表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
成り行き英雄建国記 ~辺境から成り上がる異種族国家~  作者: てぬてぬ丸
第九章 再生の章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

382/853

ケルベロス

誤字報告ありがとうございました。

 ラーベル教会が管理する村を襲った蛮族たちは、塔の中から現れた謎の黒い獣を唖然と見つめていた。それ・・の持つ三つの頭、それぞれが大きく息を吸い込み、喉の奥に赤い光を宿している。黒い体は月明りを反射して光っていた。


「逃げろ!」


 ドレイクが警告する。しかしその直後、炎の奔流が放たれた。


 ケルベロスの三つの頭から放たれた炎は渦巻きながら勢いを増し、村人たちと戦っていた蛮族に襲い掛かる。


「……っ!」


 炎は十人ほどの蛮族と村人を巻き込んだ。悲鳴を上げる間もなくその体の表面が炭化する。


 炎が通り過ぎ、人型の黒い塊が地面に倒れバラバラになった。体の中心部までは火が通らなかったようで、崩れた炭の中から現れた肉や内臓がより一層、凄惨さを物語った。


 恐怖と動揺で蛮族たちが後ずさりする。ケルベロスはそれをみると一瞬体を屈め、バネのような瞬発力で跳躍した。10mほどあった距離を一跳びで詰め、蛮族たちの前にケルベロスが着地する。


「ば、化け物め!」


 恐怖のあまり一人の蛮族がケルベロスに切りかかる。しかしケルベロスが前足を一振りすると、一瞬で蛮族の体はいくつかのパーツに分かれて地面に落ちた。


「囲んで倒すぞ!」


 正面から戦うのは危険と判断したラヒドが冷静に指示を出す。ディオを含めた数人がケルベロスの側面へと移動した。そしてラヒド自身も、曲刀を構えケルベロスと向かい合う。


「馬鹿、下がれ!」


 ドレイクはラヒドを後ろに押しのけ、油断なく剣を構えた。


「ディオ。こいつが火を噴いたら、火を斬れ」


 視線はケルベロスに向けたままで、ドレイクはディオに向かって言葉をかける。


「なに?」


 ディオは眉をひそめドレイクを見た。


「こ、こいつめ!」


 蛮族の一人がナイフをケルベロスに投げつけた。ナイフが闇を切り裂き、狙いたがわずケルベロスの頭に命中する。


 しかしカキンッと金属音を立ててナイフは弾かれた。


「なっ!?」


 蛮族が唖然と地面に落ちたナイフを見る。


「こいつの皮膚は鉄でできている。お前たちの攻撃では効かん。下がれ!」


 ドレイクが再び警告を発する。


「鉄だと?」


 ディオが声を上げて驚いた。そのケルベロスの体が光を反射しているのは金属だからだ。黒く塗装され目立ちにくくはされている。関節部分などは金属鎧のように可動出来るようになっていた。


 そうしているうちに再びケルベロスの口に赤い光が宿った。三つの頭がそれぞれ別の方向を向き、自身を取り囲む蛮族たちに狙いを定める。


「くそ、火が来るぞ」


 ドレイクが舌打ちをしながらケルベロスに向かう。しかしその前にケルベロスの三つの頭から炎が噴き出された。


「うわぁっ!」


 蛮族たちから悲鳴が上がる。三つの頭の標的が分散したせいか、先ほどのように一瞬で炭化はしなかった。だが炎に包まれた蛮族は逆に長い時間苦しんで死ぬことになる。火だるまになった蛮族が地面を転げまわっていた。


「くっ!」


 炎はディオのほうにも向かって来ていた。ドレイクの言っていたことを思い出し、炎に向かって剣を振るう。


 炎はディオの振るう剣によって引き裂かれ、夜の暗闇に散って溶けた。ディオの後ろにいた蛮族たちも唖然としつつ、ほっと胸をなでおろす。


「炎が……斬れた……?」


 ディオは自身の剣を見つめながらつぶやいた。


「ミスリルの剣が魔力を吸収したのだ。ボーっとするな。さっさとこいつをやるぞ」


 ドレイクがそんなディオに声をかけつつ、ケルベロスの爪による攻撃を剣で弾いていた。ケルベロスの正面にいた蛮族たちは、いち早くドレイクが炎を斬ったおかげで全員無事だった。


「ミスリル? そんな高価な剣だったのかよ!」


 ドレイクの背後にいて難を逃れたラヒドが驚いた。確かにディオの剣は高価そうだが、そこまでの貴重品とは思いもよらなかった。一方、ドレイクの剣は刀身の輝きは段違いではあるものの、作りとしては他の剣と大差なく見える。


「死ね!」


 ドレイクと戦うケルベロスを脇からディオが狙う。しかしミスリルの剣と言えども、鉄の皮を持つ相手を簡単に倒すことはできず、浅い傷を付けるにとどまった。


「首を狙え。装甲の隙間が大きい」


 ケルベロスを見据えつつドレイクがディオに助言する。ケルベロスは自身にダメージを与えたディオを脅威として認識したのか、そちらに体を向けドレイクのほうには一つの頭だけが睨みを利かせる体勢となった。


「助かる。正面からだと首が斬りにくいからな」


 ドレイクは大きく踏み込みつつ、剣を振り上げた。そしてその剣に意識を集中し、魔力を注ぎ込む。


光武強襲刃レイブレイド!」


 ドレイクの持つ剣が光を放つ。光はすぐに凝縮し、光の刃となって剣を覆った。ドレイクはその剣をディオのほうに向いていたケルベロスの頭の一つに振り下ろす。一瞬だけ闇の中に光の残像がベールを形作る。剣は何の抵抗もなくケルベロスの首をすり抜けた。


 ドレイクは剣の刃を返すと、今度は別の首を狙って下から剣を振り上げる。再び剣はすり抜けるようにケルベロスの首を通り過ぎた。


(外したのか? あの攻撃の後ではケルベロスの反撃を躱せんぞ!)


 ディオがドレイクの動きを見て焦る。だがそう思ったのもつかの間、ケルベロスの頭が下にズレたかと思うと、そのまま滑るように落ちて行った。頭が地面に落ち、ガシャンと耳障りな音を立てる。もう一つの頭も同様に地面に落ちた。


(あの硬い体をあんなにスムーズに斬ったのか!?)


 ディオが驚愕する。ケルベロスは残った頭でドレイクに襲い掛かろうとしていた。その動きはさきほどまでより明らかにぎこちない。しかし渾身の一撃を繰り出した後のドレイクは、まだ体勢が崩れたままだった。


「こいつめ!」


 ディオはその頭の首元に剣を突き出す。ガツンと硬い手応えがあったが、剣の切っ先は装甲を貫き、ケルベロスの首に深々と刺さった。ケルベロスが暴れだすが、その動きにいままでの力強さはなかった。


 刺さった剣にディオは両腕の力と体重を掛ける。剣はケルベロスの首を大きく切り裂いた。半分ほど首を斬られたケルベロスがヨタヨタとよろめく。


「まぁまぁだな」


 それを見たドレイクはそう呟くと、残った頭に向かって剣を一閃した。最後の頭が地面に落ちる。するとようやくケルベロスの体は活動を停止した。


 しかし蛮族たちの恐怖は収まらず、ケルベロスから目を離すことができなかった。蛮族の一人が恐る恐るケルベロスの体に近づき、蹴りを入れる。それでもケルベロスが動かないことを確認すると、ようやく蛮族たちから安堵のため息が漏れた。


「クソ犬が!」


 蛮族の一人が怒りに任せて転がっていたケルベロスの頭の一つを蹴る。するとケルベロスの頭は唸り声をあげ、その足に噛みつこうとするかのように口を閉じた。


「ひぃっ!」


 蛮族が悲鳴を上げ、慌てて足を引っ込める。身動きできないケルベロスの頭は何度も噛みつこうとする動作を見せていた。


「気を付けろ、まだ首には魔力が残っている」


 ドレイクがその頭を蹴り上げる。ケルベロスの頭が宙を舞い、民家の壁に当たって落ちた。


 そしてドレイクは塔のほうへと視線を向ける。そこには震えながら蛮族たちの様子を窺っている、ラーベル教の司祭が見えた。



お読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ