駆け引き(ミドルン)
誤字報告ありがとうございました。
剣技大会準決勝のもう一試合はウィラー対ミフネの対決だった。
高名な両者の対決に観客の期待も高まったが、いざ試合が始まってみると両者はしばらく動かず睨み合いを続けるだけだった。
しびれを切らした観客から野次が飛ぶが、ウィラーとミフネは剣の切っ先を相手に向けたまま睨み合い、一歩も動かない。
(こいつ……強い……!)
それは二人ともが思ったことだった。二人の背筋にピリピリと緊張が走る。
「いいね、こうでなくちゃ」
ウィラーは愉快そうに笑みを浮かべる。するとそれまでの静寂を打ち破り、稲妻のような速さで一気に間合いを詰めた。そして手にした細身の剣で必殺の突きを放つ。
「……っ!」
ミフネはすんでのところでその攻撃をかわした。その攻撃の鋭さに面を食らったミフネは慌てて距離を取る。そうはさせまいとウィラーが追従して二度三度と突きを放つが、ミフネは紙一重でどうにかそれらの攻撃を受け流した。
「これをかわすか。たまんねぇな!」
攻撃をかわされたにもかかわらずウィラーは嬉しそうな声を上げる。
(こんな手ごわい相手は久しぶりだ……この辺境でこんな猛者に出会うとは……)
ミフネは額から汗を流しながらウィラーを睨んだ。
(だが、攻撃は単調で直線的だ。まるで獣だな……)
これまでの攻撃を見てミフネはそう判断していた。
ウィラーは最速で相手の急所を貫くことを重視して鍛錬を積んできた。そして「対人最凶」とまで恐れられるようになったが、最速を目指したその攻撃は一定のリズムと動きによって生み出されている。確かにミフネの言う通り単調で直線的とも言える攻撃だ。だからと言ってその攻撃を耐えられる相手はわずかしかいないのだが。
(このワシが負けるわけがない……!)
ミフネが攻めに転じる。強烈な一撃が様々な角度からウィラーに叩き込まれた。しかしウィラーは難なくそれを剣で受け止めていく。
だが何度目かの攻撃を受け止めた時、ウィラーの表情が曇った。
(なんだこの弱えぇ攻撃は……?)
ミフネの攻撃は強烈ではあったが、ミフネの実力からすればあまりに軽い攻撃だった。
(そういやラーゲンハルトもやってたな……)
攻撃を受けながらウィラーはラーゲンハルトとの訓練を思い出す。様々な角度から攻撃することで、相手が一番苦手としている方向を見定めていたのだ。
(こいつ……)
ウィラーは徐々に苛立っていた。手数の多いミフネの攻撃を剣で受け止めているため攻撃に転じることが出来ないでいた。
(こっちの攻撃を封じるのが目的か……!)
ミフネの攻撃は斬撃主体で剣で受け止めなければくらってしまうような絶妙な攻撃だった。ウィラーも隙を見て反撃するが、突き主体のウィラーの攻撃は範囲が狭く簡単にかわされてしまう。
(くそっ、剣が軽いからって調子に乗りやがって……)
ウィラーは顔をしかめた。もし実戦であれば今のミフネのように重い鉄の武器でずっと攻撃をし続けることはできないだろう。
(守りは攻めほど得意ではないようだな……このまま攻め続ければ勝てる!)
一方、ミフネはウィラーの防御を見て勝利を確信していた。フェンシングのように一気に相手との間合いを詰めて突きを放つ戦い方のウィラーは、あまり剣の打ち合いに慣れていない。そうは言っても常人よりはるかに上なのだが、ミフネほどの腕前の相手にぐいぐい前に出て来られると戦いづらいのは確かだった。
「こうなったら……でりゃぁっ!」
ウィラーが剣を振り上げ、思いっきりミフネに向かって振り下ろした。これまでなかった大振りな攻撃だ。
(なんだ、やけくそか?)
ミフネは水平に構えた剣を持ち上げ、簡単にその攻撃を受け止める。しかしウィラーは剣を振り下ろした勢いそのままにミフネの足元へとしゃがみこんだ。そのウィラーの目の前には無防備なミフネの体がある。
「なっ!?」
ミフネは驚愕しつつ慌てて後ろへと飛び退いた。
(へへっ、驚いたろ。俺もラーゲンハルトにやられて驚いたぜ……)
それはウィラーがラーゲンハルトとの手合わせの中でやられた動きであった。実戦であればそこから無防備な相手の体に打撃を叩きこむことが出来るのだが、この大会では格闘攻撃が禁じられているため手出しはできない。
だが……
「ありがとよ」
ウィラーが呟く。ミフネが反射的に飛び退いてくれたおかげで、受け止められていた剣が自由に使えるようになっていたのだ。
「オラッ!」
しゃがみこんだ状態から全身をバネのように使いウィラーが剣を突き出す。飛び退いた直後で体勢が崩れていたミフネはそれをかわすことはできなかった。
「ぐふっ!?」
ウィラーの剣はミフネの胸部に命中する。鎧で守られているとはいえ、かなりの衝撃がありミフネは後ろに倒れた。
「そこまで! 勝者ウィラー!」
進行役のフォスターが宣言する。
こうしてトーナメントの決勝はウィラーとフレデリカが戦うこととなったのであった。
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