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お前もか(ミドルン)

 アデルはミドルン城の中庭でカザラス帝国に帰参する将兵たちに別れを告げていた。


「アデル様」


 フォスターがアデルの前にやってくる。そして地面に片膝をつくと、頭を下げた。


「この度は我が儘を許していただきありがとうございます。兵一同を代表してお礼とお詫びを申し上げさせていただきます」


「いやいや、止めてくださいよ。僕もフォスターさんがいてくださって、すごい助かりました」


 アデルはフォスターを立ち上がらせる。現在の神竜王国ダルフェニアの体勢を作り上げたのはフォスターの手腕と言っても過言ではない。


 イルアーナがアデルの後ろで複雑そうな表情をしていたが、特に何も言わなかった。


「戦場で出会ったら容赦はしないからね」


 フレデリカが挑発的にフォスターを睨む。


「ふふっ、容赦されるような状況の戦いにならないよう気を付けます」


 フレデリカの言葉にフォスターは笑顔で返した。


「いつでも帰ってきてくださって大丈夫ですからね! 僕、待ってますから!」


「ありがとうございます」


 アデルの熱のこもった言葉に、フォスターは苦笑いと照れ笑いが混じった笑みを浮かべた。


 しかし多くの神竜王国ダルフェニアの将兵たちは渋い表情をしている。単に兵士千人が抜けるのも痛手だが、指揮官としてのフォスターの優秀さも良くわかっているからだ。さらに一般兵たちはあまり知らないものの、将たちは政治面でもフォスターが大きな役割を務めていたことを知っている。アデルがそんなフォスターを快く送り出すことに疑問を持っている者もいた。


「世話になったな。いざ分かれると少し寂しいがよ。まあ互いに頑張ろうぜ」


 荷物を肩に背負った”黒槍”リオがフォスターの横に並び、アデルに声をかける。


「ああ、リオさんもお元気……えっ?」


 アデルはリオをきょとんとした表情で見つめた。フォスターも眉間にしわを寄せ、隣に立つリオを見つめている。


「……カザラス帝国に寝返るということですか?」


「おう。これからも同僚としてよろしく頼むぜ!」


 フォスターの言葉にリオはニカッと笑いながら肩をバンバンと叩いた。フォスターはうっとおしそうに眉間にしわを寄せる。


「ええっ、リオさんが!?」


 アデルは驚きの声を上げた。アデルはリオのステータスを確認する。


名前:リオ

所属:カザラス帝国

指揮 51

武力 88

智謀 60

内政 27

魔力 16


(もう所属がカザラス帝国に……ていうか、リオさんこんな優秀だったっけ……?)


 リオは訓練を受けて無い村人にすぎなかったが、それでももともとの才能により高い武力を持っていた。アデルの元で訓練に励み武力が伸びたのはもちろん、成り上がりを夢見て指揮官としての能力もある程度上がっている。


「お前は我々に借りがあるだろう。金を貸したことを忘れたか?」


 イルアーナが怒りの眼差しでリオを睨む。


「あぁ、あんなはした金のこと覚えてんのか。利子含めて今月の俺の給金で賄えるだろ」


 リオは唇の端を歪めてイルアーナに言った。武力の高いリオにはそこそこの給金が出ており、確かに未払いの給金で充分補填できる額である。とはいえ本来であれば敵国に離反することは軍においては重罪であり、特に肩書だけとはいえ軍の上層部であったリオであればその場で処断されてもおかしくはない。


「う~ん……仕方ないですね……」


 アデルは複雑な気持ちで呟く。


「ほら、アデルがこう言ってるぜ! まったく、器のデカイ男だよな。はっはっはっ!」


 リオが今度はアデルの肩をバンバンと叩いた。


「ま、まあ、リオさんもお元気で……」


「おう、見てろよ! カザラス帝国でビックになってお前らを驚かせてやるからよ!」 


 悪びれる様子もなくリオが笑う。フォスターの時は複雑な表情を浮かべていたダルフェニア軍の将の面々も、リオにはただ侮蔑を込めた視線を送るだけだった。






「はぁ……行っちゃいましたね」


 遠のいていくフォスター一行の影を見つめながらアデルが寂しそうにつぶやく。


「そうだね……」


 ラーゲンハルトも目を細めてそれを見つめていた。


(ラーゲンハルトさんの所属は……戻ってるな)


 アデルはラーゲンハルトのステータスを確認する。その所属はすでに神竜王国ダルフェニアにもどっていた。


(だけど所属はけっこう簡単に代わるからな……あまり過信せず、みんなの様子をちゃんと気にしないと……)


 アデルは反省を込め、気持ちを新たにした。


「さて。クヨクヨしてる場合じゃないですね。ラングール共和国のほうもどうするか考えないと!」


 アデルはわざと明るい声を出す。実際、ラングール共和国から援護を求めるメッセージが冒険者ギルドを通じて届けられていた。


 そしてアデルたちはラングール共和国への対応を協議するために会議室へと移動するのだった。

お読みいただきありがとうございました。

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