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黒き影

 部屋は薄暗い。様々な魔道具が放つ青白い光だけが室内を照らしていた。ときおりその光の中に室内を行き来するローブの人々が浮かび上がる。部屋の中央には水晶のようなものでできた薄い板が置かれており、魔法で様々な情報が表示されているようだった。


「消えた『卵』の中身の情報は?」


 その水晶の板の前に立つローブの男が呟く。他の人々のローブと違い、そのローブには豪奢な装飾が施されている。


「いまだ行方はわかっておりません」


 豪奢なローブの人物の傍らで膝まづく人物が答える。


「消えた『器』か……計画の妨げにならなければいいが」


 豪奢なローブの男は独り言のようにつぶやいた。




 アデルたちはバーランド山脈のさらに奥深くへと進んでいた。アデルの後ろにはイルアーナが続き、アデルの左肩には元の姿に戻った布団干し状態のポチが、右肩には風竜王が止まっている。風竜王はポチよりも大きく見えるが、空気を多く含んだ羽毛で覆われているためで、ほとんど気にならないほど軽い。


「風竜王さんも一緒に来るんですね……」


「礼はいいぞ。何といっても友達じゃからな」


 風竜王もなんだかんだで友達を気に入ったのか、サイクロプス退治に同行することになったのだ。もちろんサイクロプスを倒したことを確認するという目的もあるのだが。


「風竜王さんたちは……人間を恨んではいないんですか?」


「なぜじゃ?」


「その昔、戦ったんですよね?」


 アデルは竜の王たちと古代魔法文明の人間たちが戦ったことが気になっていた。


「そうじゃ。人間がだいぶ調子に乗っておったからお灸をすえてやろうかと思ったのじゃがの。逆にやられてしまったのじゃ。我ながら情けない……」


 風竜王は首を振った。


「それなら人間を憎いと思ったりはしないんですか?」


「弱いものが強いものに狩られるのは自然の摂理。もちろん、次は負けんぞ」


 風竜王は翼をパタパタしながら言った。


(器が大きいのか、不滅なだけあってゲーム感覚なのか……)


 アデルは風竜王に右頬を翼でファサファサされながら思った。


「それよりも我にも名前とやらを付けるがよい。『風竜王』というのは称号じゃからな。まあ、そう呼ばれるのは我だけゆえ、不都合はないのじゃが……」


「な、名前?」


 いきなり難題を出されてアデルは考え込む。


「ちなみに風竜王さんはオスですか? メスですか?」


「……考えたこともなかったな。強いて言うなら、卵を生むし、メスなのかのう」


「そうなんですね……じゃあ……ピーコとか」


 アデルにはネーミングセンスがなかった。


「ピーコ? その名にはどんな意味があるのじゃ?」


「意味は無いんですけど……鳥類を代表する名前と言えばピーコなんです」


「ふむ……まあ良いであろう。では我が名はピーコとする」


 こうしてアデルは両肩に竜の王、ポチとピーコをのせて旅をすることになった。 


「ピーコ、サイクロプスに言語能力はあるのか?」


 イルアーナが両肩にモフモフを乗せているアデルをうらやましそうに見ながら尋ねた。


「猿並みの知能はあるが会話は出来ん」


「そうか。またアデルの友達が増えることはないようだな」


「油断するな。奴はかなり悪知恵は働くぞ」


「サイクロプスは前からこの辺に?」


 アデルがピーコに尋ねる。


「いや、東にケンタウロスの群れが住んでいて、さらにその向こう側におったはずじゃがな。ケンタウロスを食いつくしたのかもしれん」


 ケンタウロスがどれほどの強さなのかアデルにはわからなかったが、サイクロプスが手強い相手なことは間違いないようだ。


 しばらく歩くと、アデルは山影になにか気配を感じて歩みを止めた。


「ちょっと待ってください……なにやらヤバイ気配が……サイクロプスかもしれません」


 アデルたちは警戒しながら進んでいく。気配の主に近づくと、岩陰に身をひそめ、頭を出して様子を伺った。


「なっ……!?」


 アデルはそこにいたものを見て驚愕した。


 そこにはラスボスがいた。アデルがRPGや漫画でよく見た、ラスボスの雰囲気を漂わせるいかにもなドラゴンだ。とにかく大きい。ワイバーンの三倍はあった。体は漆黒の鱗で覆われ、背中には蝙蝠のような羽が生えている。瞳だけが赤く光り、アデルたちを見下ろしていた。後ろ足で立ち上がり、翼を広げたその姿はまるで黒い壁だ。


「なんじゃ、デスドラゴンか。こんなところまで来おって……」


「デ、デスドラゴン……!?」


 アデルは恐怖に体を強張らせる。そんなアデルをデスドラゴンの鋭い目が睨んだ。


(ひ、ひぃっ! 殺される……)


 しかし怯えるアデルをよそに、ピーコはパタパタと飛び上がり、デスドラゴンの顔の周りを飛び回った。


「こりゃ! この辺は我の縄張りと知っておろう! さっさと他へ行け!」


 デスドラゴンは煩わしそうに視線だけピーコに向けた。


「まったく、困ったやつじゃ」


 しばらくすると怒り疲れたピーコが戻ってきた。


「あの……デスドラゴンって……?」


 アデルはまだデスドラゴンに震えながらピーコに聞く。


「我らと同じ竜の王の一角じゃ」


「でも大きさが全然違いますけど……」


「こやつは極度のズボラなのじゃからの。声はかけたが、人間との戦いに参戦しなかったのじゃ」


「ズ、ズボラ……?」


「まあ竜族全般に言えることじゃがな。我ら飛竜族が特殊なのじゃ」


 ピーコはポチを横目で見ながら言った。


「こやつは竜族の中でも特にズボラで、普段はこうして太陽の光とマナだけで空腹を満たしておる。雨や曇りが続いた時だけ狩りをするのじゃが、こいつには縄張りや住処などなく、獲物を狩った先でまた寝起きする。そして獲物を追っていつのまにかここまで来てしまったようじゃ」


(「太陽の光」って光合成……? なるほど、立ち上がって翼を広げてるのは威嚇じゃなくて、太陽の光がたくさん当たるようにしてるのか……)


 そう聞くとアデルには、立ち上がったデスドラゴンが少し可愛く見えた。


「ということは、太陽が出てる間は襲われないんですね?」


「まあ出ていなくても、人間には手を出さんだろうな」


「どうして?」


「相手にすると面倒じゃろ? こいつがズボラじゃなかったら人間は滅びていたかもしれんぞ」


「な、なるほど……」


「さあ、先を急ぐぞ」


 ピーコに促がされ、アデルたちはデスドラゴンの足元をサイクロプスへの巣へと進んでいく。


 しかしデスドラゴンはまだアデルを睨んでおり、アデルは生きた心地がしなかった。


「きゅー」


 ポチが去り際にデスドラゴンに向けて一声鳴く。


「デ……ス……」


 デスドラゴンは鼻を鳴らしてそれに応えると、アデルたちから視線を外した。


お読みいただきありがとうございました。

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