表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
成り行き英雄建国記 ~辺境から成り上がる異種族国家~  作者: てぬてぬ丸
第十章 急報の章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

388/853

坑道(イルスデン バーランド山脈)

誤字報告ありがとうございました。

 帝都イルスデン。”白慈宮”と呼ばれるラーベル教の大神殿の礼拝堂には巨大な像が立っている。ラーベル教の女神、ベアトリヤルの像だ。天井は高く、設けられた天窓から陽光が差し込んでいる。光のベールが像の周辺を包み、幻想的な雰囲気を醸し出していた。


 その像の前で大司教のマクナティアが司教のフランツから報告を受けていた。


「托卵所がまた襲われた?」


 マクナティアが不快気に眉をひそめる。


「はっ。修理した守護者ガーディアンは破壊され、警備兵は全滅です」


 フランツは頭を下げたままマクナティアへの報告を続ける。


「なぜでしょうね。二回も襲う意味があったのでしょうか?」


「今回は装備や金目の物が奪われております。盗賊の仕業という可能性も……」


「ふっ、盗賊風情に守護者ガーディアンが倒せるものですか」


 フランツの言葉をマクナティアは鼻で笑う。その目は冷たい光を湛えていた。


「確かに……ダルフェニア軍が領内に侵入していると言います。この件も彼らでしょうか?」


「可能性は高いですね。襲われたのはここ最近、ダルフェニアが動き出してからです。彼らにはダークエルフも竜王もいます」


「こちらの存在に気付いていると?」


「かもしれません。成体の竜王二体に襲われれば、今の我々の戦力ではどうにもなりません。生産を急がねばならぬというのに、あの王と馬鹿息子たちは……」


 マクナティアはため息をつき、顔を横に振った。


「方針を変える必要があるかもしれません。より過激にね。それにしてもアデル王とやら……噂通りに優秀な王なら、なんとしても排除しなければなりません。石も奪わねばなりませんしね。とにかく情報を集めてください」


「かしこまりました」


 マクナティアの声は落ち着いている。しかしフランツはそこに恐怖を感じ、緊張の面持ちで頭を深く下げた。






「へくしっ!」


 青空にアデルのくしゃみが響き渡る。


「アデルの親分、大丈夫じゃ?」


「風邪をおひきになられたのかしら。寒くなってきたのでお気をつけあそばせ」


 コカトリスの族長シャモンとハチアリ族の女王ハニーが口々に言った。


 そこはガルツ要塞の裏手、バーランド山脈に掘られたトンネルの出入り口の付近だった。周囲にはハチアリやコカトリスが集まっている。


「ああ、すいません。誰か僕の噂でもしてるのかな……それより、どうですかここ?」


 アデルはハニーに尋ねた。


「なかなかいいですわね。近くにはなにやら植物の精霊の力が満ちている場所がありますし」


「始まりの森ですね。世界樹が生えてるんですよ」


「まあ! 世界樹が? ぜひ拝見させていただきたいわ!」


 アデルが言うとハニーは驚いた。周囲のハチアリたちも興奮しているのか羽を震わせて音を立てていた。ハチアリたちは知性があり人間の会話を理解できるが、話せるのは女王であるハニーだけで他のハチアリたちは発声器官を持たなかった。そのためハチアリ同士では羽音や触覚で意思疎通をしている。


 ハチアリたちはハチとアリの特製を併せ持っている。普段はアリのように土の中に穴を掘り生活していた。強靭な顎は多少固い土でも掘り進むことができる。しかし普通のアリと違い、巨体のハチアリが集団生活を送るほどのスペースを地中に作るとなると土の強度が足りない。そこでハチアリたちはムラビットなどの土魔法が特異な種族と共存し、巣を補強してもらうことで大きな発展を遂げてきたのだった。


 またハチアリは雑食であるが、特にはちみつが大好物だ、そのため緑豊かな地に住むことを好む。植物魔法によって花を大型になるまで成長させ、大量のはちみつを採取するのだ。アデルもハニーからはちみつをお土産としてもらっていた。


「どうぞいつでも見てください。でも森と言っても今のところ畑になってるんですが……」


 アデルは苦笑いしながらハニーに言った。


 なぜアデルたちがこんなところにいるのか。それはミスリルを掘る坑道を作るためだ。ハチアリたちが穴を掘り進み、コカトリスが土魔法でトンネルを補強する計画だ。コカトリス単体でも土魔法でトンネルを作ることはできるが、全てを魔法でやるにはとんでもない労力が必要となる。


 また坑道にはガルツ要塞の抜け道として作られたトンネルがミスリルの鉱脈の近くまで通っているため、それを再利用することになっていた。それに伴いカザラス側の出入り口は完全に閉ざす予定だ。


 ミスリル鉱脈の存在は機密事項となっている。アデルへの忠誠心の高いコカトリスや、しゃべることのできないハチアリたちはこの仕事にうってつけであった。一般兵に対してもここでミスリルの採掘を行うことは秘密となっている。公にはここでの作業はハチアリの集落を作るためと発表されていた。


 ハチアリは気温の低い冬場は温かい土の中でしか活動ができなくなる。いままでは巣穴の中でじっと冬眠して冬を過ごすのが普通であった。しかし今掘ろうとしている広い坑道を巣穴としても利用することで、中だけではあるが冬場でも活動が可能となる。坑道の中には空気穴も作られ、魔法による換気がなくとも大丈夫な構造にする予定だ。


 もっともミスリルを掘っても加工できるかどうかが不明なため、しばらくは坑道内で貯蔵しておくことになる。デスドラゴンの能力でミスリル鉱脈を丸ごと収納できないかという意見も出たが、ミスリルが魔力を吸収してしまうため不可能だった。


 今回の計画にハチアリ族とともに従事する種族として、ずっと一緒にいたムラビットのUSA族ではなくコカトリスを選んだのは理由がある。ムラビットよりもコカトリスのほうが魔力が高いからだ。坑道は大規模なものとなるため、魔力の多いコカトリスのほうが向いているのだ。またコカトリスは飛行が可能なため、ミドルンとの行き来が早いという利点もある。コカトリス族は半分ほどがアデルに仕えるためにミドルンへとやってきていた。


「シャモンさんたちもよろしくお願いします」


「お任せくだじゃい! この程度の仕事、朝産卵前じゃ!」


 シャモンが翼を大きくはためかせながら言った。ちなみにコカトリスの羽は男ハーピーのフィレンツィオが「とってもゴージャスだネ!」と欲しがり、飾りとして付けていた。何枚もの大きなコカトリスの羽を付けたフィレンツィオの姿はサンバダンサーのようになっていた。


 そしてトンネルの中にコカトリスやハチアリたちが入っていく。もちろんハチアリが住む以上、坑道だけでなく住居や食糧貯蔵庫など、色々な施設がまず作られる予定た。


 アデルたちはいよいよミスリルの産出に向けて動き出したのであった。


お読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ