ハーピーへの報告
サイクロプスを倒したアデルたちはハーピーの巣へと戻るところであった。相変わらずピーコはイルアーナの肩に止まっている。
「おぬしらといたほうが面白そうじゃ」
ということらしい。ワイバーンとは風魔法でやりとりが出来るそうで、サイクロプスを倒したこともすでにワイバーンたちには伝わっていた。
「ところでポチは何で僕のところに来たの?」
アデルは気になって、肩でのぺーっとしているポチに尋ねた。
「きゅー」
「面白そうな生き物がいたから見に行っただけだそうじゃ」
ポチの答えをピーコが通訳する。
(「面白そうな生き物」って……まあ確かにあの森じゃあ、人間は珍しかったんだろうけど)
アデルは若干、傷ついた。
「そのあともずっと付いてきてくれるのは?」
「きゅー」
「気になったし、食事をくれるからだそうじゃ」
「ポチにはピーコさんのワイバーンみたいに一族みたいのはいないの?」
「きゅー」
「フェンリルがいるそうじゃ」
「フェンリルがポチの眷属なのか」
話を聞いていたイルアーナが少し驚いて言った。
「彼らをおいて森を出て良かったの?」
「きゅー」
「フェンリルたちは『ゴロゴロするな』とか『狩りに行け』とかうるさいから嫌いだそうじゃ」
(……お母さんみたいだな)
話を聞いてアデルは思った。
「というか、なぜ我がおぬしの通訳をせんといかんのじゃ!」
ピーコがポチに怒鳴った。ポチは「ハイハイ」といった感じで尻尾を2、3回振っただけだった。
ひさびさに戻ってきたハーピーの巣はやはり良い匂いがした。ワイバーンやサイクロプスの巣とは雲泥の差だ。巣の外にいたポニーテールのハーピーがアデルたちに気づくと、巣の奥に入って行く。すぐにカラとシャスティアがアデルたちを出迎えた。
「まあ! ご無事でしたのね。とても心配しておりました……」
すぐさまシャスティアがアデルに体をすり寄せる。一瞬でアデルの鼻の下が伸びた。
「あ、ありがとうございます」
「お疲れでしょう? 奥で『ぱふぱふ』でもいたしますね」
「えっ、『ぱふぱふ』!? い、いったいどんなことをしてもらえるんですか!?」
「そんなことを女の口から言わせるなんて……イジワルですわ」
シャスティアは恥ずかしそうに顔をそむける。
(つ、ついに全世界の男性ゲーマーの謎が解き明かされる時が……!)
アデルの心が使命感で燃え上がった。
「悪いが先を急ぐ。そうだな、アデル?」
しかしシャスティアに促されるまま巣の中に入って行きそうなアデルの服を、イルアーナが引っ張った。
「ま、待ってください、イルアーナさん! もう少しで勇者のドラゴンがクエストを……!」
「ア・デ・ル?」
抵抗するアデルにイルアーナが低い声で問いかける。アデルの生存本能がこれは逆らってはいけないやつだと告げた。
「……シャスティアさん、もうしわけありませんが『ぱふぱふ』はまた今度に……」
アデルは心で泣きながら戦略的撤退をせざるを得なかった。
「あら、残念ですわ」
シャスティアが表情を曇らせた。
「それで、ワイバーン退治はどうなったんだい?」
カラがアデルに問いかける。
「ああ、ええっと、ちょっと話が複雑なんですが……ワイバーンは倒せなかったんですけど、風竜王さんと交渉して、ハーピーを襲わない約束を取り付けました」
「風竜王と? なんか胡散臭いねぇ」
カラはいまいち信用していないようだ。
「間違いないぞ。我自身が言うのじゃから間違いない」
ピーコがカラに言った。
「……なんだい、そのしゃべる鳥は」
「鳥とはなんじゃ、無礼な!」
ピーコが翼をパタパタさせて怒る。
「少し待っておれ、後悔させてやる!」
そう言うとピーコが高い声で鳴いた。ほどなくして空を震わせながらワイバーンが現れた。
「どうじゃ、ひれ伏すがいい」
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