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シーパラディン(アスカブトケロン)

誤字報告ありがとうございました。


※前日も更新しております。

 いったいなぜバーデンに巨大な魔物と、それに応じるように二体の神竜が現れたのだろうか。その発端は少し時を遡る。


「あ、島が見えてきましたよ!」


 アデルが小窓から指をさす。


 アデルたち一行はカーゴに乗りワイバーンによって海竜王の元へと運ばれていた。カーゴは防寒仕様で木の板で囲まれており、外が見えるのは小さな窓からだけだ。だがそれでもすぐわかるほど、セルフォードの沖合には大きな島のようなものが見えていた。緑に覆われた小山のような見た目で、木もたくさん生えている。


「島ではないと言っておる」


 ピーコがムッとしながら言う。その手には焼き立てのパンを持っていた。


 ミドルンからセルフォードまではワイバーンなら一時間ほどで到着する。だが寒いだろうからと炊事班がアデルたちに焼き立てのパンを持たせてくれていたのだった。


「いや、島じゃん」


 アデルは眉をひそめる。


「何を言っとる。あれは亀じゃ」


「亀?」


 ピーコの言葉アデルは首を傾げた。


「へー、あのでっかいのが亀の甲羅ってことか」


 ラーゲンハルトが小窓からそれを見ながら感心していた。


「え? あれが……亀?」


 アデルが驚く。確かに小島形や盛り上がり方は亀の甲羅に見えなくもない。


「かめかめなの~!」


 氷竜王がパンをもって踊りながら言う。毛布にくるまってボーっとしているポチと違い、寒くても元気だった。


「あんな巨大な亀がずっとあそこでじっとしているのか?」


 イルアーナが眉をひそめて言う。


「いや、たまたま近くにおるだけじゃ」


「だが我々がセルフォードを占領した時にはいたはずだ。すくなくとも数か月はあそこにいるだろう?」


 神竜王国ダルフェニアがセルフォードを占領した際、すでにその島のようなものは見えていた。


「アスカブトケロンはノロいからね。年に数センチづつくらいしか進めない」


 興味なさそうにしていたポチが呟くように言う。


「アスカブトケロン? それが亀の名前?」


 アデルは聞き覚えのない言葉に首をかしげる。


「それしか進めないなら、波とかで流されちゃいそうだけどね」


「アスカブトケロンは波の影響を受けないよう魔法で守られてる。そうしないとその上で暮らしてる海竜王たちが酔っちゃうから」


 ラーゲンハルトの疑問にポチがめんどくさそうに答えた。


(あの上で海竜王さんたちが生活してるのか……)


 アデルは目の前に迫ったアスカブトケロンの背中を見つめた。






 ワイバーンがアスカブトケロンの背中に降り立つ。実際に降りてみても、そこは島としか思えない場所だった。小山のように盛り上がった場所には緑に埋もれるようにして神殿のようなものが建っている。


「ここに海竜王さんが……」


 アデルは緊張の面持ちでカーゴから降り立った。


(ピーコは海竜王さんが僕の天敵って言ってたけど……)


 アデルを不安にしていたのはピーコの一言だった。


 そんな一行の前に神殿のほうから近付いてくる者がいた。


「ワイバーンを飼いならしておるのか……一体何者だ?」


 カリカリという音を立てながらその声の主が歩く。


「カ、カニ?」


 アデルは驚きの声を上げる。それは人間のような背格好をしたロブスターのような生き物だった。甲殻類特有の丸い目がアデルを見つめている。体は硬そうな甲殻に覆われており、まるで鎧を着た騎士のようにも見える。さきほどのカリカリという音は歩く際に甲殻同士がこすれる音だったのだ。背中には黒いマントのようなものを羽織っていた。このマントは内側がやすりのように荒くなっており、背中についた貝や藻を削り落とす役割があった。


「ひょーちゃんなの!」


 その生き物にトコトコと近付き、手を上げて元気よく氷竜王が自己紹介をした。


「これはこれは氷竜王様、またお越しくださったのですね。ということは他の方は同じ竜王様と……その者たちは?」


「アデルちゃんたちなの! 食べ物くれるの!」


「ほう。皆様の世話人ということですか」


 氷竜王の言葉にその生き物が納得して頷く。


「ど、どうも。あなた方は……?」


 アデルが頭をペコペコと下げながら、その生き物に尋ねた。


「我らは氷竜王様のお住まいを守るシーパラディンだ」


「シーパラディン……」


 アデルはしゃべるたびにシャカシャカと動くシーパラディンの口を見ながらつぶやいた。シーパラディンは腰に剣のようなものを携えている。だがその材質は鉄ではなく、仲間の甲殻を削り出して作ったものだ。死んだ仲間の甲殻から装備を作り、形見として身に着けるのが彼らの弔いの方法だった。


「左様。我々は氷竜王様から海の領地、すなわちシー封土を頂き、代わりに氷竜王様に忠誠を誓っておるのだ」


「シー封土……なるほど」


 アデルは何か言いたげだったが、その言葉を飲み込んだ。


「竜王様方、海竜王様の元へご案内いたします」


「うむ、頼んだぞ」


 シーパラディンの言葉にピーコが偉そうに頷く。そしてアデル一行はシーパラディンに案内され神殿の中へと進んでいった。

お読みいただきありがとうございました。

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