閑話 「ひょーちゃんなの」
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氷竜王がアデルたちの元にやってきたころ、ピーコが人間の町を見せるために氷竜王をクッキーの買い出しに連れて行っていた。
「いらっしゃ……ああ、これはこれはピーコ様」
ミドルンで営業しているクッキー屋。店主がピーコを見て微笑む。以前、ピーコにクッキーをボッタクリ価格で売りつけていたことがばれ、それ以降無料でピーコにクッキーを提供していた。アデルからその正体を聞き恐れおののいていたものの、慣れてしまえばかわいらしい少女だ。店主も心を入れ替え、ピーコが来るのを楽しみにしていた。自分の作ったクッキーを国の象徴である神竜が食べてくれるというのは彼にとって喜びでもある。
「クッキーを10枚頼むぞ」
「はい、承知しました……おや?」
店主が何かに気づく。ピーコの横には見慣れぬ少女が立っていた。
「ひょーちゃんなの!」
その少女、氷竜王は元気よく自己紹介をした。
「はは、かわいい子だね。クッキー食べるかい?」
「わーいなの!」
店主が差し出したクッキーを氷竜王が笑顔で受け取る。
「我にはくれんのか? ピーコじゃぞ」
「ははっ、一枚追加で入れておきますね!」
店主はピーコに渡す包みに1枚クッキーを足す。
ピーコたちは笑顔でクッキー店を後にした。
「おいひいなの!」
「ふふ、そうじゃろ」
大きめのクッキー一枚を一口で頬張る氷竜王にピーコがドヤ顔で言う。
二人は帰るためにミドルン城へと向かった。
「あらあら、かわいいお嬢さんたちね」
二人が道を歩いていると、一人の老女が微笑みながら話しかけてきた。
「ひょーちゃんなの!」
「あら、お名前もかわいらしいわね。ちょっと待っててね、ブドウをあげるわ」
自己紹介をする氷竜王に相好を崩しながら老女が言う。
「我にはくれぬのか? ピーコじゃぞ」
「ふふ、お姉ちゃんのほうはおませさんなのね。はいはい、あなたの分も持って来ましょうね」
そして二人は老女から小ぶりなブドウを二房もらい、再びミドルン城へと歩き出す。
「ひゅっぴゃいなの!」
丸ごと一房を口に放り込んだ氷竜王が言う。口の端からはブドウの果汁があふれ出ていた。
「……もしかして人間は、名乗ると何かくれる生き物なのか?」
ピーコは眉をひそめて考え込む。そうこうしているうちに二人はミドルン城へと帰ってきた。
「あ、お帰り」
そんな二人の前にちょうど廊下を歩いていたアデルが現れた。
「我はピーコじゃぞ」
不敵な笑みを浮かべながらピーコがアデルに言う。
「へ? それがどうかしたの?」
しかしピーコに名乗られたアデルはただ困惑した表情を浮かべただけだった。
「お前はケチじゃな。クッキーはやらん」
「え? え?」
不機嫌になったピーコに、アデルはひたすら困惑するしかなかった。
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