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再会(ミドルン)

 続いて行われたFブロックは若手が躍進するブロックとなった。


「俺が金獅子傭兵団、新団長の”若獅子”アルバートだ!」


 アルバートが威勢よくまくしたてながら会場の中央で奮戦する。


「おお、あれが金獅子傭兵団か!」


 かつて最強の傭兵団と言われていた金獅子傭兵団の名は一般人の間でも有名だ。アルバートの派手な戦い方も相まって、客席からはアルバートを応援する声が飛んでいた。


 一方、あまり目立っていないが黙々と相手を倒している若い騎士もいる。”赤狼”グリフィス・グレーバーン、旧北部連合のヨーク守備隊に所属からダルフェニア軍に降り、現在は第一師団の副団長的立場にある。


 ダルフェニア軍には癖の強い人材が多い。軍隊組織には彼のような実直な人間が必要だった。その生真面目な性格もあり部下からの信頼も厚く、将来の軍を背負って立つ人材として期待されている。


 性格は両極端な二人は順当にFブロックを勝ち進んだ。






 続くGブロックでは……


「俺が”薪割り”マック様だ!」


 威勢よく暴れる体格の良い参加者がいた。”薪割り”マック、グリフィスと同じく旧北部連合でヨークの守備隊に属していた男だ。腕っぷしには自信があり、アピールのためにひときわ大声を張り上げていた。


 しかし……


「ぐぇっ!?」


 一つの影が風のように接近し、マックはカエルのような声を上げて崩れ落ちた。


「うぉ……サムライか……!」


 周囲にいた参加者たちが波が引くように後ずさる。倒れたマックの傍らに立っていたのは帝国十剣聖の一人、ミフネだった。


「他愛ない……」


 白目をむいて倒れているマックを見下ろし、ミフネが呟く。


「それにしても、わざわざ刀が用意されているとは……」


 ミフネは手にした武器に目をやった。一般的な長剣に似ているが、刃は片方のみにしかついておらず、少し反りがある。いわゆる日本の刀を模した木刀であった。


 アデルは多くの種類の武器を試合用に用意させていたが、その中には木刀も含まれていた。


「アヤメ用に用意したのか? せいぜい利用させてもらうとしよう」


 ミフネはニヤリと笑みを浮かべた。


 一般的に戦争で兵士たちは鎧を着て防御力を高める。鉄製の鎧を着た相手には斬撃ではあまりダメージを与えられない。そのため剣の刃は鋭過ぎてはならない。打撃と斬撃の両方を兼ね備えた剣で、文字通り「叩き斬る」のが一般的な戦い方だ。


 一方で刀は斬撃に特化した武器だ。もちろん突くこともできるが、触れただけで相手を切り裂く鋭さが売りである。


 一般的な剣で戦う場合、鎧を着た相手への攻撃を想定するため、必然的に剣の重量にありったけの力を込めた大振りな攻撃が多い。一方で刀を使う場合は鋭く素早い一撃を放つことが多い。


 相手に武器を当てられたら失格のこの剣技大会のルールでは、圧倒的に刀を使うサムライの戦い方が有利だった。


「だが少し軽すぎるな……アヤメと戦う前に慣れておくか」


 ミフネは何度か木刀を素振りすると、参加者が密集しているところへと突っ込んでいった。


「あれがサムライか……恐ろしいな」


 そんな様子を遠くから冷静に眺めている参加者がいた。”蟷螂”マティス、コヨーテ傭兵団の団長だ。現在はフレデリカが指揮する傭兵師団に属している。


「あれとは刃を交えずに済まそう……」


 マティスはそう呟くと存在感を消し、したたかに戦い続けた。


 こうして最後まで残り続けたミフネとマティスがトーナメントへと勝ち進んだのだった。






 そして最後のHブロック。良くも悪くも注目を集める参加者が、満を持して登場した。


「あれがカザラス軍の将軍か……」


「さっさと負けちまえ!」


 その参加者に客席から野次が飛ぶ。しかしその参加者は涼しい顔で客席に視線を向けるだけだった。


「やれやれ、田舎の猿共が……そのうち国もろとも滅ぼしてやらんとな」


 いかにも貴公子といった端正な顔の眉を少し曲げ、その参加者――フォルゼナッハが呟いた。


「覚悟しろよ、カザラス兵め」


「ムカつく顔だな。ボコボコにしてやろうぜ」


 フォルゼナッハの周囲では物騒なことを言いながら他の参加者が舌なめずりをしていた。どうやらフォルゼナッハを標的と定めているらしい。参加者にはダルフェニア兵も多く、カザラス帝国からの参加者は標的にされやすかった。


「ちっ、雑魚どもめ……返り討ちにしたいところだが、数が多すぎるな……」


 フォルゼナッハが周囲の参加者を睨む。


 その時、フォルゼナッハは見知った顔を発見した。


「おお、エラニアではないか!」


 顔を輝かせながらフォルゼナッハが一人の参加者に話しかけた。むさくるしい男たちが多い中、ひときわ目立つ一人の美女。それはラングール共和国公爵家のイルヴァの部下、エラニアだった。


「フォルゼナッハ様」


 エラニアも笑みを浮かべ、フォルゼナッハに近づく。


「いいところに来た。私に手を貸せ。勝ち進んだ暁には褒美を取らせよう。もちろんお前が望むなら愛人にしてやるぞ」


 フォルゼナッハは開いている手を伸ばし、エラニアの頬に触れた。その瞬間、エラニアの体がビクッと反応する。


「……もちろんです、フォルゼナッハ様。このエラニア、微力ながらフォルゼナッハ様のために力を捧げます」


 エラニアは一歩後ずさり、優雅にお辞儀をする。


「それでは試合開始!」


 そしてHブロックの試合開始を告げる銅鑼が鳴り響いたのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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