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成り行き英雄建国記 ~辺境から成り上がる異種族国家~  作者: てぬてぬ丸
第十章 急報の章

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内通者(ヌーラン平原)

誤字報告ありがとうございました。

 戦いが終わりアデルたちが話していると、他の三公爵たちもアデルたちの元に集まってきた。


「やれやれ。アデル殿のご助力もあり、なんとか役目を果たせたな」


 敵を撃退できた陸軍のストールが笑顔で言う。


「神竜の力はまさに規格外。よくあんなものを扱えますね」


 司法を司るシグルドがレイコを見ながら言った。


「呑気なものだ。ダルフェニアはあの力を使ってこの国を征服するつもりかもしれぬぞ」


 行政を司るラグナルが鋭い視線をアデルたちに向けていた。


「あっ、みなさん。ご報告があります。敵将のリグワードさんを討ち取ったのは、こちらのエニーデさんです!」


 アデルがエニーデを指しながら公爵たちに向かって言う。緊張のせいか、セリフの棒読みのようになってしまっていた。


「で、でも……あのようなことで、敵将を討ったとは……」


 後ろめたさと恥ずかしさでエニーデはもじもじしていた。


「そんなことないよ! ちゃんと敵将を倒したんだよ!」


 クロディーヌがエニーデを後押しするように言った。


「ふん。とてもそうとは思えぬな。それに今回の戦いは陸軍の管轄。全ての功は吾輩のものとなるのが道理ではないか?」


 ストールがエニーデを侮蔑するように言う。


「お待ちください。客人たちの前で醜い争いは慎みましょう。それよりも大事な話がございます」


 その話にイルヴァが毅然とした態度で割って入った。


「なんだ、売女が出しゃばりおって!」


 ストールがイルヴァを睨みつける。そんなストールをイルヴァは冷たく見返した。そして厳しい口調でこう言った。


「ではこう言わせていただきましょう。恥を知りなさい、ストール殿!」


「な、なんだと!? 誰に向かって口をきいている!」


 ストールは一瞬、狼狽したがすぐに烈火のごとく怒り出す。


「あなたの傍若無人な振る舞いにも我慢してまいりましたが、それもここまでです。これだけ無様な姿を晒して、よくそんな態度でいられますね」


「な、なにを……!?」


「シャーリンゲル家はいままでずっとラングールをカザラス軍の手から守ってきました。こんな幼いエニーデ殿までその職務を全うしようと努力しています。ところがあなたは他国の手まで借りなければ、ただの一度ですらカザラス軍を退けられない。これを機にフロズガル家の役割を見直すべきではありませんか」


 イルヴァは周囲を見回しながら言った。賛同するように頷く者も多い。


「ふ、ふざけるな! 海軍と陸軍では違う! カザラスの陸軍に敵うわけがないだろう!」


 ストールは顔を真っ赤にして反論する。


「敵うわけがない? いざというときに役に立たない陸軍に、どうしてずっと大きな権力を持たせないといけないのですか? それにダルフェニア軍もヴィーケン軍もずっとカザラス軍を撃退しております。私財を投げうってでも陸軍を強化するなり要塞を築くなりするべきだったでしょう。シャーリンゲル家が命がけで国を守っている間、あなたは何をしていたのですか!」


「なっ……!?」


 まくしたてるイルヴァに反論できず、ストールはただ口をパクパクさせているだけだった。エニーデや水軍兵はイルヴァの話を聞き、目に涙を浮かべている。


「……確かに、根本的に対応を変えなければならぬかもしれぬのう」


 話を聞いていたカーネルが呟く。最年長であり、最も格式が高いとされるフォーステット家の意見は影響力が強い。カーネルの言葉にストールは愕然とした。


「待った、騙されてはいかん!」


 その論争にラグナルが加わってきた。行政を司るノルドヴァル家はフォーステット家の次に影響力が強い。


「その女の口先に騙されてはならぬ。ラングールの伝統を変えるなどもってのほかだ! どうせこの機に乗じて、自身の権力を高めようと考えているのだろう。卑しい売女の考えそうなことだ!」


 ラグナルがストールに加勢する。しかしイルヴァはまったく動じなかった。


「自身の権力のことを考えているのはあなたのほうでは? そしてラングールの伝統を変えるどころか、壊して滅ぼそうとしているではありませんか?」


「これだけ大勢の前で侮辱するか? 奴隷上がりが舐めた口を……ただでは済まさんぞ」


 ラグナルが低い声で威嚇する。


「それはこちらのセリフです……エラニア!」


 イルヴァが後ろを向き、声をかける。すると日に焼けた美女――エラニアが一人の男を連れてきた。男は縄で腕を縛られており、ガタガタと震えていた。


「お、お前……!」


 その男を見たラグナルの顔色が急変する。怒りで赤くなっていた顔が血の気が引いて青くなった。


「よくご存じのはずですね? あなたの側近の一人です」


 イルヴァが冷静に話す。表情は大きく変わってはいないが、心なしか勝ち誇った様子が感じられた。


「不思議なことに、戦いが始まる前にカザラス軍の陣地からコソコソとやってくるところを私の部下が捕らえました」


「なんだと!?」


 カーネルをはじめ、周囲にいた者たちが驚愕する。


「馬鹿な、言いがかりだ!」


 動揺を抑え、ラグナルが叫ぶ。周囲の者もいまいち信じられないといった様子で互いに顔を見合わせていた。


「このお話……実はアデル様からお聞かせいただいたものなのです」


「アデル様から?」


 皆の視線がアデルに集まる。イルヴァらの口論に入れずオロオロしていたアデルは、急に話を振られ硬直した。


「あ、あ、あ、あ、あの、その、そうですね、ラグナルさんが、その、カザラス側に通じてるって話は、僕らのほうで、小耳に挟んだというか……」


 アデルがしどろもどろになりながら話すと、イルヴァは大きくうなずいた。


「アデル様からお話を聞き、私も半信半疑でした。しかし部下に周囲を見張らせていたところ、本当に敵陣からラグナル殿の側近がいらしたのです」


「でたらめだ! そんなことあるわけなかろう!」


 イルヴァの言葉をラグナルは大声で否定する。


「……いえ、そうとも言えないでしょう」


 その時、黙って話を聞いていたシグルドが口を開いた。司法を司る彼はこういった争いの場を取りまとめる役割もある。


「な、何を言う、シグルド殿! この女の戯言に惑わされるな!」


 ラグナルがすがる様にシグルドに言う。しかしシグルドは首を振った。


「私もあなたには違和感を感じていたのです。あなたは頑なにダルフェニアの援軍に反対をした。カーネル殿が伝統に固執するのは理解できますが、なぜあなたがそこまで猛反対するのか不思議でした。しかし裏でカザラス軍と通じていたのであれば辻褄が合います」


「まさか……公爵の私よりも奴隷と他国の者の話のほうを信じるというのか!」


「ダルフェニア軍の優秀さはすでに証明されています。我々が知りえない情報を得ていたとしても不思議ではない」


 シグルドの言葉で周囲の者たちも納得したようだった。


 しかし……


「……ただ、あくまでも『納得はできる』というだけです。側近を捕まえたというだけでは、確かにラグナル殿という通り捏造の可能性もあります」


 シグルドは冷静に言葉を続けた。その言葉にラグナルの顔が輝く。


「そ、そうだろう?」


「何か物証となりえるものがあればよいのですが……」


 シグルドがイルヴァに目をやった。イルヴァは悔し気に眉をひそめ、小さく首を振る。


「見ろ、何も証拠などない! 全ては言いがかりだ!」


 シグルドが一転して勝ち誇ったように周囲を見回す。


 そんな中、周囲の人垣の中からイルアーナが一歩進み出た。


「その男の体を調べろ」


「は?」


 イルアーナの突然の言葉にシグルドが固まる。


「その男の想定ではラングール軍がカザラス軍に惨敗する予定だったのだろう? だとすればその男がもしカザラス兵に捕まっても問題ないように、何か立場や事情を証明するようなものを持っているはずだ。まさか口約束だけでカザラス軍と通じていたわけではあるまい」


「なっ!?」


 イルアーナの言葉にシグルドは懐を押さえ後ずさる。


「もらうよ」


 そこにシグルドの後ろからそっと近づいたフレデリカの手が伸びた。


「あっ!」


 シグルドが抵抗する間もなく、懐から一通の手紙が取り出される。


「か、返せ……ぐっ!?」


「どれどれ」


 取り返そうとするシグルドの腹に肘を叩きこみ、フレデリカは手紙に目を通した。


「ふぅん。この者のカザラス帝国内での地位を保証するってさ。第二征伐軍軍団長フォルゼナッハの署名付きだ」


 フレデリカは手紙をひらひらと周囲に見せびらかすように振る。その足元ではシグルドが腹を押さえ悶絶していたのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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