密約(ミドルン)
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Aブロックの戦いが終わり、観客からプニャタに惜しみない声援と拍手が送られる。プニャタは手斧を打ち鳴らしてその声援にこたえた。
相変わらずオークに恐怖を抱く人々は多いが、プニャタがダルフェニア軍の将として大活躍していることは人々にも伝わっている。その凄まじい奮戦ぶりを見た観客は噂に聞いたプニャタの活躍が本物だと理解した。
そして意気揚々とプニャタが引き上げ、その脇で申し訳なさそうにギースが一緒に控室へと戻っていく。
「続いて予選Bブロックの試合を行います!」
フォスターが宣言すると、再び観客のボルテージが上がった。ラーゲンハルトがこのテンションが最後まで続くのか心配になるほどだ。内容もさることながら、やはり剣技大会を初めて見るものが多い神竜王国ダルフェニアにおいては刺激的な娯楽となっているようだ。
入場口から続々とBブロックの選手が入場する。そして試合開始を告げる銅鑼が打ち鳴らされた。
「おい、このカザラス兵からやっちまおうぜ!」
「そうだな」
数名のダルフェニア兵が一人の参加者に目をつけた。細身のその参加者はとても強そうには思えない見た目をしている。
「やれやれ、数の暴力ですか……まあ文句を言える立場ではありませんな」
不敵な笑みを浮かべながらその男、カスタムが呟く。
「うりゃっ!」
ダルフェニア兵たちがカスタムに向かって武器を振り下ろす。しかしそれをジャンプでかわしたカスタムはダルフェニア兵の肩に手をつくとその背後へと華麗な宙返りを見せて着地した。
「な、なんだ!?」
ダルフェニア兵たちに動揺が走る。そしてカスタムの持った剣が一閃すると、ダルフェニア兵たちの体に塗料が付着した。
「おい、今の見たか?」
「まるで曲芸みたいだ!」
カスタムの独特な戦い方に観客も沸き立つ。その後もカスタムは次々と他の参加者を倒していった。
「オラッ!」
「ぐふっ!」
一方、離れた場所では参加者の一人が腹に強烈な槍の一撃をもらい、悶絶していた。
「くそ、あの野郎……おかげで俺が全然目立たねぇじゃねえか」
息を荒げながらリオがボヤく。カスタムの活躍を見て敵わないと判断した参加者たちが段々とリオのいる方へ移動し、その周囲は激戦区となっていた。
「あいつはダグラムで戦ったやつだよな……」
リオはカスタムを睨むと、混戦から抜け出して人の少なくなったカスタムのほうへと向かった。
「おい、痩せ男!」
リオは槍を肩に担ぎ、カスタムに声をかける。
「おや、お前はどこかで……」
「俺様は”黒槍”リオ! アデル王の重臣の一人だ!」
「アデル王の……お前が……?」
カスタムはいまいち納得していない様子で眉をひそめた。
「なんだよ、その目は! ダグラムで俺様に負けたくせによ!」
「あの時のあいつか……あれはお前に負けたわけではない。魔物の邪悪な力によるものだ!」
リオの物言いに心外そうにカスタムが顔を歪める。
「ふん、言い訳とは見苦しいな。だったら正々堂々決着をつけようぜ」
リオは槍の柄でトントンと地面を叩いた。
「ほう、この場で決着をつけたいと申すか? 望むところだ」
カスタムが余裕の笑みを浮かべ剣を構える。
しかしリオは首を横に振った。
「いや……決勝の場でだ!」
「は?」
自信満々に胸を張るリオにカスタムはポカンとした表情になった。
「『は?』じゃねえよ。俺たち二人が予選を勝ち抜けば、決勝でタイマンになるだろ? みんなが見てる前で正々堂々と決着をつけようじゃねえか」
「……別にこの場で決着をつければいいだろう」
「ふざけんじゃねぇ! 俺はさっき強敵と戦って消耗してんだ。そんな状態で勝って嬉しいか? まあ別に自分が卑怯者だって証明したいならやればいいさ。ほら、勝ちを譲ってやるよ」
リオはそう言いながら手を広げて抵抗する意思がないことを示す。カスタムはそんなリオに戸惑った様子で眉間にしわを寄せていた。
「お前を倒したところで私の名誉にはならぬが……それにお前がトーナメントを勝ち残れるようには思えぬ」
「ゴチャゴチャうるせぇなぁ! だったら決勝まで残れなかった時点でそいつの負けでいいだろ? 男の勝負を受け入れられねえなら、卑怯な手段で俺を倒せばいいさ。みんなの見ている前でな!」
リオに言われ、カスタムは観客席に目をやる。そこには厳かな表情で試合会場を見つめるアデルの姿があった。実際はアデルは恐怖で顔を引きつらせているだけなのだが、カスタムにはそのように見えたのだ。
「……ひとつ条件がある」
「あ?」
カスタムの言葉に今度はリオがポカンとした表情になった。
「お前の話に乗ってやろう。だがその代わりに、結果がどうであれアデル王と個人的に謁見させて欲しい。お前は重臣なのだろう?」
「なんだ、そんなことかよ。いいぜ、アデルとはマブダチだからよ!」
リオはカスタムに満面の笑顔を見せた。
「では契約成立だ」
「ああ。残った参加者を一緒に倒すぞ。ヘマして負けるんじゃねえぞ」
そう言うと二人は肩を並べ、他の参加者へと視線を向けた。
(へへ、うまく行ったぜ……)
リオは心の中でほくそ笑む。
そして残りの参加者のほとんどをカスタムが倒し、リオとカスタムが本戦へと駒を進めたのであった。
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