岐路(ミドルン)
カザラス帝国から書状が届いたことを受け、ミドルン城の会議室にはアデルとイルアーナ、そしてラーゲンハルトが集まっていた。
書状は封筒に入っており、その封蝋にはカザラス帝国の国印が押されていた。アデルたちが見守る中で、ラーゲンハルトは封を開け中から中身を取り出す。
「そ、それでなんて書いてあるんですか?」
「いまから読むから落ち着きなよ」
先走るアデルをラーゲンハルトが苦笑いを浮かべ宥める。そして書状に目を走らせた。
「ふ~ん……前もあった僕に帝国に戻ってこいっていう手紙だね。僕やフォスター、その他ダルフェニア側についた兵士たちに、カザラス帝国に戻るなら恩赦を与えるってさ」
「そ、そうなんですね……」
アデルは予期していたかのように
「また偽物ではないのか?」
イルアーナが眉をひそめる。以前の手紙は神竜王国ダルフェニア内に不信をもたらす目的の偽の書状だった。
「今回は兄さん……新皇帝のジークムントの署名と皇帝の印が押されてる。計略の可能性はあるけど、すくなくとも偽物じゃないよ」
イルアーナの言葉にラーゲンハルトは肩をすくめる。
「そ、それでどうするんですか?」
「どうするって?」
アデルの問いにラーゲンハルトはキョトンとする。
「だ、だから、ラーゲンハルトさんたちが帝国に戻るかどうかですよ!」
「え?」
両手のこぶしを握り締めながら見つめてくるアデルを、ラーゲンハルトはただ唖然として見つめた。
「……戻りたいって言ったらどうするの?」
ラーゲンハルトが顔を引きつらせながら訪ねる。
「どうするって……それはラーゲンハルトさんの好きなようにしてもらえれば……」
「えっ、いいの!?」
アデルの返答にラーゲンハルトは驚いた。
「もちろん寂しいですし、戦力としても困りますけど……だけどラーゲンハルトさんに無理やりここにいてもらうわけにもいきません。身内との戦いになるわけですし、ラーゲンハルトさんが納得できる形にしてもらったほうが……」
アデルは寂しげに語る。
「私もアデルの甘さに呆れているがな。まあお前がここを去りたいというなら好きにすればいい。だが我々と敵になるということがどういうことか。よく考えるのだな」
イルアーナが腕組みをしてそう話す。
「そっか……」
ラーゲンハルトは思案顔で天井を見上げた。
「じゃあ……少し考えさせてもらっていいかな。フォスターとも相談したいし」
「どうぞどうぞ」
遠慮がちに言うラーゲンハルトにアデルが小刻みに頷く。そしてこの話し合いはお開きとなった。
「……ていうことがあったんだよね」
ラーゲンハルトは自分の部屋にフォスターを呼び、先ほどのアデルたちとの話し合いの様子を話した。
「ふっ、アデル様らしいですね」
フォスターはそれを聞き笑顔を浮かべる。
「フォスターはどうしたいの?」
「私の忠誠の対象は決まっております」
ラーゲンハルトの問いにフォスターは真剣な表情で答えた。
「そっか……」
ラーゲンハルトは少し考え込んだ。
「じゃあしばらくお別れになっちゃうね」
「そうですね」
神妙な面持ちのラーゲンハルトの言葉にフォスターが頷く。二人は別れを惜しむかのように、しばらく他愛のない話に興じるのだった。
ラーゲンハルトとフォスターがそんな話し合いをしている頃、アデルとイルアーナもしんみりとした雰囲気で話し合っていた。
「ラーゲンハルトはどうすると思う?」
イルアーナがボソリとアデルに尋ねる。
「わかりません。ただ……」
アデルは険しい表情で言う。
「ラーゲンハルトさんの所属は……なしになっていました」
アデルの見たラーゲンハルトのステータス。今まで神竜王国ダルフェニアとなっていた所属は「なし」となっていたのだった。
お読みいただきありがとうございました。