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海の王(アスカブトケロン)

※前日も更新しております。

 海竜王の元にやってきたアデルたちは、シーパラディンの案内で海竜王の神殿の中へと進んでいた。


 神殿は石造りで、あちらこちらに苔がむしている。神殿内はところどころに窓があり陽が差し込んでいた。その中をアデルたちが進んでいくと、途中で何人もの美女がアデルたちを迎えた。


「いらっしゃいませ」


 美女たちが頭を下げる。その美女たちはメイド服のようなものに身を包んでいた。


「わお!」


 美女たちを見たラーゲンハルトが歓喜の声を上げる。


「その方たちは?」


 美女たちがシーパラディンに尋ねる。


「あぁ、彼らは……」


「ひょーちゃんなの!」


 しかしシーパラディンより先に、元気よく手を上げた氷竜王が自己紹介をした。


「あら、氷竜王様。ようこそお越しくださいました。そちらの方々は……」


「アデルちゃんなの! 良い変態さんなの!」


 アデルたちに視線を送る美女に氷竜王が答える。


「あ、ど、どうも……」


 アデルが苦笑いを浮かべ頭を下げる。その時、美女たちの足元が目に入った。


(魚……?)


 ロングスカートの裾から覗く美女たちの足元、そこには魚のヒレのようなものが見えていた。


「良い変態……そうですか。我々はマーメイド。海竜王様の身の回りのお世話をしております」


「マー……メイド……そうですか」


 アデルは何か言いたげだったが、またその言葉を飲み込んだ。


 そのマーメイドは切れ長の目をしたクールビューティーといった雰囲気の美女で、あまり感情を表情には出さないタイプのようだった。


「人間のように見えるかもしれないけど、半人半魚の魔物」


 アデルが戸惑っていると勘違いしたポチがマーメイドの説明をする。


「へぇ……ちょっと大事なことなんで確認しておきたいんだけど」


 ラーゲンハルトがそれを聞き、前に進み出る。その声にいつものおちゃらけた雰囲気はない。


「……どこまでがお魚なんだい? お腹まで? それともお尻の辺りまで?」


 さも大事なことを聞いているかのようにラーゲンハルトの表情は真剣だった。


「そうですね、それは確認しておくべきです」


 アデルも真剣な表情で頷いた。


「こりゃ、お前たち! 失礼じゃぞ!」


 そんな二人をピーコが叱る。その横でイルアーナが呆れた表情をしていた。


「半人の魔物はその姿にコンプレックスを抱えている場合も多い。境目の話題は厳禁」


「そ、そうなの!?」


 不機嫌そうに言うポチにアデルは驚いた。


「そうなんだ。ごめんね」


「いえ、かまいません」


 謝るラーゲンハルトにマーメイドが小さく首を振る。


「それで、どういったご用件でいらしたのですか?」


「海竜王の手を借りたい」


 ピーコが代表してマーメイドの問いに答える。


「海竜王様のお力を……そうですか」


 マーメイドは何か思う所があるのか、少し眉をひそめた。


「ですが海竜王様は今……」


「わかっておる。無理なら無理でかまわん」


 マーメイドの言葉をピーコが遮った。


「……承知しました。ではこちらへ」


 マーメイドはそう言うと、シーパラディンに代わりアデルたちを先導するように奥へと歩き出す。アデルたちはそのあとをついて歩いて行った。


「うわぁ、すごい……」


 しばらく進むと謁見の間のような場所にたどり着いた。先ほどまでと違い窓がなく、代わりに青白い魔法の光が松明のように置かれ室内を照らしていた。室内は円形で中央が段差で高くなっており、そこに石造りの大きな椅子が置かれている。


 そしてその椅子には一人の少女が座っていた。


「海竜王様、お客様をお連れ致しました」


 マーメイドが恭しく頭を下げると、その少女は無表情に小さくうなずいた。


(あの子が海竜王? かわいらしい女の子にしか見えないけど……)


 アデルは海竜王の姿を見る。肌は白く、青い髪が背中の中ほどまで伸びていた。見た目は氷竜王よりもさらに幼いが、落ち着いた雰囲気のせいで大人びているようにも見える。紺色のローブを着ているが、サイズが合っていないのかだいぶダボダボになっていた。


 海竜王は椅子から飛び降りると、ゆっくりとアデルたちのほうへと歩き出す。アデルは緊張しながらその動きを見つめていた。


「ひょーちゃんなの!」


「久しぶりじゃな、海竜王。まだちんちくりんじゃのう」


 氷竜王とピーコが海竜王に声をかける。だが海竜王は小さくうなずいただけだった。海竜王の手はダボダボのローブの裾にほとんど隠れているが、右手にはフォークのようなものが見える。そしてそこには何かが刺さっていた。


(あれは……タコさんウィンナー?)


 その刺さっていたものは、アデルが日本でよく食べていた赤いウィンナーに似ている。しかもご丁寧に切り込みを入れてタコの形になる様にしたものだ。


 そして海竜王は歩き続け、アデルの足元までやってくる。


「ど、どうも。アデルと申します……」


 アデルを無表情で見上げる海竜王に戸惑いつつ、アデルは自己紹介をしてペコペコと頭を下げた。


 だが海竜王は反応を示さない。しばらく無言の見つめ合いが続いた。


(な、何をされるんだ……?)


 緊張でアデルの額に汗が浮かぶ。


 しかしついに海竜王が口を開いた。


「……いじめる?」


「へ?」


 アデルはわけがわからずポカンとする。


「い、いじめるわけないじゃないですか」


 わけのわからぬまま返事をするアデルを、再び無言のまま海竜王が見上げる。


 すると突然、海竜王がアデルの足にしがみついた。


「はわぅっ!」


 アデルが謎の奇声を漏らす。足にしがみついてきた可愛い少女に、アデルの父性が爆発したのだ。


「ど、どうしたの? 大丈夫だよ、お兄ちゃんが守ってあげるからねぇ!」


 アデルは相好を崩し、猫なで声になった。


「アデルちゃん、やぱり尊死てえししちゃったの!」


 その様子を見た氷竜王が言った。


「やれやれ。海竜王は竜王一の甘えん坊……やはり女に弱いアデルには天敵じゃったか」


 そしてピーコが呆れたようにつぶやいたのだった。

お読みいただきありがとうございました。

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