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墓場

 さらに進むと、アデルたちは一帯に草木のほとんどない場所に出た。岩に生えたコケが唯一の緑で、それ以外は灰色のゴツゴツと岩ばかりに見える。しかしアデルは何かの気配――複数の巨大な気配を捉えていた。


「また何かいます……今度はやばそうなやつ」


 ここに来るまでに巨大ウニのタンブルウニード、あばら屋に擬態したミミック、ストローのようになっている口を獲物の頭に刺して中身を食べる吸脳コウモリなど、さすがバーランド山脈と思わせるような魔物たちを倒しながらアデルたちは進んでいる。しかし軍の侵攻を止めるほどの力を持った魔物にはまだ遭遇していなかった。いまアデルが察知している相手は、これまでの魔物とは比べ物にならない気配を放っている。


 よく見るとそこら中に鎧と思われる物や槍の穂先が転がっているのがわかった。風化して錆びたりコケが生えたりしていて一見気づきにくい。しかも鎧だったと思われるものはひしゃげて原形をとどめていないものがほとんどだ。


(槍が穂先しかないのは、持ち手の木の部分が腐ってしまったのだろうか……)


 アデルは足元に転がっていた鉄製の槍の穂先を見て違和感を感じていた。


「そうか、この辺にはやつらがいたのう……」


 ピーコは何かに気づいたように呟いた。


「何かご存じなんですか?」


 アデルがピーコに尋ねようとしたとき、ポチがイルアーナの肩から降りてトコトコと前方に進んでいった。


「あっ、ポチ、あぶな……」


「きゅー!」


 ポチが大きな声で鳴く。それに応じるかのように大地が振動する。


「な、なんだ?」


 イルアーナが辺りを警戒する。アデルはイルアーナを背中でかばい、自身も剣を構えた。


 そんなアデルたちの目の前で、地面が伸び上がった。


 数か所の地面で同じことが起こっている。地面の一部が触手のように宙に伸び上がっていた。その触手の先端には目と口がついていた。さらに振動が大きくなり、あちらこちらで岩が浮き上がった……いや、岩ではない。


(か、かめ……!?)


 その姿は亀に近かった。岩にソックリな見た目の甲羅から、首と手足と尻尾が突き出ている。首はキリンのように長く、ワニガメに似た顔がその先についている。手足の長さも普通の亀の倍くらいはある。尻尾も首ほどではないが長さがあった。頭部を含めた首と、胴体がそれぞれ5m、尻尾が4mといったところか。


「アァース……」


 その亀たちが低い声で唸る。全部で8匹ほどが首を伸ばしてアデルたちの方を見ていた。


「こやつらはアースドラゴンじゃ。草食だから安心しろ」


「でも、人間の装備が転がってるのは……?」


「こやつらは勝手に縄張りに入った者は容赦しない。アースドラゴンに気付かずに足を踏み入れてしまったのじゃろうな」


 ピーコの説明を聞いてアデルとイルアーナは警戒を緩める。


(でも縄張りに入って欲しくないなら、岩に擬態なんかしなければいいのに……)


 アデルはバーランド山脈に入ると『山に殺される』という噂を思い出した。その原因は目の前にいるアースドラゴンたちであるらしい。


「でも草食なんですよね? この辺、木も草もほとんどないみたいですけど……」


「こやつらが食べ尽くしてしまったのじゃ。じゃから今も相当腹が減っておるようじゃ」


 実は槍の穂先だけしか落ちていないのも、木製の持ち手部分をアースドラゴンが食べたからである。


「えっ? だったら草の生えているところに行けばいいのでは……」


「前も言ったじゃろう。竜族はズボラなのじゃ。『動くくらいなら飢え死にした方がマシ』と言う者までおる」


「意志が強いのか弱いのかわからないですね……」


「人間にとっては幸いじゃろう。竜族がズボラではなかったら、世界は竜族に支配されているじゃろうからな」


(もしかして……擬態してるわけじゃなくて、動かな過ぎて岩っぽくなっちゃったのか……?)


 アデルはコケだらけのアースドラゴンたちを見て思った。


「あの……良かったら、草とか枝とか集めてきましょうか?」


「それは喜ぶかもしれないのぅ」


 ピーコはアデルの言葉を伝えるために、羽ばたいてアースドラゴンたちの近くまで飛んだ。


「ピーピー」


 本来のピーコはこう鳴くようだ。


「アァース……!」


 ピーコの話を聞くとアースドラゴンたちはゆっくりとだが尻尾を振った。どうやら喜んでいるようだ。アデルとイルアーナはアースドラゴンたちの餌を集めに行くことになった。




 2時間ほどして、アデルとイルアーナは枝や草を抱えて戻ってきた。ポチとピーコはアースドラゴンたちと世間話に花を咲かせていた。竜族のこんな姿を見た者はそうそういないであろう。そもそもズボラな竜族同士が対面することが稀なのだ。


「これだけで足りるか?」


 イルアーナが抱えていた枝を下ろしながら言う。


「腹いっぱいにはならぬじゃろうが、喜んでおろう」


 アデルたちが戻ってきたのを見て近づいてきたピーコが答える。アースドラゴンたちはよだれを垂らしながら尻尾をフリフリしていた。


「どうぞー!」


 アデルとイルアーナはアースドラゴンたち前に緑の山を作った。


「アザァース……!」


 アースドラゴンは感謝の鳴き声とともに緑の山をパク付き始めた。


「あーす」


「ん?」


 アデルの足元から甲高い鳴き声が聞こえた。アデルが足元を見ると、ネズミくらいの大きさのアースドラゴンがヨチヨチと餌の山に近づくところだった。


「わー、かわいい!」


 アデルがしゃがみ込み葉っぱを差し出すと、その子アースドラゴンはパリポリとアデルの手から餌を食べる。


「こ、これは……す、素晴らしい……」


 イルアーナもそのアースドラゴンに餌をあげながら夢中で撫でだした。


「おお、こいつは愛いやつじゃの」


「きゅー」


 ピーコとポチも子アースドラゴンにスリスリしたりしている。


「ところで、ここにも地竜王さんとかいらっしゃるんですか?」


 アデルが気になったことをピーコに尋ねた。


「さあな、この辺では見たことがないのう」


「竜の王さん同士でも知らないんですね」


「当たり前じゃ。おぬしは人間の誰がどこにいるのかいちいち把握しておるのか?」


「い、言われてみれば確かに……」


 竜族同士なら知っているだろうというアデルの思い込みはアテが外れた。しかしカザラス帝国へのルートで一番危険かと思われた場所を平和的に通れたのは大きい。もう少しでガルツ要塞を迂回し終えるところまで来ていた。


「さて、そろそろ行きましょうか」


 アースドラゴンたちにはピーコを通じて縄張りを通らせてもらう話は付けていた。


「そうだな」


 イルアーナも立ち上がる。


「イルアーナさん、その子は置いていきましょうね」


 イルアーナは子アースドラゴンを抱きかかえていた。


「……どうしてもか?」


「どうしてもです」


 尻尾を振って別れを告げるアースドラゴンたちを背に、アデルたちは出発した。

お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] こいつほっとくと幼児誘拐しそうだな
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