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優勝者決定戦(ミドルン)

誤字報告ありがとうございました。

 剣技大会優勝決定戦。歓声の中登場したアデルは対戦相手を見て驚いた。


「フ、フレデリカさん!?」


「なんだい、アタシが勝ち上がったのが意外かい?」


 そんなアデルを見てフレデリカは顔をしかめる。


「い、いや、そういうわけじゃないんですけど……」


 アデルは苦笑いを浮かべつつも、少しほっとした表情になる。


(良かった……僕を絶対倒すマンのウィラーさんとか、怖そうなサムライだったら殺されちゃうかと思った……)


 お腹を押さえつつもアデルはフレデリカの前に進み出た。


「それでは優勝決定戦……試合開始!」


 フォスターの宣言とともに試合開始の銅鑼が鳴る。


「どいつもこいつも……アタシを舐めるんじゃないよ!」


 その瞬間、フレデリカが一気に距離を詰め、鋭い一撃を放つ。


「うわわわっ!」


 アデルはお腹を押さえつつ、片手でどうにかその攻撃を受けた。


 しかしフレデリカの攻撃は続く。目にも止まらぬ連続攻撃を畳みかけ、アデルは防戦一方となった。


「いいぞー!」


「アデル様、頑張ってー!」


 両者に観客から声援が飛ぶ。神竜王国ダルフェニアの頂点を決める戦いに観客のボルテージも高まった。


「なんだ? アデルの野郎、やたらへっぴり腰じゃねぇか」


 戦いの様子を特別観覧席から眺めていたウィラーが呟く。


「ふん、こんなやらせだらけの大会を開いたのに、このていたらくか」


 その近くにいたフォルゼナッハも鼻を鳴らす。特別観覧席でアデルを暗殺する目論見が失敗に終わったこともあり、ふてくされた表情をしていた。


 その後もフレデリカが一方的に畳みかける展開が続く。その展開に観客の様子も少しづつ変わり始めた。


「なんだよ……アデル王、全然手を出さないじゃないか」


「防御で手いっぱいなのか? 見た目通りそんな強くないんだな」


 観客の期待が徐々に失望へと変わる。


 しかし当のフレデリカは焦りを感じていた。


(くそっ……!)


 息をつく間もない連続攻撃を仕掛けながらフレデリカは額から汗を流していた。しかも最初はフレデリカの攻撃を受けてグラついていたアデルの剣も、今では石のように硬くフレデリカの攻撃を弾き返すようになっている。


(どんどん防御が硬く、精確になっていく……手を止めたら負ける……!)


 フレデリカはすでにアデルとの実力差を確信していた。攻撃の手を緩めないのはもはや防御のためであった。


 一方、試合開始当初は青ざめた顔をしていたアデルは試合が進むにつれ顔色が戻っていく。


(やっぱりフレデリカさんで良かったなぁ……)


 アデルは落ち着きを取り戻し、試合中だというのに穏やかな表情になっていた。フレデリカの攻撃は試合に勝つためのもので、急所を狙ったりすることもなく一切殺気を感じない。試合の恐怖で押しつぶされそうになっていたアデルだったが、フレデリカの戦い方を見てその恐怖がなくなっていた。


 それにつれて腹の調子も良くなり、ついには腹を押さえていた手を放して両手で剣を持つようになった。それによってフレデリカの攻撃は完全に防がれるようになっていた。


(きっと僕の体調が悪そうなのを見て、手加減してくれてるんだろうな……優しいなぁ……)


 アデルの顔がほころぶ。


「ちっ……余裕って顔だね」


 それを見てフレデリカは舌打ちした。すでに肩で息をしており、攻撃も明らかに鈍くなっている。客席にも騒めきが広がり始めた。


「おい、様子がおかしいぞ……?」


「また八百長か?」


「アデル王はわざと手を出さずに相手にずっと攻撃させてたんだ」


「え、どうして?」


「相手が女だからだろ」


「あのフレデリカ相手に手加減してたってことか!?」


 客席に様々な憶測が広がる。しかし細部はともかく、防戦一方だったアデルが実はフレデリカの実力を凌駕していたということは正しかった。


「あ~あ、やってらんないね」


 フレデリカはそう言うと武器を捨てる。攻撃をし続けたことで軽い木製の剣にも関わらず腕の筋肉が悲鳴を上げていた。


「え?」


 それを見たアデルがキョトンとした表情になる。


「アタシの負けだよ。さっさとやっとくれ」


 フレデリカは手を広げ無抵抗の意思を表す。


「い、いいんですか?」


「ああ。早くしな」


 フレデリカに促され、アデルは武器をちょんとフレデリカの体に付ける。わずかだがフレデリカの体に塗料が付着した。


「そこまで! 勝者、アデル王!」


 フォスターが宣言すると客席から爆発的な歓声が沸き起こった。最後の呆気ない幕切れも、それまでのフレデリカの猛攻やその後の疲れ切った表情を見れば納得のものだった。


「さすがアデル王だ!」


「アデル様、バンザーイ!」


 歓声の中、アデルはフレデリカに手を差し出す。


「フレデリカさんが対戦相手でよかったです。あ、もちろん弱いとかって意味じゃないですよ! フレデリカさんとなら安心して戦えるって言うか……」


「……馬鹿だねぇ」


 言葉に困ってモニョモニョするアデルの手をフレデリカが少し照れ臭そうに握った。


 こうして剣技大会はアデルが優勝し、見事優勝賞金を守り切ったのであった。



お読みいただきありがとうございました。

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