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成り行き英雄建国記 ~辺境から成り上がる異種族国家~  作者: てぬてぬ丸
第十一章 異変の章

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裏切り(ミドルン)

「せいっ!」


 フォルゼナッハが振り下ろした剣でまた一人の参加者が倒れる。


「フォルゼナッハ、覚悟!」


 しかしその参加者の背後から別の参加者が飛び出し、隙のできたフォルゼナッハを狙う。


「はっ!」


 だが気合の声とともにその参加者を剣で打ちつけた者がいる。フォルゼナッハと共闘するエラニアだった。


「ほう、剣の扱いもなかなかだな」


 その剣捌きを見たフォルゼナッハが感嘆する。


「ありがとうございます」


 周りを囲む参加者を睨みながらエラニアが言った。


 剣技大会予選のHブロック。個人的な感情やその目立ち方から、フォルゼナッハを狙う参加者は多かった。しかしエラニアと連携しフォルゼナッハは彼らを打ち倒していく。数の不利はあるもののフォルゼナッハの剣の腕は確かだ。そしてエラニアが絶妙なアシストによってフォルゼナッハの死角をカバーし、フォルゼナッハは思う存分、その剣の腕を発揮できていた。


 そのため最初は威勢よく挑みかかってきた参加者たちは、すぐに様子を見ながら散発的に襲ってくるだけになっていた。そして自分の勝てそうな相手に目星をつけ、少しでも結果を残そうと別の参加者同士で戦いが始まる。


「ふん、烏合の衆が……」


 フォルゼナッハはその様子を見て子馬鹿にしたような笑みを浮かべた。


(せいぜい調子に乗ればいい……)


 しかしその背中をエラニアが睨みつける。


(勝ち抜き決定の直前……一番お前が気持ち良くなっているタイミングで倒してやる……)


 エラニアは暗い笑みを浮かべた。


 エラニアは権力者が嫌いだ。奴隷として飼われていた時は感覚がマヒし、何をされても苦痛などは感じなかったが、イルヴァの元でまともな生活を送るようになってからは自分がいかにおぞましいことをされていたのか理解した。そして同じく奴隷出身のイルヴァに尽くし、他の権力者たちを引きずり下ろすことを目標としてきた。


 その中でもフォルゼナッハは典型的なエラニアが嫌う側の人間だったのだ。


 そして試合が進み、周囲にはほとんど参加者がいなくなっていた。


(そろそろ頃合いか……)


 エラニアがフォルゼナッハの様子を盗み見る。その時……


「やっ!」


「……っ!?」


 エラニアの顔のすぐ横を剣が通り過ぎた。


「ちっ、運がいいな」


 剣を構えたフォルゼナッハが舌打ちをする。先ほどの攻撃はフォルゼナッハが放ったものだったのだ。エラニアがちょうどフォルゼナッハの様子を窺っていなければ躱せていなかっただろう。


「なっ!?」


 エラニアは後ずさりしつつ茫然とする。裏切ろうとしていたのは自分であったはずなのに、フォルゼナッハから攻撃を受けたのが信じられなかったのだ。


「ふっ、売女どもを私が信用すると思ったか? ラングールの別の公爵に接触したのもお前たちを信用していなかったからだ。お前たちは私の道具に過ぎない。利用できれば利用するし、必要が無ければ捨てるだけだ。まあお前の体の具合はなかなかだったがな……くそっ……!」


 フォルゼナッハは言いながら空いている手で自分の股を触り顔をしかめた。


「くっ……」


 エラニアは悔し気に顔を歪め、フォルゼナッハを睨みつける。


「奴隷の分際でこの私の寵愛を受けれたのだ。感謝して大人しくしていろ!」


 フォルゼナッハが再び強烈な一撃を放つ。エラニアはどうにかそれを受け止めた。


 その後もフォルゼナッハの猛攻が続く。エラニアは防戦一方でそれを絶えしのぐしかなかった。


 しかしフォルゼナッハの攻撃にエラニアの腕の筋肉が悲鳴を上げる。十度ほどの攻撃を受け止めた時、限界を迎えたエラニアの手から剣が落ちた。落ちた剣が地面に跳ね返り、虚しい音を立てる。


「終わりだな」


 余裕の笑みを浮かべ、フォルゼナッハがエラニアに剣を突き付ける。


「最後に聞こう。私の奴隷になるのなら、その顔に傷は付けないでおいてやる」


 フォルゼナッハがエラニアに問う。


 エラニアはしばらく無言でフォルゼナッハの顔を睨みつけた後、その顔に唾を吐きかけた。


「……いいだろう」


 余裕の態度を見せながらも、フォルゼナッハは顔に付いた唾をぬぐいながら顔を引きつらせる。


「女の分際でこの私に盾突いたことを後悔するがいい!」


 フォルゼナッハが剣を振りかぶる。エラニアは固く目をつぶった。


 ガコッ!


 鈍い音が辺りに響く。しかしエラニアは何の痛みも感じなかった。


「女があんたに逆らったらどうなるんだって?」


 突如ぶっきらぼうな女性の声が現れた。


 エラニアが恐る恐る目を開く。そこには担いだ剣をポンポンと肩に当てている赤毛の美女がいた。”紅百華バーミリオン”フレデリカ――優勝候補と目される女剣士だ。


 優勝候補であるフレデリカには他の参加者が向かって来なかった。フレデリカもわざわざ自分から戦いを挑むようなことはせずずっと会場の端で休んでいたため、これまでまったく目立っていなかった。


「なっ!? フ、フレデリカ……」


 自身のエラニアへの攻撃をフレデリカに阻まれ、フォルゼナッハは慌てふためいていた。これまでのフレデリカの様子を見て戦う気はないのだろうと決めつけていたのだ。もはやこのブロックを勝ち抜けるのはフレデリカと自分だと確信した矢先の出来事だった。


「ニチャニチャうるさい奴だね。あんたみたいな奴が一番嫌いなんだよ」


 フレデリカが顔をしかめてフォルゼナッハを睨みつける。


「ま、待て! お前は傭兵だろう! いくら欲しい? 私が優勝するために手を貸すなら、お前の欲しい金額を払ってやろう。どうだ?」


 フォルゼナッハが愛想笑いを浮かべてフレデリカに話しかける。しかし剣を握る手には力がこもっていた。


(隙を見せた瞬間、剣を叩きこんでやる……!)


 フォルゼナッハは内心でそう考えつつ、フレデリカの反応を見ていた。だが……


 ガコッ! と再び鈍い音が響く。それはフレデリカの剣がフォルゼナッハの側頭部に叩き込まれた音だった。


「なっ!? 速……」


 その攻撃の速度に驚きつつ、言い終える前にフォルゼナッハは崩れ落ちる。


「一体いつの話をしてるのさ。今のあたしはアデルの臣下ってやつだよ」


 倒れたフォルゼナッハを蔑むように見下ろしてフレデリカが呟いた。


 そしてHブロックの勝ち抜けはフレデリカとエラニアとなり、全ての予選が終了したのだった。

 


お読みいただきありがとうございました。

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