね。ただでは見せてくれないはずだ」
「ふっ、この私が直々に調査すると言えば見せざるを得ないでしょう。皇帝陛下……いや、前皇帝陛下の実子たる私の殺害疑惑がある以上、神秘保守権など通用しません。それにこの町の神官はせいぜい十人程度。抵抗するなら全員捕らえるまでです」
ラーゲンハルトの忠告にアーロフは余裕の笑みを浮かべた。神秘保守権はラーベル教会がカザラス帝国から与えられている権限で、ラーベル教会は教会の敷地において国からの一切の関与を拒めるというものだ。
「じゃあ急いで行こう。また証拠隠滅されちゃうかもしれないからね。神竜ちゃんたちもヨロシク」
ラーゲンハルトがアデル一行を見渡す。
「はぁ? まだなんかやんの? いい加減にしてよ! ダルイ通り越してグロイ!」
不機嫌になったデスドラゴンが喚き散らす。
「あはは、お願いね。ラーベル教徒が襲ってくるかもしれないからさ」
「お、お願いします、デスドラゴンさん」
軽く言うラーゲンハルトに続き、アデルもデスドラゴンにお願いをして頭を下げた。そのアデルをデスドラゴンがキッと睨む。
「ひぃっ!」
アデルは思わず小さく悲鳴を上げた。
「……ふん!」
それを見たデスドラゴンは顔をプイッと背ける。
「おい、貴様!」
その時、アーロフがアデルの胸ぐらをつかんで怒鳴った。
「わ、わ、わっ! な、なんでしょう?」
「一体どういうことだ! どうやったらあんなゴミを見るような目でデスドラゴン様にお睨みいただけるのだ!?」
「え、ええっ……?」
アデルはアーロフに頭を揺さぶられながら困惑していた。
「……アーロフ。それ一応、うちの王様なんだけど……」
ラーゲンハルトが苦笑いを浮かべてアーロフの腕に触れる。
「はっ……!? こ、これは失礼した!」
我に返ったアーロフが手を放した。どうやら衝動的にやってしまったようだ。
「その少年……失礼、そちらのお方がアデル王でいらっしゃるのですか?」
そんなやり取りを見ていたトビアスが尋ねる。
「そ、そうです。どうもはじめまして」
アデルがペコペコと頭を下げる。トビアスは半信半疑の様子でアデルを見つめていた。
「……わかりました。ではそちらの子供たちは?」
トビアスはピーコたちのほうに目を向けた。
「誰が子供じゃ!」
「ひょーちゃんなの!」
ピーコと氷竜王が口々に言い、その横でポチはどうでもよさそうな顔をしている。
「この子たちも神竜ちゃんだよ。こう見えてすごいんだよ」
「そうなんですか」
ラーゲンハルトに教えられてもトビアスの眉間のしわは消えない。
そして一行はこの町のラーベル教会に向けて移動を開始した。
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